福袋

福袋のワゴン売り
お楽しみ福袋

福袋(ふくぶくろ)とは、年始(正月)の初売りなどで、色々なものを詰めて封をして販売する袋[1]、またそれを選び取らせること[2]、そしてその形態を指す。袋という言葉があるが、箱など袋以外の外装にまとめた物も福袋と呼ぶ(箱に入っていれば「福箱」と呼ぶ店舗もある)。有形商品を物理的にまとめられた物だけで無く、大型の物や無形商品などを論理的にまとめられた物も福袋として販売される。

概要と特徴[編集]

東京都渋谷区竹下通りで若者向けに売り出される低価格の福袋

年始(実際は初売り前後から)に、百貨店スーパーマーケットなどさまざまな業態の店で販売され、袋の中に何が入っているか伏せられていることをコンセプトとする。通常は組み合わせた商品の合計価格以下で販売されるため、購入者は有用で豪華な内容であるかに期待する。つまり幸福幸運を引き当てることができる可能性、すなわち、射幸心を煽る商品であると言える。

ただし、福袋は客寄せの目玉商品であると同時に、その多くは店側の在庫処分的性格も有しており[3]、価格以上の商品が入っていたとしても、売れ残りや不人気商品で埋められていたりする場合もある。そういった福袋は、インターネット上で「鬱袋(うつぶくろ)」「ゴミ袋」[4]などと揶揄されることもある。また、店側も自虐的に「不幸袋」や「不吉袋」などと称するケースもある[5]

平成以降は、袋の素材が透明で中身が見えるもの、あらかじめ内容が公表されているもの、指定された商品群からの選択性になっているものなど、元来のコンセプトから外れた福袋も見られる。特に、貴金属のような高価な品物は、客寄せのためにショーケースに展示して販売されることがある。また、大きな家具家電製品旅行不動産リフォーム権、自動車学校自動車教習所の受講権、見合い、等々、袋に納まらない・納めるような種類でない商品も「福袋」の名で取引されている。

このような福袋の多様化は、名称や販売時期にも及んでいる。一部の家電量販店において、「お年玉袋」等の名称で販売されている。またネットショップでは、時節を問わず販売する場合も少なからずある。たとえば楽天市場では、福袋というサブカテゴリーを1年中表示しているほどである。

景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)では、一般懸賞における景品類の最高額および総額について、最高額は販売価格が5,000円未満の場合20倍まで、5,000円以上の場合10万円まで、総額は売上予定総額の2%までと定められている[6]。しかし、景品を付ける形ではなく、組み合わせた商品の合計価格以下で販売する形(値引)であれば、「正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」であるので景品表示法における景品類には該当せず[7]、最高額および総額の規定は適用されない(ただし、値引の内容や程度によっては不当廉売に該当する可能性がでてくる)。

歴史[編集]

語誌[編集]

」+「」という、意味の広がりが大きい語同士の結合による複合語であるため、過去には本項で扱う「福袋」以外のものを指して使われている例も確認される。若月紫蘭の『東京年中行事』(1911年)には(神田明神に)「新年劈頭の福運にあづからうと待ちに構へた参詣者が雪崩を打つて流れ込む。ヤツサモツサの中に手ん手に福袋を拝受し終ると、多くは六つの攝社二十一の末社へお巡りと出懸ける」[8]とあり、ここでの「福袋」は開運札を入れる袋を指すという[2]。また、『世界童話集 たから舟』(1920年)[9]には望んだものが出てくる袋として、『談話売買業者』(1922年)[10]には陰嚢の比喩として現れている。

本項でいう「福袋」の確かに確認できる早い時期の使用例は、たとえば1902年11月朝日新聞に掲載された小川屋(恐らく呉服屋)の広告で、「よせ切、見切反物、福袋 取揃居候」とある[11]。説明もなく、ただ「福袋」と宣伝していることから、当時、すでにこの語は説明を不要とするほど一般的なものになっていたかもしれない。1903年年末の読売新聞には「三の酉 東京・吉原の大鷲神社の賽銭315円、守り札137円、福袋120円」[12]とあるが、こちらは前述の開運札を入れる袋の可能性もある。

国内[編集]

福袋の原型は、江戸時代の「えびす袋(恵比寿袋、恵比須袋、夷袋など)」に遡ることができる[13]日本橋の著名な呉服屋であった越後屋(現在の三越)は、当時としては画期的な呉服の切り売りをしていたが、11月1日から3日までの冬物の売出時期(恐らくえびす講)に、1年の裁ち余りの生地を袋にいれて、これを1分(いちぶ)で販売した。これが江戸市中で大変な評判を得、「恵比寿袋」と呼ばれたという[13]。えびす袋が越後屋に端を発するとするなら、他の呉服屋もこれに続いたと見え、たとえば大丸呉服店(百貨店大丸の前身)がえびす講や正月の初売りなどに、同様のものを売ってたことが記録に残っているという[14][15]。さらに都市部から地方へも伝播したのであろう、たとえば、文化年間(1804-1818年)に編集された『諸国風俗問状答』の阿波国の条には、呉服屋が小切れを「夷(えびす)切れ」として売り出していたことが記されている[16]。えびす講の大売り出しは、このえびす袋に端を発するとも云われ[17]、やがて小切れ以外のものでもこのような形態で売られたことは想像に難くないが、その時期については明らかでない。少なくとも明治期にはこういったものが現れていたことが、次に見るように新聞などから確認できる。

1892年(明治25年)1月の東京朝日新聞には「当り物の流行」という見出しで、「昨今諸所の縁日にて幅五寸竪八寸位の紙袋■■■を置き其内へ蟇口(がまぐち)、石鹸(しゃぼん)、根掛、櫛、簪、歯磨、楊枝、其他種々の品を入れ外面より何物とも見分けの付かざるよう拵へたる物を一袋一銭づつにて売る」[18]とあり、運良ければ5銭から12~13銭のものが当たるとあって大流行である記事は結んでいる。

以下、確認できる同時代の福袋販売の事例を列挙する。前述のように、1902年の新聞には、11月3~5日(恐らくえびす講)に小川屋が福袋を販売する旨の広告を載せている[11]。1906年の新聞には、東京本町の博文館の新案福袋「トムボラー」の広告が載っている[19]。定価は一袋10銭であるが、中身は15銭の価値があり、なおかつ景品が入っているという。1907年、鶴屋呉服店(松屋の前身)が福袋の販売を始めている[20]。中身と価格は不明である[15]1911年、いとう呉服店(松坂屋の前身)が、50で「多可良函(たからばこ)」の販売を始め[21][22][15]、行列ができるほどの盛況であったという。

福袋商戦が過熱するのは、戦後においてである。朝日新聞紙上では、1970年代中頃から福袋の話題が家庭面に採り上げられるようになり、1980年代初頭から見出しにも「福袋」の文字が毎年のように見られるようになる。100万円を超える高額福袋がたびたび新聞等のメディアで取り上げられるのも80年代からで、バブル期には、ピカソの絵画がはいった5億円の福袋まで売りだされた[23]

日本国外への広がり[編集]

Appleの日本における直営店であるApple Store銀座店が、2004年の正月に福袋を販売したところ、好評であったため、本国のアメリカ合衆国でも、旗艦店舗を新規にオープンする際には、福袋を "lucky bag (ラッキーバッグ)" という名前で販売するようになった[24][25]。そのほか、"mystery bag (ミステリーバッグ)" とも呼ばれる。また、ハワイホノルルにあるショッピングモールであるアラモアナセンターでは、2005年から正月に福袋を販売している[26]

近年、日本の諸都市にある中華街[27]や、台湾および香港の日本資本および地元資本の百貨店(例えば台湾では、新光三越遠東百貨zh]等の各店で毎年、数百・数千個を販売[28])などでも、春節の際に福袋が販売され、日本と同じ名で呼ばれている。また、春節の休暇を利用して来日する中華圏中華人民共和国を含む)の観光客を対象にして、日本の店舗が福袋を販売するようになってきている[29]。この場合、中国系の客の志向を反映して中身を確かめられる福袋が用意されるのが通常である。

その他の福袋[編集]

番組タイトルとしての福袋[編集]

「新春 福袋スペシャル」などといったように放送番組のタイトル等に「福袋」というフレーズが使われることは、日本では珍しくない。例えば、テレビアニメサザエさん 〜新春福袋スペシャル〜』、バラエティ番組志村けんのバカ殿様 〜新春! お笑い福袋大放出スペシャル〜』など。

ファン・サービスとしての福袋[編集]

日本において、芸能人スポーツ選手放送番組やその他の企画ものなど、ファンに支えられて仕事が成り立つ職種の人々や企画ものが、イベントの出し物として、あるいは、ファンに対する感謝を表す物として、「福袋」と銘打った贈り物を用意することがある。

ゲームの中の福袋[編集]

ボードゲーム形式のコンピュータゲーム・シリーズでテレビゲーム・シリーズである桃太郎電鉄シリーズハドソン)には、使用アイテムの一つに「福袋カード」というものがある。プレイ内で福袋を開けると個別に使える「カード」を1〜8枚入手できるのであるが、どのような働きを持つ種類のカードが出るかはランダムで、有用なカードが入手できる場合もあれば、損害系カード(不利益なイベントを起こす類いのカード)が入っている場合や、また別の福袋カードが入っている場合もある。最後のケースは別として、おおむね良い物が手に入るが、ほしくもない物を手にしてしまうリスクもある「福袋カード」のこういった特徴は、「福袋」の特徴をよく反映している。この例に限らず、コンピュータゲームやテレビゲームには、係る福袋の特徴をゲーム性に結び付けて作品に採り入れているものが非常に多く見られる。

図書館福袋[編集]

日本の公共図書館では、複数冊の図書を福袋に入れて貸し出す「図書館福袋」という取り組みが2000年前後から各地で行われるようになった[30]。図書館により、商店などの福袋に近い形の福袋もあれば、新聞紙でくるんだもの[31]不織布製のバッグなどもあり[32]、形態は多様であるが、利用者に未知の本と出会ってもらうことや読書の幅を広げるきっかけにしてもらうことを意図しているため[32][33][34]、中に入っている本が見えないようにしている点は共通している[31]。(中身のヒントを公開する図書館もある[31][33][35]。)福袋の中の本は図書館の蔵書であるので、貸出期限が来れば返却しなければならない(来館者プレゼントではない)[36]が、本が入っている福袋自体はもらえる場合がある[32]。豊見城市立中央図書館のように、行列ができて整理券を配るほどの人気を集めるところもある[35]

同じ企画を「福本」と呼ぶ地域もある[37]。テーマや対象(大人・子供、男女など)を設定した福袋を用意する図書館がある一方で[31]、人文科学・郷土資料などそれぞれのコーナーに福袋を配置しながらも、中身はそのコーナーに関連するものとは限らないという福袋を準備する図書館もある[32]。本と一緒に図書館だよりやおすすめ本リストを入れた福袋もある[34]。福袋企画と同時に、くじお年玉を用意する図書館もある[31]

割引商品としての福袋[編集]

いわゆる中身の見える福袋で、店舗限定で使えるサービス券や限定グッズや大幅な割引品を掲示したうえで封入しお得感をあおることで最初からセット品として販売していても「福袋」と名前が付けられて販売されていることがある。正月というイベントを利用した販促とも言える。

その他の特記事項[編集]

福袋方式の自動販売機
東京都新宿区北新宿東中野新宿の境界あたりには、「夢のお宝1000円自動販売機」「一夢 1000円」と銘打った“福袋方式”の自動販売機が設置されているが、これは、千円札を投入してランダムで商品が出てくる自動販売機で、何が商品になっているかは買ってみるまでいっさい分からないというものである[38]2007年(平成19年)1月3日にバラエティ番組『モヤモヤさまぁ〜ず2』(cf.) で紹介されて話題になった1基であるが、似たような自動販売機は秋葉原など、他所にも設置されている。

脚注・出典[編集]

  1. ^ 新村出 他(編著), 『広辞苑』 第6版, 岩波書店, 2008年
  2. ^ a b 小学館国語辞典編集部(編), 『日本国語大辞典』 精選版、小学館、2006年
  3. ^ アパレルの福袋を買ってはいけない。中身を隠す理由とは…/バイヤーMB”. 女子SPA!. 2022年11月17日閲覧。
  4. ^ 例えばTwitter 上の検索結果を参照。
  5. ^ お買い得価格情報 2007年12月27日号”. (ウェブサイト). AKIBA PC Hotline (2007年12月27日). 2009年12月23日閲覧。※パーツショップのクレバリーが「あけおめ不幸袋」を販売。
  6. ^ 景品規制の概要 - 景品表示法”. (公式ウェブサイト). 消費者庁. 2009年12月23日閲覧。
  7. ^ 不当景品類及び不当表示防止法第二条の規定により景品類及び表示を指定する件” (PDF). (公式ウェブサイト). 消費者庁. 2010年1月1日閲覧。
  8. ^ 若月紫蘭, 『東京年中行事』 上の巻, 春陽堂, 1911年, 29頁
  9. ^ 松本苦味(編), 『世界童話集 たから舟』, 大倉書店, 1920年, 187頁
  10. ^ 村松梢風, 『談話売買業者』, アルス, 1922年, 287頁
  11. ^ a b 東京朝日新聞, 1902年11月1日 朝刊, 3頁
  12. ^ 読売新聞, 1903年12月1日 朝刊, 3頁
  13. ^ a b 新井益太郎, 『江戸語に学ぶ』, 三樹書房, 2005, 15-16頁
  14. ^ 二百五十年史編集委員会, 『大丸二百五十年史』, 大丸株式会社, 1967年, 67頁
  15. ^ a b c 恩田ひさとし. “福袋の歴史”. 福袋に夢をかける「福袋研究会」(ウェブサイト). 福袋研究会. 2009年1月1日閲覧。フリーライター・恩田ひさとしによる大手百貨店への電話調査の詳細。
  16. ^ 吉井良隆(編), 『神仏信仰事典シリーズ2 えびす信仰事典』, 戎光祥出版, 1999年, 163頁
  17. ^ 「誓文払」, 『日本大百科全書:ニッポニカ』, 小学館, 1984-1994年.
  18. ^ 東京朝日新聞, 1892年1月22日 朝刊, 3頁
  19. ^ 読売新聞, 1906年12月21日 朝刊, 4頁
  20. ^ 1907年12月の読売新聞紙上に広告あり。
  21. ^ 松坂屋50年史編集委員会(編), 『松坂屋50年史』, 松坂屋, 1960年
  22. ^ 下川耿史、河出出版研究所編 編『明治・大正家庭史年表―1868‐1925』河出書房新社、2000年3月30日。  366頁
  23. ^ 毎日新聞, 1989年1月4日, 東京 夕刊, 11頁
  24. ^ “Apple Fans, Do You Feel Lucky ?” (英語). (website) (WIRED). (2004年2月27日). http://www.wired.com/gadgets/mac/news/2004/02/62455 2009年1月1日閲覧。 
  25. ^ “Grand Opening Lucky Bags” (英語). ifo Apple Store.com. (2004年2月). http://www.ifoapplestore.com/stores/lucky_bags.html 2009年1月1日閲覧。 
  26. ^ “Japan's New Year tradition has a new home” (英語). (website) (Honolulu Star-Bulletin). (2004年12月30日). http://archives.starbulletin.com/2004/12/30/features/story2.html 2009年1月1日閲覧。 
  27. ^ 仲井雅史 (2012年1月23日). “旧正月彩る伝統芸 神戸・南京町で春節祭開幕”. 神戸新聞. オリジナルの2012年1月25日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20120125065830/http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/0004763060.shtml 2012年1月25日閲覧。 
  28. ^ 2011年福袋購買情報!(IN 台灣)” (中国語). 官不官情報網站(ウェブサイト) (2011年1月). 2012年1月25日閲覧。
  29. ^ “春節商戦、出足は順調 秋葉原・新宿に中国人”. 日本経済新聞. (2012年1月24日). https://www.nikkei.com/article/DGXNZO38241020T20C12A1TJ2000/ 2022年8月29日閲覧。 
  30. ^ 汐崎順子 著「課題篇2 児童青少年への図書館サービス」、公益社団法人日本図書館協会『日本の図書館の歩み:1993-2017』編集委員会 編『日本の図書館の歩み 1993-2017』公益社団法人日本図書館協会、2021年3月31日、127-132頁。ISBN 978-4-8204-2008-8 
  31. ^ a b c d e 図書館福袋、TRC受託館でもご好評いただいてます!”. 図書館流通センター. 2023年2月24日閲覧。
  32. ^ a b c d 原口晋也 (2022年12月30日). “未知の本との出会いを楽しんで 図書館の福袋、中身は秘密の3冊”. 朝日新聞. 2023年2月24日閲覧。
  33. ^ a b 北上市の図書館で「本の福袋」”. 岩手NEWS WEB. NHK盛岡放送局 (2023年1月5日). 2023年2月24日閲覧。
  34. ^ a b 新春企画 図書館司書が選ぶ「本の福袋2023」を行います”. 松山市立中央図書館 (2022年12月28日). 2023年2月24日閲覧。
  35. ^ a b 行列ができ整理券を出すほど人気の「図書館福袋」 袋に書かれたヒントを見て手を伸ばす 沖縄・豊見城市”. 沖縄タイムス (2024年1月11日). 2024年2月2日閲覧。
  36. ^ 2023年新春企画!図書館の「福袋」のご案内【ご好評につき終了しました】”. 市川市教育委員会生涯学習部中央図書館 (2023年1月3日). 2023年2月24日閲覧。
  37. ^ 「福本」開けるワクワク/オススメの本に包装/読谷村立図書館で好評”. 沖縄タイムス (2024年1月24日). 2024年2月2日閲覧。
  38. ^ ピョコタン (2011年6月28日). “1回千円の「お宝自販機」をひたすらやり続けた結果”. ガジェット通信. https://getnews.jp/archives/125823/ 2022年8月29日閲覧。 

関連項目[編集]