誘発地震

誘発地震(ゆうはつじしん)は、巨大地震に誘発されてその震源域から離れた場所で発生する地震である。波及地震広義の余震、あるいは連鎖地震とも呼称される。また、特に本震から遠方の地域で誘発された地震を遠方誘発地震と呼ぶ場合がある[1]

概要[編集]

主に巨大海溝型地震発生後の関連プレートにおいて、余震とは異なり本震の震源域以外の場所で大陸プレート内(活断層型)及び海洋プレート内地震、あるいはその他の海溝型地震が発生する場合などがある。これは巨大地震による大規模な地殻変動は広範囲に影響を及ぼすことがあり、プレート内(主に活断層)やプレート境界においてもこれまで加わっていた応力の急激な変化や大きな歪みを与えている可能性などが考えられている[2]マグニチュード (Mw) 9以上を記録した2004年のスマトラ島沖地震や2011年の東北地方太平洋沖地震では誘発地震と推定される地震が発生している。

また、大陸プレート内地震(活断層における直下型地震)の発生後にも離れた地域において地震が誘発される場合がある。陸上の活断層における3連動型地震としても知られる1992年にアメリカカリフォルニア州で発生したランダース地震英語版(Mw 7.3)[3]では、地震発生の約3時間後に約40km離れた場所でM6.4の大きな地震が発生しており、誘発地震の重要性が認識されるきっかけとなった[4][5][6][7]

これらの一般的な誘発地震のケースとは別に、巨大地震では遠地に地震波が到達する過程で一緒に伝播した長周期の地震動(表面波)の影響によっても地震が誘発されることがある。前述の東北地方太平洋沖地震では、本震直後に神奈川県の箱根町で数回の局地的地震が立て続けに発生している[8](詳細は「東北地方太平洋沖地震#誘発地震」を参照)。

一方、1854年に発生した安政東海地震とその約32時間後に発生した安政南海地震、1944年に発生した東南海地震と2年後の1946年に発生した南海地震など、間隔を空けて発生する連動型地震とされるものも見方によっては“巨大地震により誘発された地震”という意味で誘発地震と言えなくもないが、連動型地震との大きな違いは関連性があるとみられる二つの地震の震源域が重複、または隣接しておらず、離れているということである。また、1995年に発生した兵庫県南部地震と18年経過してから周辺の活断層で発生した淡路島地震の例など、大陸プレート内の活断層で巨大直下型地震が発生した後に時間を置いてから別の活断層で直下型地震が発生するケースもあり、これは巨大地震による地殻変動やそれによる歪みの蓄積など何らかの影響により後の地震が誘発された可能性も考えられる[9][10]が、先の例では連動型地震の観点から見ると時間が経過しすぎている上に、果たして余震といえるのか誘発地震といえるのか判断が難しい[11]。なお、本項では「ある地震の震源域から離れた地点において誘発されたと推定される地震」のみを扱う。

誘発地震が発生する仕組み[編集]

誘発地震が発生する仕組みは2022年現在、十分に解明されていない。しかし、巨大地震の場合は強い表面波が応力擾乱を起こしながら伝播することで、地震を誘発していくことが明らかとなっている[8][12]

直接原因とされる大きな本震が海溝型地震などプレート変動に起因していると考えられる場合は、そのプレート全体で広範囲にわたり歪みがもたらされたと考えられ、もともと歪みが多く蓄積されていた箇所の周辺で地震が多発する傾向が確認されている[12]。距離的に、また時間的に原因となる本震に近い周辺地域で地震が発生しても地震の原因はさまざまであり、一概にそれが誘発されて発生した地震か、独立した原因で発生した地震かの区別は難しい。長期的な観測と統計の結果、当該の地震が誘発地震の可能性が高かったと認識されることはある[13][14]

類似の概念[編集]

誘発地震を以下の様に細分化する考え方がある。

連鎖地震
隣り合う別の地震発生区間の活動による地震。事例として以下のものが考えられる。
続発地震[18]
横山泉 (1971) は、続発地震は相互に直接的に断層運動による繋がりが無く、応力を通して作用するもの[19]とした。
震源域から離れた地点において誘発されるもので、本項で主に扱っている。

誘発地震の例[編集]

以下は大きな地震(本震)の後に発生した誘発地震と推定される地震の例である[20]。但し、近い時期に偶然発生した地震が含まれている可能性もある。また、近代以前の地震[注 1]については地震の規模、型、被害地域ともに当時の記録や地質調査などによる推定である。日本で発生したものと日本国外で発生したものに分けて記載する。

日本国内[編集]

日時は日本標準時 (JST)。

本震:慶長伊予地震(1596年9月1日発生/M 7.0/大陸プレート内
本震:延宝八戸沖地震[注 2](1677年4月13日発生/M 7.2-7.5/海溝型
  • 延宝房総沖地震(同年11月4日発生/M 8.0/海溝型)
  • 宮城県北部沖地震(1678年10月2日発生/M 7.5/海溝型)
本震:宝永地震[注 3](1707年10月28日発生/M 8.4-Mw 8.7/海溝型)
  • 23日後、長門国佐波郡上徳地村(現在の山口市徳知)で倒家289軒、死者3名の被害を伴う局地的な地震。
  • 1714年(正徳4年)に信濃小谷村(現在の長野県大町市から白馬村)付近で M 6前半の地震。
    共に大陸プレート内(直下型)地震。
本震:安政東海地震(1854年12月23日発生/Mw 8.4/海溝型)
なお、安政東海地震の約半年前の1854年7月9日には伊賀上野地震 (M 7.4) が発生した。
本震:明治三陸地震(1896年6月15日発生/M 8.2-8.5/海溝型)
  • 陸羽地震(同年8月31日発生/M 7.2/大陸プレート内)
  • 宮城県沖地震(1897年2月20日発生/M 7.4/海溝型)
    その翌年の1898年4月23日にも宮城県沖で大きな地震 (M 7.2) が発生した。
本震:東南海地震(1944年12月7日発生/Mw 8.1-8.2/海溝型)
  • 三河地震(1945年1月13日発生/Mj 6.8/大陸プレート内)
  • 福井地震(1948年6月28日発生/Mj 7.1/大陸プレート内)
なお、東南海地震の前年の1943年9月10日には鳥取地震 (Mj 7.2) が発生した。
本震:東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日発生/Mj 8.4, Mw 9.0/海溝型)

余震域外を震源とした誘発地震と考えられる最大震度5強以上の地震。

本震:熊本地震(2016年4月16日発生/Mj 7.3/大陸プレート内)

日本国外[編集]

日時は世界標準時 (UTC)。

本震:2000年ニューアイルランド地震英語版(2000年11月16日発生/Mw 8.0/トランスフォーム断層
  • 誘発地震(2000年11月16日発生/Mw 7.8/海溝型)
  • 誘発地震(2000年11月17日発生/Mw 7.8/海溝型)
本震:2004年スマトラ島沖地震(2004年12月26日発生/Mw 9.1/海溝型)
以降もスマトラ島周辺では大きな地震が発生している。詳細は「スマトラ島沖地震」を参照。
本震:2006年千島列島沖地震 (2006年11月15日発生/Mj 7.9, Mw 8.3/海溝型)
本震:2014年アリューシャン地震英語版(2014年6月23日発生/Mw 7.9/スラブ内)
  • 誘発地震(2014年6月24日発生/Mw 6.3/大陸プレート内)

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 地震計が使用され始めたのは19世紀末から20世紀初頭であるため、ここではそれ以前の地震ということになる。
  2. ^ 青森県東方沖(三陸沖北部)で発生した地震。1968年の十勝沖地震や1994年の三陸はるか沖地震に近いものと推定される。
  3. ^ 宝永地震 (M 8.4-8.7) については4年前の1703年にM 8.1の元禄地震関東地震)が発生している。宝永地震の震源域である南海トラフ及び駿河トラフと元禄大地震の震源域である相模トラフは隣接しており、これらの地震についても関連性が指摘されている。また、このような別のプレート境界付近における誘発が指摘される地震の例として他には、869年の貞観地震(震源域:日本海溝)とその9年後に発生した相模・武蔵地震(震源域:相模トラフ或いは伊勢原断層説もあり)、1498年の明応地震(震源域:南海トラフ)とその3年前に相模トラフで発生した可能性が指摘される巨大地震などがある。
  4. ^ 飛越地震の14日後に現在の長野県北西部(大町市)で発生した地震。この付近では、宝永地震の後(7年後の1714年)にもM6程度の誘発地震が発生している。
  5. ^ 震源域は1945年三河地震と似ている[22]
  6. ^ 震源の深さは約79km、東北地方太平洋沖地震とは別のプレート境界付近で発生した。なお、茨城県南部ではこれより前の3月24日に深さ約52km地点で Mj 4.8 の地震、4月2日に深さ約54km地点で Mj 5.0 の地震が発生しているが、双方とも今回の地震とは震源域が異なっている[24]

出典[編集]

  1. ^ 2020/03/15 12:14:13発表 (Ver.3 最終報 )国立研究開発法人防災科学技術研究所
  2. ^ 日本列島陸域における誘発地震活動について(名古屋大学大学院環境学研究科〈archive.isによる2012年9月13日時点のアーカイブ〉)
  3. ^ 古地震学からみた陸上活断層による連動型地震 (PDF) (産業技術総合研究所)
  4. ^ a b 連続する地震 東の活断層や南海トラフへの影響は(朝日新聞デジタル 2016年4月16日)
  5. ^ a b 熊本地震「連鎖」に3つの可能性 前震で地下の力変化 2断層帯、実は一体 ひずみ蓄積し余震誘発(日本経済新聞 2016年5月2日)
  6. ^ 地球:地震が遠くの微小地震を誘発する仕組み(Nature ハイライト / Nature 437, 7060 / 2005年10月6日)
  7. ^ 共役断層はアメリカにも(「大陸は何故あるの?」 2015年12月1日)
  8. ^ a b 東日本大震災:本震直後に箱根で誘発地震4回、揺れ増幅し強羅は震度6弱、温地研が地震波解析/神奈川(神奈川新聞〈カナロコ〉 2011年7月18日)
  9. ^ 淡路島地震:「南海トラフ」との関連指摘も(毎日新聞 2013年4月13日、2013年4月15日閲覧
  10. ^ 淡路島地震、未知の断層が起こす…政府調査委(読売新聞 2013年4月14日、2013年4月15日閲覧
  11. ^ 阪神淡路大震災との関連「現時点で何ともいえない」「1週間、震度5の余震警戒を」 気象庁会見(産経ニュース 2013年4月13日、2013年4月15日閲覧
  12. ^ a b 東北地方太平洋沖地震による地震のダイナミックトリガリング(動的誘発作用)(京都大学防災研究所 宮澤理稔)
  13. ^ 静岡の震度6強は誘発か 富士山噴火の懸念も… 暴れる巨大エネルギー(産経ニュース 2011年3月16日)
  14. ^ 懸念される誘発地震 評価見直し 「滑り残し」警戒(産経ニュース 2011年11月22日)
  15. ^ 松田時彦, 太田陽子, 安藤雅孝, 米倉伸之, 「元祿関東地震 (1703年) の地学的研究, 関東地方の地震と地殻変動』『ラティス』 1974, p.15-192, NAID 10003542820
  16. ^ 松田時彦, 「活断層から発生する地震の規模と周期について」『地震 第2輯』 28巻 3号 1975年 p.269-283, doi:10.4294/zisin1948.28.3_269
  17. ^ 木村昌三, 岡野健之助, 「1946年南海地震直前の南海地域における地震活動の低下」『地震 第2輯』 48巻 2号 1995-1996年 p.213-221, doi:10.4294/zisin1948.48.2_213
  18. ^ 石橋克彦, 「2016年熊本地震は異例ではない : 大局的に活動の意味を考える (PDF) 」『科学』 86巻 6号, p.532-540, 2016-06, 岩波書店, NAID 40020863485
  19. ^ 横山泉, 「5.大地震によって誘発された噴火」『北海道大学地球物理学研究報告』 25巻 1971年 p.129-139
  20. ^ 過去に起きた大きな地震の余震と誘発地震(東京大学地震研究所〈archive.isによる2012年7月12日時点のアーカイブ〉)
  21. ^ 阪神大震災、原因は400年前の慶長伏見地震? 京大教授が新説(朝日新聞 2008年11月22日)
  22. ^ 【温故地震】都司嘉宣 昭和東南海地震(1944年) 愛知と北陸に直下型誘発(産経ニュース 2012年11月19日、元リンクの2013年1月3日時点のarchive.todayキャッシュ)
  23. ^ 茨城震度5強「余震とみていない」気象庁 震源は茨城南部と訂正(産経ニュース 2011年4月16日)
  24. ^ 2011年4月の茨城県南部の地震活動地震調査研究推進本部〈地震本部〉)
  25. ^ 熊本地震、次々誘発か 大分へ震源移動、専門家の見解は(朝日新聞デジタル 2016年4月17日)
  26. ^ 「余震と誘発地震について」概要(京大防) (PDF) (地震予知連絡会 会報第86巻)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]