比翼仕立て

比翼仕立て(ひよくじたて)あるいは比翼(ひよく)とは、2枚の着物を重ねて着ているように見せるために、着物の袖口、振り[1]、裾回し[2]部分だけを二重に仕立てること[3]人形仕立てともいう[4]

留袖は、「祝いを重ねる」という意味合いから、白羽二重の下着を重ねて着るのが本来であった。これを比翼重ねというが、今日では簡略化され、付け比翼(つけびよく)を縫い付けることによって、二重に見えるように仕立てるようになった[5][6]。本振袖もかつては振袖を二枚重ね着たが、現在は比翼仕立てとする[4]。染織研究家の木村孝は、70年ほど前と比べて、を胸高に結び、半衿をあまり見せない着付けをするようになり、着物を二枚重ねで着ることが困難になったため、留袖や本振袖が比翼仕立てになったのであろうと推測している[4]

留袖は白羽二重の付け比翼仕立てが正式だが、振袖や訪問着色無地などでは、付け比翼を模した別布の伊達衿(だてえり)を半衿と着物の間にのぞかせる場合もある[6][4]。伊達衿は、比翼衿、伊達比翼とも呼ぶ[6]

洋服の場合は、合わせの上前の前端を二重に仕立て、隠しボタン、隠しスナップ、隠しジッパーとすることを比翼仕立てまたは比翼という。オーバーコートジャケットトンビマントー吾妻コートズボンの前あきなどに用いられる。英語では、フライ・フロント(: fly front)またはフライ・ファスニングという[3]

脚注[編集]

  1. ^ 和服の袖付け止まりから袖下部分の縫い合わされていない部分のこと。
  2. ^ 袷の長着の裏で、胴裏の下部分。八掛(はっかけ)。
  3. ^ a b 田中千代 1998, pp. 849–850.
  4. ^ a b c d 木村孝 2010, pp. 46–47.
  5. ^ 清水とき 2000, pp. 30–31.
  6. ^ a b c 清水とき 2000, pp. 78–79.

参考文献[編集]

  • 木村孝『礼装・盛装・茶席のきもの』淡交社、2010年。ISBN 978-4-473-03675-9 
  • 清水とき『礼装きもののルール』世界文化社〈おしゃれなきもの教室〉、2000年。ISBN 4418004068 
  • 田中千代『新・田中千代服飾事典』(新訂版)同文書院、1998年。ISBN 4810300226