連邦準備制度

連邦準備制度
Federal Reserve System
本店 ワシントンD.C.
20th Street and Constitution Avenue NW
位置 北緯38度53分34.8秒 西経77度2分44.8秒 / 北緯38.893000度 西経77.045778度 / 38.893000; -77.045778
連邦準備制度理事会議長 ジェローム・パウエル
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
通貨 アメリカ合衆国ドル
USD (ISO 4217)
基準貸付利率 3.25%
預金基準金利 3.5%
ウェブサイト federalreserve.gov

連邦準備制度(れんぽうじゅんびせいど、英語: Federal Reserve System, FRS)は、アメリカ合衆国中央銀行制度である。ワシントンD.C.にある連邦準備制度理事会Federal Reserve Board, FRB)が、全国の主要都市に散在する連邦準備銀行Federal Reserve Bank, FRB)を統括する。連邦準備制度理事会は連邦議会の下にある政府機関であるが、予算の割当や人事の干渉を受けない。各連邦準備銀行は株式を発行する法人(body corporate)である。

歴史[編集]

連邦準備銀行の株主[編集]

連邦準備制度理事会は政府機関であるが、各連邦準備銀行は株式を発行する法人である。ただし、合衆国政府は連邦準備銀行の株式を所有しておらず、各連邦準備銀行によって管轄される個別金融機関が出資(=株式の所有)義務を負っている[1][2][注釈 1]。また、個人や非金融機関の法人は連邦準備銀行の株式を所有できない。

個別金融機関による出資額は金融機関の資本規模に比例するが、連邦準備銀行理事を選出する際の投票権は出資規模に関わらず一票ずつであるため、大手銀行が主導権を握るといったことはできない[2]

連邦準備法により[3]、連邦準備銀行の株主が連邦準備制度に及ぼす影響力はきわめて小さいものに限定されている。連邦準備法における連邦準備銀行の株主の位置づけは、9人の連邦準備銀行理事のうち6人を選定するにすぎない(他の3人は連邦準備制度理事会が指名)[4]。また、連邦準備銀行理事の権限は理事長の選出のみであり、その理事長の権限も以下のものに限られている。

  • 連邦公開市場委員会(FOMC)委員12人中5人の選出[5]
  • 連邦準備制度理事会への提言[6]

連邦準備制度は大統領の指名と議会の承認による連邦準備制度理事会の主導により運営されている。但し、連邦準備制度理事会が政府機関であるのに対し、連邦準備銀行が民間企業の形式を採っているのは事実である。とはいえ完全な民間企業とも言えず、両者を折衷した性格を持っている[2]

主要業務[編集]

フェデラル・ファンド金利の推移(1954年~2005年)

中央銀行としての一般的な業務は次のようなもの。

以下は新しい知見となりうるもの。

実際、支払制度が十分に維持されているとは言いがたい。2016年2月にバングラデシュ銀行が不正送金で損害を受けた事件をめぐり、バングラデシュ警察が捜査したところ、FRBはファイアウォールを有効にせずに10ドルの中古ルーターで国際銀行間通信協会に接続していたことが分かった[7]。他にもずさんな実態の中央銀行があるものと世界銀行関係者が見ている。

金融政策の独立性については発足当時政府の影響を強く受けたとされる。この点、ミルトン・フリードマンなどが、「世界恐慌にまで発展した1920年代のアメリカの金融バブル崩壊に際して、連邦準備制度が明白な不作為によって事態を深刻化させた」と指摘する。この考え方は今ではベン・バーナンキ(第14代議長)をはじめとする経済学者に広く受け入れられている[8]。戦後、ブレトンウッズ体制がスタートし、FRBと財務省が協定を締結し、金融政策の独自性を持つようになったとされる。

組織[編集]

連邦準備制度理事会[編集]

連邦準備制度理事会 (Federal Reserve Board of Governors) は連邦準備制度の統括機関。中央銀行に相当。14年任期の理事7人によって構成され、理事の中から議長・副議長が4年の任期で任命される。議長・副議長・理事は大統領上院の助言と同意に基づいて任命する。

金融政策の策定と実施を任務としており、また連邦準備制度の活動の最終責任を負う。

大統領に対して、政府機関中最も強い独立性を有する一方で、世界経済に対する影響力は絶大であるため、FRB議長は「アメリカ合衆国において大統領に次ぐ権力者」と多くの人々に考えられている[9]

現在の理事会メンバーは以下の通りである。定員は7人。

役職 肖像 氏名 政党 指名した大統領 就任年月日 任期満了
予定年月日
前職
議長 ジェローム・パウエル 共和党 バラク・オバマ
ドナルド・トランプ
ジョー・バイデン
2018年2月5日[10]
(議長)

2022年5月23日[11]

(議長再任)

2026年5月15日[11](議長) 超党派政策センター客員研究員[12]
2012年3月25日
(理事)

2014年6月16日

(再任)

2028年1月31日
(理事)
副議長 ラエル・ブレイナード 民主党 バラク・オバマ

ジョー・バイデン

2022年5月23日

(副議長)

2026年5月15日

(副議長)

国際担当財務次官[13]
2014年6月16日
(理事)
2026年1月31日

(理事)

副議長
(銀行監督担当)
マイケル・バー 民主党 ジョー・バイデン 2022年7月19日
(副議長)
2026年7月13日
(副議長)
2022年7月19日
(理事)
2032年1月31日
(理事)
理事 ミシェル・ボウマン[14] 共和党 ドナルド・トランプ 2018年11月26日[15]
2020年2月1日(再任)
2034年1月31日[16] カンザス州銀行監督当局職員[14]
理事 クリストファー・ウォーラー 共和党 ドナルド・トランプ 2020年12月18日 2030年1月31日
理事 リサ・クック 民主党 ジョー・バイデン 2022年5月23日 2024年1月31日
理事 フィリップ・ジェファーソン 民主党 ジョー・バイデン 2022年5月23日 2036年1月31日

※この空席に任命された人個人の任期満了日。

連邦公開市場委員会[編集]

連邦公開市場委員会 (Federal Open Market Committee, FOMC) は、FRBが定期的に開く会合で、FRB理事7人と連邦準備銀行総裁5人(ニューヨーク連邦準備銀行総裁と、持ち回りで選ばれる他地区連銀の総裁4人。それ以外の地区連銀総裁も議論には参加するが議決権はない)で構成されるアメリカの金融政策決定機関である。議長はFRB議長、副議長はニューヨーク連邦準備銀行総裁が担当する。

FOMC定期的会合は年間8回開かれ、フェデラル・ファンド金利の誘導目標、及び公定歩合が決定されるが、市場の急変などでは臨時会議が開かれ、暫定的に公定歩合などが決定される(例:2000年末の株価大暴落時や、エンロンショック2007年8月17日の0.5パーセント引き下げ等)。

連邦準備銀行[編集]

連邦準備銀行の12の地区割。■は本部所在地、☆はFRS。

連邦準備銀行 (Federal Reserve Banks) は市中銀行の監督と規制など、公開市場操作以外の連邦準備制度の業務を行い、また連邦準備券ドル紙幣)の発行を行う。連邦銀行(連銀)と呼ばれることもある。以下の12地区に分割されている。このうち第2地区のニューヨーク連邦準備銀行が全体の要となる。

地区 銀行 本部所在地
第1地区 ボストン連邦準備銀行 マサチューセッツ州ボストン
第2地区 ニューヨーク連邦準備銀行 ニューヨーク州ニューヨーク
第3地区 フィラデルフィア連邦準備銀行 ペンシルベニア州フィラデルフィア
第4地区 クリーブランド連邦準備銀行 オハイオ州クリーブランド
第5地区 リッチモンド連邦準備銀行 バージニア州リッチモンド
第6地区 アトランタ連邦準備銀行 ジョージア州アトランタ
第7地区 シカゴ連邦準備銀行 イリノイ州シカゴ
第8地区 セントルイス連邦準備銀行 ミズーリ州セントルイス
第9地区 ミネアポリス連邦準備銀行 ミネソタ州ミネアポリス
第10地区 カンザスシティ連邦準備銀行 ミズーリ州カンザスシティ
第11地区 ダラス連邦準備銀行 テキサス州ダラス
第12地区 サンフランシスコ連邦準備銀行 カリフォルニア州サンフランシスコ

歴代議長[編集]

連邦準備制度理事会の長は「議長」(Chair of the Federal Reserve Board)と呼ばれる。

氏名 期間 大統領
1 チャールズ・S・ハムリン
Charles S. Hamlin
1914年8月10日 - 1916年8月10日 ウッドロウ・ウィルソン
2 ウィリアム・P・G・ハーディング
William P. G. Harding
1916年8月10日 - 1922年8月9日 ウッドロウ・ウィルソン
ウォレン・ハーディング
3 ダニエル・R・クリシンジャー
Daniel R. Crissinger
1923年5月1日 - 1927年9月15日 ウォレン・ハーディング
カルビン・クーリッジ
4 ロイ・A・ヤング
Roy A. Young
1927年10月4日 - 1930年8月31日 カルビン・クーリッジ
ハーバート・フーヴァー
5 ユージン・メイヤー
Eugene I. Meyer
キャサリン・グラハムの父
1930年9月16日 - 1933年5月10日 ハーバート・フーヴァー
フランクリン・ルーズベルト
6 ユージン・R・ブラック
Eugene R. Black
1933年5月19日 - 1934年8月15日 フランクリン・ルーズベルト
7 マリネア・S・エクルズ
Marriner S. Eccles
1934年11月15日 - 1948年1月31日 フランクリン・ルーズベルト
ハリー・S・トルーマン
8 トマス・B・マッカーベ
Thomas B. McCabe
1948年4月15日 - 1951年3月31日 ハリー・S・トルーマン
9 ウィリアム・マチェスニー・マーティンJr.
William McChesney Martin, Jr.
1951年4月2日 - 1970年1月31日 ハリー・S・トルーマン
ドワイト・D・アイゼンハワー
ジョン・F・ケネディ
リンドン・ジョンソン
リチャード・ニクソン
10 アーサー・F・バーンズ
Arthur F. Burns
1970年2月1日 - 1978年1月31日 リチャード・ニクソン
ジェラルド・R・フォード
ジミー・カーター
11 G・ウィリアム・ミラー
G. William Miller
1978年3月8日 - 1979年8月6日 ジミー・カーター
12 ポール・A・ボルカー
Paul A. Volcker
1979年8月6日 - 1987年8月11日 ジミー・カーター
ロナルド・レーガン
13 アラン・グリーンスパン
Alan Greenspan
1987年8月11日 - 2006年1月31日 ロナルド・レーガン
ジョージ・H・W・ブッシュ
ビル・クリントン
ジョージ・W・ブッシュ
14 ベン・S・バーナンキ
Ben S. Bernanke
2006年2月1日 - 2014年1月31日 ジョージ・W・ブッシュ
バラク・オバマ
15 ジャネット・イエレン
Janet Yellen
2014年2月1日 - 2018年2月3日 バラク・オバマ
ドナルド・トランプ
16 ジェローム・パウエル
Jerome Powell
2018年2月5日 - 現在 ドナルド・トランプ

ジョー・バイデン

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 日銀は、日本政府が株式(正確には出資証券)の55パーセントを保有し、残りが公開市場(ジャスダック)で流通されている。
  2. ^ 即時グロス決済資金移動ネットワーク。日銀ネットのようなもの。個人手形交換所の CHIPS と結合し、プライベートの有限会社に運用されている。
  3. ^ 自動手形交換制度。実質的な証券集中保管機関。
  4. ^ NACHA は ACH のスポンサー。1974年という、国際決済オンライン化が世界で一気に普及した時期に設立されたNPO

出典[編集]

  1. ^ 連邦準備制度理事会 (2007年3月7日). “FRB: FAQs: Federal Reserve System”. 連邦準備制度. 2010年6月17日閲覧。
  2. ^ a b c Woodward, G. Thomas (1996-07-31). “Money and the Federal Reserve System: Myth and Reality - CRS Report for Congress, No. 96-672 E”. Congressional Research Service Library of Congress. http://home.hiwaay.net/~becraft/FRS-myth.htm 2010年6月17日閲覧。. 
  3. ^ http://www.federalreserve.gov/aboutthefed/fract.htm
  4. ^ http://www.law.cornell.edu/uscode/html/uscode12/usc_sec_12_00000302----000-.html
  5. ^ http://www.law.cornell.edu/uscode/12/263.html
  6. ^ http://www.federalreserve.gov/aboutthefed/fac.htm
  7. ^ ZuuOnline バングラデシュ銀不正送金問題「FRBは中古10ドルのルーター使用 2016/4/30
  8. ^ Wood & Woods 1990, p. 420
  9. ^ アメリカ国務省. “米国の統治の仕組み – 連邦政府”. アメリカンセンターJAPAN. 2016年4月10日閲覧。
  10. ^ “FRB新体制発足 パウエル新議長が宣誓” (日本語). 日本経済新聞 電子版. https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26524780V00C18A2FF2000/ 2018年10月11日閲覧。 
  11. ^ a b “Jerome Powell Sworn In for New Term as Fed Chair”. Investopedia. (2022年5月24日). https://www.investopedia.com/jerome-powell-sworn-in-for-new-term-as-fed-chair-5323150 2022年5月30日閲覧。 
  12. ^ 日本大百科全書(ニッポニカ). “パウエル(ぱうえる)とは”. コトバンク. 2019年12月15日閲覧。
  13. ^ 連邦準備制度理事会のホームページに掲載されたブレイナードの経歴(英語)
  14. ^ a b “FRB副議長を承認 米上院銀行委: 日本経済新聞” (日本語). 日本経済新聞. (2018年6月13日). https://r.nikkei.com/article/DGXMZO31695490T10C18A6000000?s=0 2018年10月11日閲覧。 
  15. ^ 中央銀行ボードメンバー|みんかぶFX”. fx.minkabu.jp. 2019年12月14日閲覧。
  16. ^ 米上院、ボウマンFRB理事の再指名を承認 任期2034年まで - ウェイバックマシン(2019年12月14日アーカイブ分)

参考文献[編集]

  • Wood, John Cunningham; Woods, Ronald N. (1990), Milton Friedman: Critical Assessments, Routledge, ISBN 0415020050 
  • フルフォード, ベンジャミン (2008/12/20). アメリカが隠し続ける金融危機の真実. 青春出版社. ISBN 978-4-413-03698-6 
  • The Secrets of the Federal Reserve, 1952. Reprinted John McLaughlin, 1983, 208 pages, ISBN 0-9656492-1-0

外部リンク[編集]