算数

算数(さんすう)は、日本小学校における教科の一つであり初歩的な数学を取り扱う。広義には各国の初等教育における一分野も指す。

この項では便宜を考慮して各国の初等教育(中でも小学校に相当する学校)における、算数に相当する教科について広く解説する。

類似の言葉として、初等数学: elementary mathematics)があり、定義は曖昧だが、こちらは日本の中学校の数学辺りまでを指す言葉である。方程式や冪乗などを含む。

概説[編集]

国ごとに教える内容や教え方、教科書のあり方などに相違点がある。例えば日本では乗法(かけ算)に関して、「九九」すなわち9×9の数表を教え暗記させているが、インドでは「20×20」(19×19) の数表を教え暗記させている。(昔は一部で99×99までを暗記させるところもあったといわれているが、実際は違う[1]。)また、日本では「2+3=□」というタイプの、答えが基本的には一つしかないような課題が主として出されるのに対し、ヨーロッパなどでは初期の段階から「□+□=5」といったような課題を頻繁に提示し、答えが一つではなく複数あり、様々な数学的な発想・探求へといざなうような教育がされることが多い。

中国台湾韓国北朝鮮では、「算数」ではなく「小学数学」と呼ばれている。

「算数」という語の由来[編集]

中国、前漢時代についての史書漢書』律暦志に「數者一十百千萬也 所以算數事物 順性命之理也」とある[2]。次に紀元前1世紀の『周髀算經』が知られている[3]また1983年12月 - 1984年1月にかけて湖北省江陵県(現:荊州市荊州区)にある前漢時代の張家山西漢墓の発掘調査から竹簡『算數書』が発見されている[要出典]。その内容は乗法などの問題集で後の『九章算術』に影響したのではないかと推測されている。よって「算数」はこの時代に使用が広まったものと推測される。すなわち、算数、算術、数学の用語のうち、現在見つかっている最古の語は「算数」である。日本における教科名としては、算術に代わって1941年より用いられている。

中国では現在、「算数」とは数学の源流的なものを指す。

日本の算数[編集]

日本では、小学校までは「算数」、中学校以降では「数学」という呼称となっている。中学以降の数学は概念、厳密性(証明など)、抽象化に重きを置いた内容となっており、また専門的な職業で用いる応用をにらんだカリキュラムになっている[注 1]。対して小学校の算数は「日常の事象について見通しをもち筋道を立てて考え,表現する能力を育てる」ことが目指される[4]

計算の反復練習が重要なことや、問題を制限時間内にこなすために集中力や持続力を育てる必要等から、しつけとしての役割もある[要出典]、と述べる教育者もいる。それに対して、算数の目的はしつけや我慢にあるわけではない[要出典]と述べる人もいるという。

形式陶冶説と実質陶冶説[編集]

古くから日本の算数の目的としては「形式陶冶説」がとられていた[要出典]とされる。形式陶冶とは、実際的な知識や技能の獲得を主な目的とするのではなく、学ぶ過程から心的能力を育てることを目標とする考え方である。算数については、これを学ぶことで「学んだ問題が解けるようになるだけでなく、広く、思考力が高まる[要出典]」ともされてきた。 しかし、これには異論もあり、例えばエドワード・ソーンダイクは実験により学習転移は狭い範囲に限られることを確かめた[要出典]と述べたという。「与えられた予め答えが決まっている問題解きを繰り返しても、その限られた狭い周辺の問題が解けるようになることはある。しかし広い意味の思考力はつかない」というのである。

その後も形式陶冶の考え方は根強いが、実際的な学習効果を重視する「実質陶冶」の考え方も強くなってきている[要出典]、ともされる。

現在の日本の小学校の算数の主な学習内容(2020年度以降)[編集]

出典:[5]

数・式[編集]

計算[編集]

図形[編集]

平面図形[編集]

空間図形[編集]

総合[編集]

  • 図形の近似によるおよその面積・体積(6年)

量と測定・数量関係[編集]

[編集]

数量関係[編集]

データの活用[編集]

中学入試における受験算数の内容[編集]

中学入試は受験生を選抜するためのものであり、そこで出題されている算数の内容は、学習指導要領に沿って実施されている一般的な公立小学校での学習よりも遥かに高度であるといわれている。

学習段階としては算数より上である、中学課程以上の数学を使えば、中学入試の算数を正答するのは容易だろうと推察されそうであるが、実際には数学の公式・定理などに当てはめただけでは解けない問題がほとんどであり、中学課程以上を先取り学習していても有利にはならないように工夫した出題がほとんどである。

例えば、文章題を解くのに、中学課程では方程式の利用が最善と思われる出題がほとんどであるが、中学入試では、方程式が立てられなかったり、方程式を立てるとするとかえって困難になりうる問題がほとんどである。

なお、将来難関大学を目指す児童の中には、中学受験をしなくても受験算数に取り組む場合もある。実際、難関大学の数学などの入試問題では、積分などの文字式の単純計算や初めに式を立てさえすればあとは一直線で解けるという問題はほとんどなく、着眼を工夫したり本質を見抜く力が求められる場合が多い。また、大学入試問題が高校入試、ひいては中学入試に輸入され、中学・高校・大学の内容が小学生向けに翻訳されたものもある[注 2]

ただし、ある数の割合)を「1」とし、それを日数や人数などの乗除でのべ量を出して考えること(相当算)や、比と実際の数量の関係を利用した方法(還元算)は、文字を使っていない以外は1元1次方程式による導出そのものである。また消去算は連立1次方程式そのものである[注 3]

一方で方程式に頼らない、算数らしい解法も種々に見られる。例えば、数量の大小や比の関係を線分図で表したり、2数の積を長方形の面積に置き換えて表した面積図(例えば一人当たりの分配量と人数の積は分配すべきものの総量となるが、これを長方形の2辺と面積に置き換える)もよく使われる。

また、数論初等幾何学数え上げ数学などの、小学校・中学・高校の境界が曖昧な分野では、中等教育内容(例えば、素因数分解数列に関する種々の公式、組み合わせの計算法など)が受験生には知られていたり、出題されたりしている。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 中学校学習指導要領(平成29年3月告示)の「目標」では「数量や図形などについての基礎的な概念や原理・法則などを理解するとともに,事象を数学化したり,数学的に解釈したり,数学的に表現・処理したりする技能を身に付けるようにする。」とある。https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/073/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/06/21/1372244_15.pdf#page=2
  2. ^ 大学入試における三角比の問題で、三角形の辺の長さや角の大きさを具体的に求めるなら、三角比を使わずに、合同や相似の性質だけから解けることもある。また、大学入試の順列や組み合わせは意味さえ理解できれば小学生でも解けるものがある(芳沢光雄著『算数・数学が得意になる本』(講談社現代新書)163頁より)。
  3. ^ 方程式では未知数を文字で表し、それを立てて解くことで解が得られる。負の数、文字式の計算は小学校の範囲外なので、相当算・還元算などにおいて移項はできない。そこで、求めたい量を「1」などとして等式を立式し、増加量・減少量に着目して答えを導出する。
    例として、方程式
    3x-1=x+5
    の解は、中学課程での数学では、移項して同類項を整理することで導けるが、-1は負の数であり、算数の範囲外の概念である。そこで、xから3xの増加量と、1を引くのと5を加えるのを比べた増加量が等しいと考える。このことは、方程式を解く操作に相当している。

出典[編集]

  1. ^ How far up the multiplication tables do Indian students memorize?” (英語). Quora. 2022年8月24日閲覧。
  2. ^ 汉书·志·律历志上_古诗文网”. so.gushiwen.cn. 2022年8月24日閲覧。
  3. ^ 周髀算経の研究 - 国立国会図書館デジタルコレクション”. dl.ndl.go.jp. 2022年8月24日閲覧。
  4. ^ 小学校 算数科における目標の変遷-目標における資質・能力- 小学校学習指導要領 平成20年3月
  5. ^ 管理人. “小学校算数の目次|数学FUN”. 数学FUN. 2022年8月24日閲覧。

関連項目[編集]