鴸。明代の木版画。
―『山海経』。崇禎帝時代 1628–1644年の版本[1]

しゅは、『山海経』「南山経」に記載される怪鳥。梟に似た人間の手を持つ鳥で、鴸が現れた場所では多くの官吏が追放されるという不吉な鳥。

読み[編集]

鴸は「シュ」(「ショ」)と読むと日本の字引にみえる[注 1][2]

中国読みはジュ(拼音: zhū[3]

原典[編集]

形状はフクロウに似て、人の手をもつ怪鳥が、柜山くさん(「ヤナギ」の意の山)に棲んでいると『南山経』に記される。その鳴き声は痺(ウズラの雌[5])に似ており、その鴸と言う名称も、鳴き声にちなむ。人の目にふれることあれば、それはその県で多くの放士(官吏の放逐)がされる予兆だとしている[4][6][7]

『事物紺珠』では「人面人掌」であるとする[4]

考察[編集]

鳴き声[編集]

その鳴き声の擬音語がそのまま鳥名となったという例は、ほかにも鳧徯(「西山経」)等があり、日本の例ではカッコウが挙げられる[7][注 2]

凶兆[編集]

『図賛』では、鴸の出現を、鯨が波打ち際で死ぬ、彗星がよぎるという凶兆と比べている[4][6]。ただし、鯨の死と彗星の予兆を二つの別々の凶兆とするのは曲解で、『淮南子』天文訓で鯨の死が彗星を予告するのであり[9]、同書で挙げる八つの予兆(八物)の中に[注 3][10]鴸は含まれない。

また鵃鵝とうがという鳥(陶淵明の詩『讀山海經』其十二)は、この鴸のことであり、詩中に楚の懐王がしのばれるというのは、屈原という能吏を放逐したこの王のところへもこの兆候鳥は現れていただろうという言及である[4][6][11]

梟に似た凶兆鳥の例は、『山海経』においても他にいくつかある[注 4]

人面鳥と讙頭人[編集]

あくまで『山海経』じたいの文にしたがうならば、人の手を持つ鳥には属すが、人面鳥には属さない[13]

しかし、前述したように「人面人掌」とする書物もみつかる(『事物紺珠』)[4]

そして讙頭人という有翼で嘴をもつ民族(「海外南経」)を鴸と同定する近代の考察がある。この讙頭人と、堯の臣の讙兜が南海で罪を負って自殺した故事とを郭璞注では関連付けているが[14]、讙兜とは堯の子丹朱のことであり、その末裔が讙頭国という鳥人国を建国したという伝説があった、と現代神話学者の袁珂が解き明かす。そして丹朱の伝説と(字面の似た)鴸の伝説は、換骨奪胎、もともと同じ伝説の異聞に過ぎないと論じている[15]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 「ニハトリニニタルトリ」と語意が添え書きされる。
  2. ^ 『山海経』の鳥類では、他にも瞿如中国語版畢方鳥中国語版、竦斯、䴅鳥が鳴き声にちなむ名称だとされる[8]
  3. ^ 陽燧日(>日月食)、方諸月、虎嘯、龍舉、麒麟鬭、鯨魚死(>彗星出)、蠶(カイコ)の珥絲、賁星墜で八物。
  4. ^ 四ツ目で梟似の「」、鴟に似た、鴞の如くな「」。鴟鴞ともにフクロウを指す[12]

出典[編集]

  1. ^ 郭璞 (1628–1644). “南山經 巻之一 第四圖”. 山海經 18巻. 蔣應鎬 (画); 李文孝 (刻). 汪彝伯. 第7葉裏-8葉表. https://www.loc.gov/resource/lcnclscd.2001530410.1A001/?sp=8&r=-0.173,0.22,1.532,0.66,0 
  2. ^ 高井蘭山三音四声字貫』《亥巻 鳥部 六画》市川清流 校訂、博文館、1901年、64頁https://books.google.com/books?id=6x8uAAAAYAAJ&pg=PP2013 
  3. ^ @ Chinese Text Project
  4. ^ a b c d e f 吳任臣 (1782), “卷01 南次二經” (中国語), 山海經廣注 (四庫全書本), ウィキソースより閲覧。 
  5. ^ 呉任臣の注[4]
  6. ^ a b c Strassberg, Richard E., ed (2018). “18. Zhu-bird (Zhu) ”. A Chinese Bestiary: Strange Creatures from the Guideways Through Mountains and Seas. University of California Press. pp. 91–92: Plate V (左). ISBN 978-0-52029-851-4. https://books.google.com/books?id=fnpFDwAAQBAJ&pg=PA91 
  7. ^ a b 矢島明希子「中国古代における鳥の声 : 倉庚を端緒として」『慶應義塾中国文学会報』第2巻、慶應義塾中国文学会、2018年、34頁、ISSN 2432-8936CRID 1050001339172195072 
  8. ^ 杤尾 (2017), p. 36.
  9. ^ 徐國智『陶方琦及其《淮南許注異却詁》研究 [The Study of Tao Fang-chi and his The study of the Xu Shen's Commentary on the Huainanzi]』中國文化大學文學院中國文學研究所、2010年6月、52頁http://ir.lib.pccu.edu.tw/retrieve/58276/gsweb.pdf 
  10. ^ 坂本具償、財木美樹「『春秋繁露』訳注稿 必仁且智・郊語・求雨・止雨篇」『高松工業高等専門学校研究紀要』第43巻、香川高等専門学校、2008年3月、92頁、ISSN 03899268CRID 1574231876970570112 
  11. ^ 加藤文彬「陶淵明「讀山海經」詩十三首考」『六朝學術學會報』第14巻、2013年、34頁。 
  12. ^ 劉宗迪; 陸薇薇「妖怪の誕生 : 『山海経』における霊異な動物」『関西学院大学社会学部紀要』第137巻、133-146頁、2021年10月。hdl:10236/00029842ISSN 0452-9456CRID 1050008389823506048https://hdl.handle.net/10236/00029842 
  13. ^ 杤尾 (2017), p. 36。同論文は、人面鳥の分類に(30)瞿如と、(122)人面鴞中国語版を挙げている。しかし橐蜚 tuofei, 瞿如 juru , 顒 yú などいくつも撰に漏れている。
  14. ^ 吳任臣 (1782), “卷06 海外南經” (中国語), 山海經廣注 (四庫全書本), ウィキソースより閲覧。 
  15. ^ 袁珂"丹朱死後" 山海經校注』上海古籍出版社、1980年https://books.google.com/books?id=5JkEAAAAMAAJ&q="丹朱死後" 山海經海經新釋卷五》33@Ctext Project 参照
参照文献

関連項目[編集]