槍ヶ岳

槍ヶ岳
表銀座より望む槍ヶ岳 地図
標高 3,180[1] m
所在地 日本の旗 日本
長野県松本市大町市
岐阜県高山市
位置 北緯36度20分31秒 東経137度38分51秒 / 北緯36.34194度 東経137.64750度 / 36.34194; 137.64750座標: 北緯36度20分31秒 東経137度38分51秒 / 北緯36.34194度 東経137.64750度 / 36.34194; 137.64750[1]
山系 飛騨山脈
種類 氷食尖峰
初登頂 1828年7月20日 (旧暦)播隆上人
槍ヶ岳の位置(日本内)
槍ヶ岳
槍ヶ岳の位置
プロジェクト 山
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槍ヶ岳(やりがたけ)は、飛騨山脈南部にある標高3,180 mである。山域は中部山岳国立公園に指定されており[2]日本で5番目に高い山である。長野県松本市大町市岐阜県高山市の境界にある。初登攀は播隆上人日本百名山[3]新日本百名山[4]及び花の百名山[5]に選定されている。通称「槍」。

概要[編集]

名前の如く天に槍を衝く形が特徴的な高山であり、登山者でにぎわい、穂高岳などと共に多くの登山者の憧れの的となっている。深田久弥は、『日本百名山』の中で

富士山と槍ヶ岳は、日本の山を代表する2つのタイプである。(中略)一生に一度は富士山に登りたいというのが庶民の願いであるように、いやしくも登山に興味を持ち始めた人で、まず槍ヶ岳の頂上に立ってみたいと願わない者はないだろう。 — 深田久弥、『日本百名山』[要文献特定詳細情報]

と述べている。

開山者は、播隆上人(1786年 - 1840年)である。開山と登山道整備の歴史は当該項目を参照されたい。宗教目的以外での初登頂は1878年ウィリアム・ゴーランドで、1892年ウォルター・ウェストンがそれに続いた。

槍ヶ岳は四方に尾根と沢を伸ばしている。尾根は東西南北に、東鎌・西鎌・槍穂高・北鎌の四稜、沢は東南に槍沢、南西に飛騨沢(槍平)、北西に千丈沢、北東に天上沢の四沢である。梓川源流部の槍沢上部標高2,500 m付近の天狗原に天狗池があり、周辺は氷河公園と呼ばれている。周辺は圏谷(カール)地形となっている。

人間史[編集]

三角点の扱い[編集]

山頂の三角点

山頂には2等三角点(基準点名:鎗ケ岳)が設置されたが、現在は標石が地面に埋設・固定されておらず、国土地理院で「亡失」扱いとなっており、地形図でも槍ヶ岳山頂は単なる標高点扱いとなっている。1957年10月には三角点、山名表示板と古い祠があった。

登山[編集]

槍ヶ岳へ稜線伝いに向かう縦走コースは、眺望が良く人気が高い。そのため、日本を代表する繁華街である銀座の名を冠した名前が付けられている。中房温泉を登山口とし合戦尾根を登り、大天井岳を経て東鎌尾根に至るルートは表銀座縦走コースと呼ばれている。一方、高瀬ダムを登山口としブナ立尾根を登り、鷲羽岳双六岳を経て西鎌尾根に至るルートは裏銀座縦走コースと呼ばれている。なお、折立を登山口とし黒部五郎岳を経て双六小屋で裏銀座縦走コースと合流するルートを西銀座ダイヤモンドコースと言うが、前の2コースと比べると知名度は低い。

山頂直下の登山道には2本の梯子が並び一方通行となっている
飛騨沢と滝谷
山頂の祠と飛騨山脈の山々。2015年

主な一般登山ルート[編集]

東鎌尾根(表銀座ルート)
中房温泉燕岳-大天井岳-東鎌尾根-槍ヶ岳
西鎌尾根(裏銀座ルート)
高瀬ダム烏帽子岳野口五郎岳鷲羽岳三俣蓮華岳双六岳樅沢岳-西鎌尾根-槍ヶ岳
西鎌尾根(西銀座ダイヤモンドコース
折立太郎山北ノ俣岳黒部五郎岳三俣蓮華岳双六岳樅沢岳-西鎌尾根-槍ヶ岳
槍沢ルート
上高地明神池徳沢横尾-槍沢ロッジ-槍ヶ岳
槍平・飛騨沢ルート
新穂高温泉-右俣谷-槍平-飛騨沢-槍ヶ岳
わさび平ルート
新穂高温泉-左俣谷-わさび平小屋奥丸山-中崎尾根-槍ヶ岳
槍穂高縦走ルート

頂上付近の登り坂は急勾配な岩場であるため、危険箇所には鎖やハシゴが設置されている。槍ヶ岳の肩から頂上までは、多くの区間で、西側の登り専用と東側の下り専用にルートが仕分けられている。狭い平らな山頂からは並行した2本の長い鉄製のハシゴが設置されている。以前は、一本のハシゴしかなく、登山道が渋滞する原因の一つとされていた。

バリエーションルート[編集]

北鎌尾根(バリエーション・ルート)
高瀬ダム湯俣-千天出合-北鎌のコル-北鎌尾根-槍ヶ岳、東鎌尾根の貧乏沢のコル及び水俣乗越から天上沢へ下り北鎌のコルに取付く場合もある。
槍ヶ岳東稜(バリエーション・ルート)
天上沢から大槍に突き上げる岩稜。冬季のみ。
大槍東南稜(バリエーション・ルート)
槍ヶ岳西稜(バリエーション・ルート)
小槍基部-小槍-曾孫槍-孫槍-大槍

山頂の狭い北端には、が設置されている。山頂からは、飛騨山脈八ヶ岳富士山赤石山脈木曽山脈御嶽山及び白山などの日本の標高の高い山をほとんど望むことができる絶好の展望台となっている。

周辺の山小屋[編集]

槍ヶ岳山頂直下にある槍ヶ岳山荘
槍沢のキャンプ指定地

槍ヶ岳は、登山口からのアプローチが長いため、日帰りで往復することが難しく、山小屋を利用したり、テントを携帯しキャンプ指定地を利用して、山中で数泊して登られることが多い。最寄りの山小屋は、山頂直下の南西にある飛騨山脈南部で最大規模の槍ヶ岳山荘である。

名称 所在地 槍ヶ岳からの
方角と距離(km)
標高
(m)
収容
人数
キャンプ
指定地
双六小屋 双六岳と樅沢岳との鞍部・双六池畔 北西 5.1 2,550 200 60張
槍ヶ岳山荘 槍ヶ岳山頂直下南側の肩 南西 0.2 3,060 650 30張
殺生ヒュッテ 山頂直下の槍沢上部 南東 0.4 2,910 100 50張
ヒュッテ大槍 東鎌尾根・雷鳥平 南東 0.8 2,870 100 なし
槍平小屋 右俣谷の南岳新道取付 南西 2.6 1,990 80 50張
南岳小屋 南岳山頂直下南 南 2.8 2,970 80 30-40張
ヒュッテ西岳 西岳山頂直下南 東 3.0 2,680 70 30張
槍沢ロッジ 槍沢の下部左岸・赤沢山南 南東 4.2 1,820 150 30-40張
横尾山荘 上高地奥の横尾・梓川左岸 南東 7.1 1,615 250 約100張

周辺の高山植物[編集]

花の百名山に選定されている槍ヶ岳の登山道周辺には、以下の多くの高山植物が自生している[5][14]。7月の雪解けから8月末頃までが、開花時期である[15]

コイワカガミ コバイケイソウ シナノキンバイ ハクサンイチゲ ハクサンフウロ

地理[編集]

周辺の主な山[編集]

槍ヶ岳周辺の山と表銀座燕山荘から望む)
槍ヶ岳周辺の山(抜戸岳から望む)
中央左に位置する槍ヶ岳

飛騨山脈の主稜線上にあり、東鎌尾根、西鎌尾根、北鎌尾根、南方の穂高岳へ連なる尾根の頂点である。

山容 山名 標高[1][16]
(m)
三角点等級
基準点名[16]
槍ヶ岳からの
方角と距離(km)
備考
燕岳 2,762.85 二等「燕岳」 北東 9.3 日本二百名山
双六岳 2,860.29 二等「中俣岳」 北西 6.4
大天井岳 2,921.91 三等「天章山」 東北東 5.4 日本二百名山
樅沢岳 2,755 北西 4.5
硫黄岳 2,554 三等「焼山」 北 4.3
西岳 2,758 東 2.9
常念岳 2,857   東南東 7.4 日本百名山
北鎌独標 2,899 北北東 1.4
槍ヶ岳 3,180 二等「鎗ケ岳」
(亡失)
0 日本百名山
大喰岳 3,101 南南西 0.7
中岳 3,084 南 1.4
南岳 3,032.68 三等「北穂高」 南 2.6
奥丸山 2,439.46 三等「犬公望」 南西 3.2
穂高岳 3,190 南 5.9 日本百名山
笠ヶ岳 2,897.48 二等「笠ケ岳」 西南西 9.2 日本百名山

飛騨山脈の主な山は、飛騨山脈を参照。

源流の河川[編集]

飛騨乗越に設置されている道標

源流となる河川は、日本海へ流れる。

周辺の峠[編集]

  • 水俣乗越 - 西岳との鞍部(東鎌尾根)
  • 千丈沢乗越 - 左俣岳との鞍部(西鎌尾根)
  • 飛騨乗越 - 大喰岳との鞍部(飛騨山脈の主稜線)

交通・アクセス[編集]

上高地バスターミナルの北10.7 km、アルピコ交通上高地線新島々駅から北西23.0 km、長野自動車道松本インターチェンジの西北西28.9 km、濃飛バス新穂高温泉バス停の北東9.2 km、JR東海高山本線高山駅の東北東42.1 km、松本空港の北西31.8 kmに位置する。

長野県道327号槍ヶ岳矢村線が安曇野市穂高有明字矢村から中房温泉まで通り、終点が表銀座の登山口となる。上部の区間は冬期閉鎖される。

岐阜県道475号槍ヶ岳公園線の終点新穂高ロープウェイ新穂高温泉駅付近から右俣林道が、白出小屋まで延びる。右俣林道は一般車両の通行が禁止されている。

松本市域の字槍ヶ岳は日本郵便により交通困難地に指定されており、地外から郵便物を送付することは出来ない[17]

槍ヶ岳の山容と風景[編集]

テレビ番組[編集]

NHK長野朝日放送などにより、槍ヶ岳に関するテレビ番組が多数放送されている[18]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ ゴーランドが初登頂したその日は播隆が開山してから丁度50年目。

出典[編集]

  1. ^ a b c 日本の主な山岳標高(長野県の山)”. 国土地理院. 2011年1月12日閲覧。
  2. ^ a b 中部山岳国立公園区域の概要 環境省、2011年1月6日閲覧。
  3. ^ a b c 『日本百名山』 深田久弥(著)、朝日新聞社、1982年、ISBN 4-02-260871-4、pp206-209
  4. ^ 『新日本百名山登山ガイド〈下〉』 岩崎元郎(著)、山と溪谷社、2006年、ISBN 4-635-53047-7、pp32-35
  5. ^ a b 『花の百名山』 田中澄江(著)、文春文庫ISBN 4-16-352790-7、pp262-265、代表する高山植物としてトウヤクリンドウなどを紹介した。
  6. ^ 穂苅康治「槍ヶ岳」日本山岳会編著『改訂 新日本山岳誌』ナカニシヤ出版、2016年5月4日、ISBN 978-4-7795-0995-7、945ページ。
  7. ^ 日本アルプスの登山と探検』 ウォルター・ウェストン(著)、青木枝朗(訳)、岩波文庫、1997年、ISBN 4-00-334741-2
  8. ^ 『日本の山1000』 山と溪谷社ISBN 4-635-09025-6、P422
  9. ^ 『日本女性登山史』 大月書店、1992年、ISBN 4-272-61027-9、女性登山史年表1
  10. ^ 『わが山旅五十年』 田部重治(著)、平凡社、1996年、ISBN 4-582-76134-8
  11. ^ 『北アルプス山小屋物語』 東京新聞出版局、1995年、ISBN 4-8083-0374-4、pp79-83
  12. ^ 『コンサイス日本山名辞典』 三省堂ISBN 4-385-15403-1、P535
  13. ^ 出版:文藝春秋 、著作:新田次郎『槍ヶ岳開山』(ISBN 4-16-301060-2)
  14. ^ 『花の山旅⑥ 槍ヶ岳・雲ノ平』 山と溪谷社、2000年、ISBN 4-635-01406-1、pp84-85
  15. ^ 『花の百名山地図帳』 山と溪谷社、2007年、ISBN 978-4-635-92246-3、p62
  16. ^ a b 基準点成果等閲覧サービス”. 国土地理院. 2012年2月25日閲覧。
  17. ^ 別冊(内国郵便約款第79条及び第97条関係) 交通困難地・速達取扱地域外一覧”. 日本郵便 (2022年2月21日). 2022年5月1日閲覧。
  18. ^ a b c d e NHKアーカイブス保存番組検索(槍ヶ岳)”. NHK. 2012年2月25日閲覧。
  19. ^ 小さな旅のバックナンバー(2000年9月3日放送)”. NHK. 2012年3月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年2月25日閲覧。
  20. ^ さわやか自然百景のバックナンバー(2003年2月9日放送)”. NHK. 2009年6月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年2月25日閲覧。
  21. ^ おすすめの山(槍ヶ岳)”. NHK. 2009年2月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年2月25日閲覧。
  22. ^ 夏の北アルプス あぁ絶景!雲上のアドベンチャー|NHK名作選(動画他)”. NHK. 2016年11月13日閲覧。
  23. ^ 夏の北アルプス あぁ絶景!雲上のアドベンチャー”. NHK. 2012年2月25日閲覧。 - 登山家田部井淳子アナウンサー内多勝康が、立山室堂からジャンダルムまでの縦走した際に槍ヶ岳に登頂。2009年9月14日に放送された金とくの全国放送版。
  24. ^ 北アルプス 槍ヶ岳に挑む 標高3,180メートル生中継”. 長野朝日放送. 2014年8月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年2月25日閲覧。
  25. ^ 金とくこれまでの放送(2012年9月14日放送)”. NHK名古屋放送局. 2016年3月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年9月16日閲覧。

関連図書[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]