コンビーフ

コンビーフ (英語: corned beef) とは、牛肉塩漬けにした食品。日本では缶詰の製品が普及している。

コンビーフ
欧米で一般的なコンビーフ。
スライスしたもの
提供時温度 温または冷
主な材料 牛肉、食塩
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概説[編集]

日本では一般に、塩漬けの牛肉をほぐして牛脂で固めた缶詰を「コンビーフ」と呼ぶが、本来は船の長期航海軍需品で使われる、保存食料の塩蔵牛肉である。そのため欧米では缶詰でもほぐした状態でもないブロック肉であることが一般的である。 「corned」とは、岩塩を砕いた粒状の粗塩で肉を漬けることを意味する[1]

日本農林規格 (JAS)では、「畜産物缶詰又は畜産物瓶詰のうち、牛肉[2]塩漬けにし、煮熟した後、ほぐし又はほぐさないで、食用油脂調味料香辛料等を加え又は加えないで詰めたものをいう」[3]定義される。そのまま食べたり、サンドイッチ炒め物などの材料にしたりする[4]

缶詰[編集]

日本の消費者には市販されているコンビーフは先細りの英語: tapered can)で形が台形の缶(英語: trapezoid-shaped can)が馴染み深い[5]。日本で近世に使われ始めた箱[6]に似ており、「枕缶」と呼ばれる[5]1875年アメリカ食品会社・リビー(Libby's)が、薄切りを作る為に中身を一つの塊として取り出しやすい[7]缶として発明し、採用したとされている[8]。開缶は、缶付属の「巻き取り鍵(まきとりかぎ)」などと呼ばれる缶切りの一種で缶側面の一部を帯状に巻き取って行う。当時は、欧米で缶詰が普及するきっかけとなったと言われている第一次世界大戦[9]以前は、一般人が安全に開缶できる缶切りはいまだ普及していなかった[10]。 なお、同種の分野の商品とされるランチョンミート缶の類が世に登場するのはコンビーフ缶の数十年後で、枕缶は使われていない[11]。例えば、アメリカのホーメルフーズ社(Hormel Foods Corporation)スパム(SPAM)を生産開始したのは1937年である[11]

ノザキのコンビーフ[編集]

ノザキのコンビーフ・ニューコンミート(枕缶)

日本では1948年に国産コンビーフの市販を瓶詰めで初めて開始した商社野崎産業[12]の食品部門(現・川商フーズ[13][14]1950年に国産初のコンビーフ缶詰を発売している。この商品の開発と製造は日東食品製造(現・日東ベスト)が担当している[15][16]。 枕缶を使う理由として、製造する際に面積が大きい側から肉を詰め、缶内部の空気を抜く(脱気する)事で肉の酸化を防止できるとしている[17]。一方、製造時に食品を入れた容器を密封前に加熱して内部の空気を抜く事は「加熱脱気」と呼ばれる[18]。加熱脱気は密閉容器を使って食品を長期保存する発明の基本原理である[19]。この方法は簡易なものになる場合が有るが、家庭で瓶詰めを手作りする際にも使われる[20]。 日本で生産された缶詰の出荷量が輸出より国内向けが多くなるのは1955年(昭和30年)以後とされる[21]。国産コンビーフ缶詰が発売された頃の日本国内での缶詰の普及状況は、先に述べたアメリカと似た様なものであった。

枕缶の人気は圧倒的に高いとされ[5]、バリエーションが存在する[22]。標準的な丸型の缶詰は"ノザキのコンビーフ860g"[23]、"ノザキのニューコンミート860g"[24]や、自衛隊副食用缶詰の一種として防衛省仕様[25](DSP-Defense Specifications)[26]番号N 5106[27]で定義されるコーンドミート缶詰等、少数派となっている。

しかし枕缶には、巻き取り鍵を失くしたり[28]、開ける途中で缶の帯が千切れる事がある[29]、開缶方法が分からない人がいる[30]などという問題点が有り、プルトップ缶とも呼ばれるEO缶[31]が発売されている。缶詰は容器のままの保存がしにくい、ゴミ分別に手間が掛かるなどの不便を解消した事などをアピールした可燃容器入りの商品も販売されている[30]。川商フーズも販売開始から70年経ち枕缶の製造ラインが寿命に達したことを理由に枕缶の使用を終了、枕缶の台形デザインを維持したまま底面部のシールをはがして開けるアルミック缶[32]を採用、2020年3月から発売することを発表している[33]

日本以外のコンビーフ[編集]

諸外国では、缶詰ではないブリスケットなどのブロック肉を塩漬けした生のコンビーフが販売されている。アメリカやヨーロッパで一般的な生コンビーフの料理としてはルーベンサンドと呼ばれるサンドイッチが有名なほか、キャベツと煮こんだコンビーフ・アンド・キャベジは、アメリカにおけるアイルランド料理定番となっている。またブラジルペルーなどではシャルケと呼ばれる塩漬け肉が一般的で、フェイジョアーダなどの料理に使用される。 アルゼンチンやブラジルなどでは輸出用のコンビーフ缶詰が多く製造されており、牛肉をほぐさず茹でる方法で調理されるものもある。2011年現在ブラジルが世界の缶詰コンビーフの80%を供給している[34]。日本に輸入されているコンビーフ缶詰も、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイなど南米諸国で製造されたものが大部分を占める。

イギリスでは第一次世界大戦の頃から陸軍海軍でこの缶詰が食料として用いられていた。イギリスではBully beefとも呼ばれる[35]。アメリカで一般的な生のコンビーフはイギリスではSalt Beefと呼ばれる[36][37]

ウルグアイでは“フライ・ベントス”の名前で1873年よりイギリスなどへ輸出され始めた。

コンビーフの日[編集]

4月6日の「コンビーフの日」は1875年同日にアメリカで枕缶の特許が認められた事が由来である[38][39]。 また、3月17日聖パトリックの祝日(せいパトリックのしゅくじつ、英: St Patrick's Day、セントパトリックス・デー)はカトリックにおける祭日であり、アイルランド共和国祝祭日であるが、この日にアメリカではコンビーフ・アンド・キャベジを食べる習慣があるともされ、一部では「コンビーフ・アンド・キャベジ・デー」[40]という記念日扱いする場合がある。

ニューコンミート(旧称・ニューコンビーフ)[編集]

日東食品製造馬肉を中心とした雑肉を主原料とする缶詰を開発し、発売元の野崎産業が自社名を冠して「ノザキのニューコンビーフ」という商品名で1961年(昭和36年)に発売した[41]

農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)2005年(平成17年)6月改正で、日本農林規格(JAS)における缶詰の表示を定めた「畜産物缶詰及び畜産物瓶詰の日本農林規格」[3]他の関連する基準も改正された。これによってコンビーフの名称は牛肉100%の物のみに使用できることとなり、馬肉など他の肉が使われている物はコーンドミートと表記するように定められた。またコーンドミートの内、馬肉と牛肉が使われており、そのうちの牛肉重量が20%以上のものはニューコーンドミートもしくはニューコンミートと表記することが許可された。2006年(平成18年)3月の法律施行にあわせ、「ノザキのニューコンビーフ」は「ノザキのニューコンミート」と名称が変更された。 前述の通り、野崎産業は合併・分社化などの再編を経て食品部門は2014年現在、JFEグループJFE商事の100%子会社である川商フーズとなっており[13][14]、「ノザキの〜」のブランド名を継承している[42]日本の商標制度に於いて商標権は設定していない。

コンビーフハッシュ[編集]

ほぐしたコンビーフと茹でて細かく賽の目に切ったジャガイモを混ぜ合わせた食材である。アメリカ合衆国ではポピュラーな食材として缶詰や冷凍食品などとして流通している。日本では沖縄県においてのみ非常に普及しており、県産の缶詰や1食分のレトルトパウチなども製造されている。また近年では沖縄独自の商品として、牛肉の代わりに豚肉や鶏肉を用いた「コンポークハッシュ」「コンチキンハッシュ」なども開発されている。

朝食料理の付け合せに使用されるほか、沖縄では野菜炒めチャンポン焼きそばなどの具材として、また、マヨネーズと混ぜてパンに塗るなどの方法でも利用されている。小判状にまとめて焼いたり、コロッケとして調理する食べ方もある。

ジャガイモが入っているため「畜産物缶詰及び畜産物瓶詰の日本農林規格」[3]等の基準では「コンビーフ」に該当せず、「牛肉野菜」と表示されている。

備考[編集]

会田雄次の著書「アーロン収容所」によれば、イギリス軍の日本兵捕虜収容所内における給食の中でも、飯盒で炊いたごはんにコンビーフを混ぜたものがご馳走として日本兵に喜ばれたという(ただし中には戦場で目にした、の涌いた死体を連想して食欲を失った者も多かったという)。また、大岡昇平の著書「俘虜記」においても、レイテ島の捕虜収容所の給食としてコンビーフを混ぜた粥が提供されている。

野崎産業の宣伝活動として有名なもので、高度経済成長期から国鉄の送電線の鉄塔や首都圏主要路線(山手線中央本線京浜東北線沿線など)の電柱に設置された「ノザキのコンビーフ」看板がある。この看板は2000年代まで見られたが、近年は老朽化や駅構内のリニューアル工事に伴い多くが撤去されている。[要出典]

脚注[編集]

  1. ^ 「corn」は現在は主としてトウモロコシを意味する単語だが、中期英語までは穀物全般、ひいては一般に粒状のものを意味した。
  2. ^ 牛肉以外の食肉を用いると、コーンドミートになる
  3. ^ a b c 畜産物缶詰及び畜産物瓶詰の日本農林規格農林水産省
  4. ^ ノザキのコンビーフ-コンビーフのいろは そのままで食べられるの?
  5. ^ a b c ノザキのコンビーフ-コンビーフのいろは どうして台形なの?
  6. ^ 枕博物館-近世の枕富士ベッド工業株式会社
  7. ^ The Guarian-Notes and Queries-Why are corned beef tins such peculiar shapes?イギリスガーディアン紙(英語)
  8. ^ Libby's-Our Historyリビー社(英語)
  9. ^ Canning-World War I英語版Wikipedia
  10. ^ Can opener-First, lever-type can openers英語版Wikipedia
  11. ^ a b Hormel Foods-Company Historyホーメルフーズ社(英語)・社史の1937年の記述はSPAM缶の写真付き
  12. ^ コトバンク-野崎産業とは
  13. ^ a b ノザキのコンビーフ-コンビーフの歴史 川商フーズと野崎産業の歴史
  14. ^ a b 川商フーズ-沿革
  15. ^ ノザキのコンビーフ-コンビーフのいろは ノザキのコンビーフの誕生秘話
  16. ^ ノザキのコンビーフ-コンビーフの歴史
  17. ^ ノザキのコンビーフ-コンビーフのいろは ノザキのコンビーフの作り方
  18. ^ 日本製缶協会-製缶技術の変遷・金属缶の歴史 金属缶の誕生
  19. ^ 日本製缶協会-製缶技術の変遷・金属缶の歴史 はじめに
  20. ^ 空気を暖めて追い出すことで、酸化を防いだり、保存性を高めることがで きますアヲハタ-ジャムマガジン-手作りジャム入門
  21. ^ 日本缶詰びん詰レトルト食品協会-かんづめハンドブック-1 缶詰のあゆみ
  22. ^ ノザキのコンビーフ-コンビーフのいろは コンビーフの仲間達
  23. ^ ノザキのコンビーフ-製品のご案内 コンビーフ860g
  24. ^ ノザキのコンビーフ-製品のご案内 ニューコンミート860g
  25. ^ 防衛省仕様書防衛省
  26. ^ Reference to Defense Specifications (DSP)防衛省
  27. ^ 防衛省仕様書及びその目録防衛省・仕様書番号の末尾の英文字と丸括弧で示される数字はバージョン表示
  28. ^ 缶切り#巻取式
  29. ^ ニッポン・ロングセラー考-ノザキのコンビーフ-必然性から採用された台形の缶詰と巻き取り鍵COMZINE by NTTコムウェア
  30. ^ a b 明治屋ニュース 2012/6/29
  31. ^ ノザキのコンビーフ-コンビーフの歴史-2011年9月 平成23年 「コンビーフEO缶」発売
  32. ^ アルミック缶 昭和電工
  33. ^ nozaki1948のツイート(1217250132506353664)nozaki1948のツイート(1217250837212401664)nozaki1948のツイート(1217251584574357504)
  34. ^ Palmeiras, Rafael (2011年9月9日). “Carne enlatada brasileira representa 80% do consumo mundial”. Brasil Econômico. 2015年5月11日閲覧。
  35. ^ Bully Beef 2016-04-14閲覧
  36. ^ You can make your own salt beef - just don't forget to tell your other half you'll be taking over the fridge”. Mail Online (2011年2月26日). 2016年2月20日閲覧。
  37. ^ Salt beef, corned beef”. separated by a common language (2007年9月30日). 2016年2月20日閲覧。
  38. ^ 午後は○○おもいッきりテレビ-きょうは何の日 4月6日金曜日 コンビーフの日(平成4年・1992)日本テレビ
  39. ^ ノザキのコンビーフ-コンビーフのいろは 4月6日は「コンビーフの日」
  40. ^ National Corned Beef And Cabbage Day, March 17Food.com(英語)
  41. ^ ノザキのコンビーフ-コンビーフの歴史-1961年 昭和36年 「ニューコンビーフ」(現ニューコンミート)発売
  42. ^ ノザキのコンビーフ-コンビーフのいろは ノザキブランドの「ノザキ」とは?

関連項目[編集]