黒部峡谷鉄道本線

本線
黒部峡谷鉄道EDR形電気機関車
黒部峡谷鉄道EDR形電気機関車
基本情報
通称 黒部峡谷トロッコ電車
日本の旗 日本
所在地 富山県黒部市
起点 宇奈月駅
終点 欅平駅
駅数 10駅
開業 1926年昭和元年)10月23日
運営者 黒部峡谷鉄道
使用車両 黒部峡谷鉄道#車両を参照
路線諸元
営業キロ 20.1
軌間 762 mm (2 ft 6 in)
線路数 単線
電化方式 直流600 V 架空電車線方式
最高速度 最高25km/h[1]
路線図
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駅・施設・接続路線
DST
一般旅客乗降不可駅
BHF
一般旅客乗降可能駅

STR
地鉄本線
KBHFe KDSTa
宇奈月温泉駅/車両基地
BHF
0.0 宇奈月駅
eKRWgl exKRW+r
hKRZWae exhKRZWae
新山彦橋 山彦橋 黒部川
TUNNEL1 exTUNNEL1
eKRWg+l exKRWr
TUNNEL1
DST
2.1 柳橋駅
KBSTaq ABZgr
新柳河原発電所
TUNNEL1
TUNNEL1
TUNNEL2
TUNNEL1
DST
5.1 森石駅
TUNNEL2
TUNNEL2
BHF
6.5 黒薙駅
ABZgl STRq
関西電力黒部専用鉄道
TUNNEL1
黒薙支線
DST
7.0 笹平駅
TUNNEL2
DST
9.1 出平駅
TUNNEL2
TUNNEL2
TUNNEL1
hKRZWaeq ABZg+r
黒部川
DST
11.8 猫又駅
TUNNEL2
TUNNEL1
hKRZWae
黒部川
TUNNEL1
BHF
14.3 鐘釣駅
TUNNEL2
TUNNEL1
TUNNEL2
TUNNEL2
DST
17.5 小屋平駅
ABZgl KBSTeq
小屋平ダム
TUNNEL1
TUNNEL2
TUNNEL1
TUNNEL2
BHF
20.1 欅平駅
STR+l ABZgr
tSTRa TUNNEL2
tSTR KBSTe
新黒部川第三発電所
tSTR
関西電力黒部専用鉄道

本線(ほんせん)は、富山県黒部市宇奈月駅から欅平駅までを黒部川に沿って走る黒部峡谷鉄道鉄道路線である。

路線データ[編集]

  • 路線距離(営業キロ):20.1km
  • 軌間:762mm
  • 駅数:10駅(起終点駅含む)
  • 複線区間:なし(全線単線)
  • 電化区間:全線(直流600V)
  • 閉塞方式:自動閉塞式
  • 最高速度:25km/h[1]
  • 保安装置:ATS

概要[編集]

一般旅客向けのトロッコ列車(公式愛称は「トロッコ電車」)が運行される観光鉄道であるが、元々は電源開発のための専用鉄道であり、現在でも沿線にあるダム・発電所への資材運搬列車や、関西電力関係者専用列車が運行されている。

全列車が機関車牽引による客車列車で、側面がフルオープンの開放型客車、通常の客車と同様な密閉型の特別客車・リラックス客車などの客車がある。特別客車・リラックス客車には特別料金が必要で、また、後者ほど静音性(遮音性)が高い。運行ダイヤは時期により若干変動するが、宇奈月発は8時台 - 14時台、欅平発は10時台 - 16時台にかけて、毎時1 - 2本の頻度で運行している。

黒部峡谷は冬期の積雪が多く、雪崩による被害の危険性が高いことから冬期(12月 - 翌年4月中旬)は運休する。鐘釣駅上流にあるウド谷橋では沿線で唯一、雪崩対策のため運休期間中は線路と鉄橋を撤去してトンネル内に保管している[2]。トンネル区間を除き、ほぼ全線にわたって線路沿いにコンクリート製のシェルター状のものが並行しているが、これは冬期の運休期間中に関西電力関係者がダムや発電所との間を徒歩で移動するための「冬期歩道」である[3]。冬期歩道では「逓送さん」と呼ばれる建設会社職員らが物資輸送に当たる[4]

沿線途中の森石駅黒薙駅間の南側からは中部山岳国立公園の特別地域に属し、欅平駅は特別保護地区に属する。

2008年10月10日からは、関西電力関係者専用列車を除く全旅客列車を対象に、専用チケット予約サイトでのインターネット予約(乗車日の3か月前から2日前まで可能)を実施している。2009年5月からは地元富山県出身で女優の室井滋が車内放送を担当している。

関西電力関係者専用列車には一般旅客は乗車できないが、繁忙期には一部の列車に一般旅客を乗せることもある。

トロッコ電車

歴史[編集]

1926年昭和元年)、日本電力(日電)が黒部川沿いの電源開発を目的として宇奈月駅・猫又駅間を開通させたのが始まりである。1937年(昭和12年)に、現在の終点の欅平駅まで開通した。当初は建設用の資材や作業員を輸送するための専用鉄道だったが、登山客や一般観光客からの乗車希望が絶えなかったので、便乗という形で乗車を認めることにした。乗客に発行した「便乗証」(乗車券)には、注意事項のひとつに「便乗ノ安全ニ付テハ一切保証致シマセン」と記されていた[5]。この鉄道は、1941年(昭和16年)10月に日本電力から日本発送電へ、1951年(昭和26年)5月に日本発送電から関西電力へと引き継がれた。

乗客の増加と地元の強い要望から、1953年(昭和28年)に地方鉄道法による免許を受けて、同年11月16日から正式な鉄道路線として営業を開始した。

1965年(昭和40年)8月8日、小屋平駅 - 四ツ平駅間で落石が発生。30 - 50 cm程度の落石が宇奈月駅行列車の客車を直撃して1人が死亡、4人が負傷した[6]

1971年(昭和46年)7月1日に関西電力から分社化され、黒部峡谷鉄道となった。

1981年(昭和56年)12月、宇奈月ダム建設工事により一部路線が水没する関係で新ルートへの付替え工事に着手しし[7]1988年(昭和63年)4月29日に宇奈月 - 柳橋間約1.8 kmの区間を新山彦橋を通るルートに変更された[8]

1995年平成7年)の7.11水害では甚大な被害を受け、欅平までの完全復旧は翌1996年(平成8年)7月20日となった[9]

2024年(令和6年)1月9日、同年1日発生の能登半島地震により鐘釣駅手前の鐘釣橋で落石により枕木の一部落下や橋桁の鉄骨のゆがみ等の被害が発生したことが公表された[10]。この復旧工事のため、全線開通時期が例年の5月から10月にずれ込む見通しとなっている[11]

運行形態[編集]

すべての列車が宇奈月駅を発着する。旅客列車は時期により笹平駅で折り返す折り返し運転、宇奈月駅 - 鐘釣駅間の折り返し運転、宇奈月駅 - 欅平駅間の全線と運行区間が変わる。冬期は運行を休止する。

一般旅客が利用可能な駅は宇奈月駅、黒薙駅、鐘釣駅、欅平駅の4駅である。笹平駅で折り返す列車の場合、笹平駅ではトイレ休憩として車外に出ることはできるが、駅の外に出ることはできない。

2021年には欅平行きで黒薙駅を通過する列車が存在したが、2022年、2023年ではすべての旅客列車が黒薙駅を含め上記の4駅に停車している。

駅一覧[編集]

駅名 駅間キロ 営業キロ 旅客列車 接続路線・備考
宇奈月駅 - 0.0 富山地方鉄道本線宇奈月温泉駅: T41)
柳橋駅 2.1 2.1 一般旅客乗降不可
仏石駅       廃止
森石駅 3.0 5.1 一般旅客乗降不可
黒薙駅 1.4 6.5  
笹平駅 0.5 7.0 一般旅客乗降不可

時期により宇奈月からの列車がここで折り返す

出平駅 2.1 9.1 一般旅客乗降不可
猫又駅 2.7 11.8 一般旅客乗降不可
鐘釣駅 2.5 14.3  
四平駅       1968年以降廃止
小屋平駅 3.2 17.5 一般旅客乗降不可
欅平駅 2.6 20.1  

●:全て停車、▲:一部停車、|:通過または運転停車のみ

新山彦橋

有人駅は宇奈月駅・黒薙駅・鐘釣駅・欅平駅で、一般旅客が乗降できるのもこれらの駅のみである。他の駅は無人駅で、現在も電源開発のための専用鉄道として営業を続けているため、関西電力関係者に利用が限定されている。なお、笹平駅のホームにはトイレが設置されており、列車交換のための停車時間が長い場合のみホームに降りることができるが、駅の外に出ることはできない。

運転開始となる毎年4月下旬は、宇奈月駅 - 笹平駅・出平駅・猫又駅・鐘釣駅の折り返し運転となる。出平駅・猫又駅はこの場合も下車できず、同じ列車で乗車したまま折り返すことになる。

欅平駅より先は上部軌道(関西電力黒部専用鉄道)が繋がるが、原則として関西電力関係者以外は乗車できない。ただし、関西電力が主催し富山県が協賛する「黒部ルート見学会」に応募し、当選すれば乗車することが可能である。

その他[編集]

手前に山彦橋、後方に宇奈月温泉街(新山彦橋からの撮影)
  • 道中に岩が張り出している箇所がある。途中でヘルメットを借りることができる。
  • 宇奈月温泉のほか、沿線には黒薙温泉鐘釣温泉名剣温泉といった温泉がある。
  • 宇奈月駅を出たところにある赤い鉄橋(写真等で有名な山彦橋)を含む区間は、宇奈月ダム建設に伴うルート変更で掛け替えられている(新山彦橋、1986年9月竣工、1988年4月運用開始[7])。旧ルートは当初新山彦橋供用開始後に撤去される予定であった[12]が後に撤回され、橋を含むその一部が「詩の道散歩道 やまびこ遊歩道」として整備されており[13][14]、橋のほかにトンネルや使用されなくなった冬季歩道(鉄道が運行しない冬季において、徒歩で人間が移動するためのトンネルのこと)内を歩くことが可能である。
  • 沿線で携帯電話が利用できるのは長らく宇奈月駅と欅平駅周辺のみであったが[15]、2016年からは鐘釣駅周辺でも利用可能となった[16]
  • 冬季の運転休止期間中、主に週末に宇奈月駅構内にてDD形ディーゼル機関車を用いた体験運転を実施している[17]
  • 太平洋戦争戦時中は、宇奈月温泉街の近くの鉱山で採掘されたモリブデン(兵器の強度を高める地下資源)を運搬するインフラとしても使用されていた[18]

脚注[編集]

注釈[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b 寺田裕一『改訂新版 データブック日本の私鉄』 - ネコ・パブリッシング
  2. ^ 黒部峡谷鉄道 黒部峡谷マニアックス
  3. ^ 松本典久「温泉発秘境行きV字谷を走る 黒部峡谷鉄道」(『にっぽん週刊川紀行』3号(黒部川)、学研、2004年5月11日・18日号)、25頁。
  4. ^ “富山)黒部峡谷の「逓送さん」と冬期歩道を歩く”. 朝日新聞. (2018年1月19日). https://www.asahi.com/articles/ASL193R8RL19PUZB005.html 2020年11月11日閲覧。 
  5. ^ 乗客に生命の保証をしない旨を告げていた鉄道としては、このほか木曽森林鉄道などが挙げられる。
  6. ^ 「軌道電車へ落石 一人死に四人負傷」『日本経済新聞』1965年8月9日、11頁
  7. ^ a b 『宇奈月ダム工事誌 写真集』国土交通省北陸地方整備局黒部工事事務所、2002年3月、pp.9 - 10。
  8. ^ 「黒部峡谷観光が幕開け 県外客ら新緑美満喫」『北日本新聞』1988年4月30日朝刊、20頁。
  9. ^ 「黒部峡谷鉄道 20日から全線開通 沿線旅館も営業再開『北日本新聞』1996年7月17日朝刊、27頁。
  10. ^ 「鐘釣で橋桁・枕木損傷 黒部峡谷鉄道 全線開通に遅れも」『北日本新聞』2024年1月10日、27頁。
  11. ^ 『北日本新聞』2024年3月8日付1面『キャニオンルート 一般開放 10月に延期 地震で鐘釣橋損傷』より。
  12. ^ 「朱塗りの大橋 新山彦橋完成」『北日本新聞』1986年9月21日朝刊、20頁。
  13. ^ 宇奈月まち歩き - 宇奈月温泉
  14. ^ 「トロッコ電車が走る山彦橋」『魚津・黒部・下新川写真帖』郷土出版社、2007年4月15日、p.64。
  15. ^ よくあるご質問 - 黒部峡谷鉄道(2016年7月16日閲覧)
  16. ^ 携帯電話開通について! - 黒部峡谷鉄道(2016年7月16日閲覧)
  17. ^ トロッコ電車 冬のスペシャル企画!「黒部峡谷トロッコ電車 運転体験会」開催について
  18. ^ 「宇奈月100年ものがたり 5 戦争と大火 再建・復興へ住民結束」『北日本新聞』2023年3月26日、26頁。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]