みぞれとは、が混ざって降る気象現象である[1]

しくみ[編集]

冷たい上空のから降ってくる雪片気温が高いと解けて雨になるが、解けきらずに降る雪と解けきった雨がともに降るのが霙[2]

松本市のデータに基づく雨雪判別図。縦軸が湿度(%)、横軸が気温(℃)、でsnow(雪)/sleet(霙)/rain(雨)の3状態が区分されている。

雪片は、落下に従い気温0 融点)以上の高度に入ると解け始めるがすぐには解けない。湿度が100%未満では、雪片の昇華によってが奪われるため気温0 ℃以上でも解けない層(非融解層)が生じる。またその直下には、解け始めた雪片の層(融解層)が生じる。

湿度が低いほど昇華や蒸発による冷却効果が大きい。よって反対に湿度が高いほど解けるまで時間がかかるため融解層が厚く、また雪片が大きく密度が高いほど熱容量が大きいため同様に融解層が厚くなる。融解層の厚さは、13 mmの雪片(解けると観測される雨滴で最も大きなクラスの約5 mmになる)かつ湿度100 - 80 %で600 m前後、直径10 mmで250 m、5 mmで70 mなどと試算され、実際の大気でも数百mのオーダーと考えられている。湿度が60 %を下回るような低湿度では、雪片が昇華によりかなり小さくなってすぐ解けるため融解層(霙の層)も薄くなる。また、気球による上空観測でも気温0 - 5 ℃付近の層で霰が観測される[3][4]

地上の気温と湿度から求められる経験式がある。気象研究所物理気象研究部(1984)による長野県松本市の例では、気温 T℃ のとき、湿度が  % 以上で雪が解け始め、かつ湿度が  % 以上では雨になる。この式の係数は地域により少し前後し、平均的な雪片の大きさの違いに対応している。グラフにしたとき2つの式に挟まれた領域が融解層(霙)にあたる[3]。(cf.雪#雪・霙・雨の境目、雪の目安

雨または雪両方の可能性がある天候を霙のひとつの目安とすると、例えば冬の日本の太平洋側平野部では上空1500 m(高層天気図の850 hPa相当)で0 - -3 ℃で雨または雪、-3 - -6 ℃で雪の可能性が高いことが参考となる[5]。経験式から雨雪の境界付近の気温・湿度にあるときに霙の可能性があり、湿度が高いほど現れやすい[3][4]

気象レーダーの観測運用上、霙にあたる融解層は雪や雨より電波を強く反射するブライトバンドを発生させることがあり、実際よりも降水強度を強く推定してしまう問題がある[6]

観測・記録[編集]

霙を観測した場合、雪が降った場合に算入される[2]。例えば、毎日の天気記録から導かれる年間の雪日数に含められる[7]。また、初雪にもカウントされるため、冬になって「雪」より先に「霙」が降ったときも初雪となる[2]

ちなみに、雨が凍ったり雪が一部解けて再び凍ったりするなどしてできた(あられ)が降ることがあるが、霰が降っているときは、雨と雪が降っていても天気記録はあられとなる。

沖縄県日本で唯一、近代観測が始まってから積雪を観測したことが一度もない都道府県であるが、霙は過去2回(3例)観測されている。1977年2月17日久米島沖縄気象台久米島測候所)、そして2016年1月24日本島名護市)と久米島である[2][8]

気象庁は、管区気象台では天気や大気現象の目視観測を行っている。自動気象観測装置を導入したところ(アメダスやほとんどの地方気象台)では、気温と湿度などから降水が雪・霙・雨いずれかを判定(雨雪判別)しており、霰や雹などの大気現象の記録は廃止している[9][10]

天気予報で雪や雨ではない霙を的確に予報することは難しいとされる。気象庁の予報文の表現で霙を含む雪・雨両方の可能性があるときは、雨の確率が95 %以上で「雨」、95 %未満50 %以上で「雨か雪」、50 %未満5 %以上で「雪か雨」、5 %未満で「雪」とする[11][12]

国際気象通報式天気の報告では、しゅう雨性(対流性の積乱雲などから降る)かそうでないか、観測時に降っているか止んでいるか、3段階のみぞれの強さ、雷を伴う否かなどの組み合わせで区分される[13][注 1]

みぞれの天気記号(日本式)

ラジオ気象通報などの日本式天気図におけるみぞれの天気記号は、上半分が雪、下半分が雨の記号を足し合わせたものになっている[14]

航空気象の通報式[注 2]では、「降水現象」の欄で雪を表すSNと雨を表すRNを併用しRASN(またはSNRA)と報告する[15]

ことば[編集]

「みぞれ」の語源には、水霰(みずあられ)や水降(みずふる)、水添垂(みずそひたれ)からとする説、雨霰(さめあられ) 、氷小雨(ひさめ)が変化したものとする説がある[16]

みぞれの塊に見立てた派生語として、かき氷に氷蜜をかけたものを「みぞれ」というほか、大根おろしの異称を「みぞれ」という[17]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ SYNOPSHIPなどに用いる96種天気。地上天気図#天気参照。
  2. ^ METARTAF

出典[編集]

  1. ^ 『気象観測の手引き』2007年、pp.58-65「第12章 天気」
  2. ^ a b c d 雨や雪について”. よくある質問集. 気象庁. 2023年1月25日閲覧。
  3. ^ a b c 気象研究所物理気象研究部(1984), pp.10-23,pp.39-60, pp-75-77.
  4. ^ a b 松尾敬世「雪と雨をわけるもの」『天気』第48巻第1号、日本気象学会、2001年1月、CRID 1520853834244435072 
  5. ^ 岩槻秀明 『最新気象学のキホンがよ〜くわかる本』(第2版)秀和システム、2012年9月、p.195。ISBN 978-4-7980-3511-6
  6. ^ 気象レーダー”. 気象庁. 2023年1月25日閲覧。
  7. ^ 大阪の天気出現率”. 大阪管区気象台. 2023年1月25日閲覧。
  8. ^ 沖縄本島で初のみぞれ観測”. NHK NEWS WEB (2016年1月24日). 2016年1月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年9月16日閲覧。
  9. ^ 「報道発表 地方気象台における目視観測通報を自動化します」、大阪管区気象台、2019年11月16日、2023年1月24日閲覧
  10. ^ 雪(初雪)の観測は誰がどのように行っているのですか?」、福岡管区気象台『はれるんマガジン』36号、2022年12月27日、2023年1月24日閲覧
  11. ^ 雪に関する予報と気象情報について」気象庁、気象等の情報に関する講習会、2012年12月7日、2023年1月24日閲覧
  12. ^ 「予報用語 降水」、気象庁、2023年1月24日閲覧
  13. ^ 国際式の天気記号と記入方式」、気象庁、2023年1月21日閲覧。
  14. ^ 理科年表FAQ > 山内豊太郎「天気の種類はいくつあるのですか。その記号も教えてください。」、理科年表オフィシャルサイト(国立天文台、丸善出版)、2008年3月、2022年1月21日閲覧。
  15. ^ 航空気象通報式第3版 第16号』(2017年3月8日)、気象庁、p.26、2023年1月25日閲覧。
  16. ^ 前田富祺監修『日本語源大辞典』小学館、2005年、p.1061「霙」。ISBN 978-4095011813
  17. ^ "霙". 講談社「和・洋・中・エスニック 世界の料理がわかる辞典」. コトバンクより2023年1月25日閲覧

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]