桜前線

桜前線。2007年平成19年)3月14日、気象庁発表。

桜前線(さくらぜんせん)は、日本各地の(主に『ソメイヨシノ』)の開花予想日を結んだ線のことである。「桜前線」という言葉はマスメディアによる造語で、1967年昭和42年)頃から用いられている。

おおむね南から北へ、高度の低い所から高い所へと前線は進むが、九州より北に位置する南関東の方が先に咲く場合があるなど、開花予想日が必ずしも連続した線とはならない年もある。

気象庁による開花予想[編集]

気象庁が発表していた「さくらの開花予想」の中にて示されていた[1]。「桜前線」はマスコミによる造語であり、気象庁の公式用語ではない。気象庁の資料では、さくらの開花予想の等期日線図といっていた。

前史[編集]

明治末期から大正初年にかけて、日本各地で冷害などによる農産物への被害が多発し、その解決策として、長期予報とともに、気象の状況から植物の生育を予測して農法や栽培品種の選定に役立てる技術の研究開発が行われるようになった。

中央気象台の農業気象掛では、1926年(大正15年)から東京付近の桜の開花の調査を始め、1928年(昭和3年)には、最初の開花予想式による開花予想が試行された。その後も予測手法の改良が進められたが、あくまでも農業気象研究のひとつであり、記者の取材に答えて予想を示すことはあっても、気象台として積極的に発表することはなかった[2]

発表方法[編集]

気象庁による「さくらの開花予想」の発表は、1951年(昭和26年)に関東地方を対象に始められた。その後、1965年(昭和30年)より沖縄奄美地方を除く全国を対象に行われるようになった。2010年からは予想は取りやめて、観測のみを行っている。

気象庁は、毎年3月の第1水曜日に第1回の「さくらの開花予想」を発表していた。その後、毎水曜日に適宜修正しながら4月下旬の第8回まで予想日の発表を行い関東、北陸、甲信、東海、近畿、中国、四国、九州は第1-3回、東北は第3-5回、北海道は第6-8回で発表を行っていた。

花が5-6輪開いた場合、気象庁は「開花」と発表する。また、定義に満たなくても数輪咲いた場合は「開花間近」と発表していた(2009年平成21年)より)。

気象庁によると開花から満開(80%以上が咲いた状態)までの日数は沖縄・奄美地方で約16日、九州から東海・関東地方では約7日、北陸・東北地方では約5日、北海道地方では約4日と北上するほど短くなる傾向にあると説明している。

またさくらの開花を平均値(1981年(昭和56年) - 2010年(平成22年)の30年間の累年平均値)と比べて2日以内のズレであれば「平年並」、3日以上のズレがある場合「早い」・「遅い」、7日以上のズレがある場合「かなり早い」・「かなり遅い」と発表する。1989年(平成元年)頃から地球温暖化のため「早い」の表現が、毎年繰り返されていた[3]

観測方法[編集]

気象庁による桜の開花日・満開日の観測地点は2014年以降は全国58ヶ所。相次ぐ測候所の閉鎖で90年代後半から2010年代前半にかけて次々と減少した。主にソメイヨシノを観測対象としている(北海道地方の北部及び東部はエゾヤマザクラ、過去にはチシマザクラを観測していた地点もある。沖縄・奄美地方は、カンヒザクラ)。

桜の花芽は前年の夏に形成され始めて休眠状態に入り、秋・冬の一定期間の低温を経て春の気温上昇とともに生長して開花する。さくらの開花予想は、この桜の花芽の生長が気温に依存する性質を利用して行われる。以前は、各地の標本木の蕾をとりそのつど重さを量る方法で各気象台独自で行われていた。1996年(平成8年)からは過去の開花日や平均気温、その年の気温の状況や予想などのデータを元に前年秋からの平均気温の積算値を考慮した方法で東京にあるコンピュータを用いて全国のデータを計算していた。

2007年(平成19年)のトピックス[編集]

2007年(平成19年)の第1回発表では計算に用いるプログラムに一部不具合があったため、東京・静岡など4地点について誤った予想日を発表してしまった。このため、3月14日の第2回発表で気象庁は訂正して陳謝した。

2007年(平成19年)3月14日に気象庁が発表した開花予想によれば、鹿児島より東京の方が先に咲くとされ、実際に靖国神社にある東京都心の標本木が3月20日に全国で最初に開花した。なおこの日、東京の開花が宣言される数時間前に発表された第3回の開花予想では東京は3月22日になっており数日前から数輪の花が咲いているにもかかわらず現実を反映していない発表となった。これは現在の開花予想手法がサクラの蕾のふくらみ具合など実物の開花の様子が考慮されないことに起因する。

開花予想発表の終了[編集]

気象庁は、民間事業者による開花予想が行われるようになったため「気象の応用情報の業務は民間事業者に任せる」との理由で2010年(平成22年)より開花予想の発表をとりやめた[4][1]

これにより、現在開花予想発表は民間の5業者(ウェザーニューズウェザーマップ日本気象協会ライフビジネスウェザー日本気象株式会社)が提供を行っている。

暖冬の影響[編集]

かつては九州から北東方向にほぼ順に桜前線が北上していたが、最近は桜前線が複雑な曲線を描いて進んでいくこともある。特に九州南部の開花が九州北部や本州より遅れる逆転現象が特徴的である。その原因が「休眠打破」という現象で、暖冬傾向で桜が開花する条件である冬の間の一定の低温期間が不十分で休眠できずに開花が遅れると考えられている。

かつて桜の観測が行われていた種子島測候所(鹿児島県)では桜の満開が大幅に遅れることがしばしばあり、満開日は1975年、1978年が4月15日、2001年は4月23日、2007年は4月25日、開花日最晩を記録した1979年は4月27日である。また種子島では1990年代以降満開にならない年も増えてきていた。

また近年では鹿児島や静岡でも暖冬の影響がより顕著に表れるようになっている。2011年から2015年は冬が比較的寒く、九州の方が東京より桜の開花は早かったが、2016年以降暖冬が続き、暖冬後冷え込んだ2017年は開花日が4月5日で最晩を記録し、さらに2020年には満開日が4月19日まで遅れ最晩を記録した。なお2020年は、東京が3月22日、秋田でも4月15日に満開を迎えていて、東京から約1か月後、秋田よりも遅く満開を迎えたことになる。2019年12月から2020年2月にかけて、鹿児島では最低気温5℃未満となった日は22日しかなく(東京は54日)、桜にとって暖かい冬であったといえる。静岡では2015年まで東京より早い年が多かったが、2016年以降毎年東京より遅い開花となっている。

2001年から2022年までの桜の開花日の平均は、東京で3月22日、福岡で3月20日、鹿児島で3月25日である。

下の表は寒冬、並冬年における各地の桜の開花日と暖冬年における各地の桜の開花日の比較である。厳原(長崎県)と福江(長崎県)はそれぞれ対馬、五島列島の離島であるため九州本土よりやや開花が遅い。暖冬年において必ず北が南より早いわけではないが、おおむねそのような傾向がみられる。なお、延岡(宮崎県)は2000年3月、種子島は2007年10月、厳原と福江は2009年10月にそれぞれ測候所が廃止され現在は観測が行われていない。

寒冬年における桜の開花日(気象庁観測
地点名 1968年 1972年 1977年 1984年 1986年 1991年 2006年 2012年
札幌 04月26日 04月29日 05月11日 05月12日 05月05日 05月02日 05月08日 05月01日
東京 03月29日 03月28日 03月22日 04月11日 04月03日 03月30日 03月21日 03月31日
名古屋 04月02日 03月27日 03月26日 04月11日 04月01日 03月28日 03月26日 03月30日
大阪 04月01日 03月30日 03月27日 04月10日 04月02日 03月29日 03月28日 04月02日
福岡 03月31日 03月30日 03月23日 04月05日 03月29日 03月29日 03月23日 03月27日
暖冬年における桜の開花日(気象庁観測
地点名 1979年 1993年 1998年 2004年 2007年 2017年 2020年
札幌 05月05日 05月06日 04月23日 05月05日 05月04日 04月29日 04月30日
東京 03月23日 03月24日 03月27日 03月18日 03月20日 03月21日 03月14日
名古屋 03月27日 03月26日 03月22日 03月23日 03月23日 03月28日 03月22日
大阪 03月29日 03月29日 03月24日 03月23日 03月27日 03月30日 03月23日
福岡 03月28日 03月24日 03月19日 03月17日 03月21日 03月25日 03月21日

沖縄・奄美地方では、すでに桜の開花、満開ともに那覇と宮古島以外では平年値が遅くなってきている。石垣島のカンヒザクラはかつて1月中に満開を迎えることも多かったが、満開になるのに時間がかかるようになり、1997年以降、1月中に満開となったのは2015年だけである。また、2019年には宮古島で、2020年には石垣島、宮古島、南大東島で満開を観測できず、2021年には南大東島のカンヒザクラは開花すらしなかった。

ウェザーニューズによる開花予想[編集]

ウェザーニューズでは、2003年(平成15年)より独自の調査による開花予想を発表している。2月中旬に桜の開花傾向を発表した後、3月1日に第1回の開花予想を発表する。

発表する地点は多くの花見の名所(2010年(平成22年)は660箇所)であるが報道発表では各都道府県内の代表的な花見名所を発表するため、気象庁の予想と場所がずれることがある(気象庁の標本木は各地の気象台内にあることが多かった)。

ウェザーニューズの開花予想は、従来の手法に加え花見の名所での取材や「さくらプロジェクト」に参加するサポーターの情報などを取り入れている。

なお、2010年(平成22年)から開花日の定義を「対象の木に1輪以上開花した日」に変更すると発表した[5]

開花日と満開日[編集]

主な標本木所在地の開花日と満開日[7]
地点名 開花 平年日 1971年~2000年

開花 平年日

満開 平年日 1971年~2000年

満開 平年日

代替種目
釧路 05月19日 05月18日 05月24日 05月22日 エゾヤマザクラ
札幌 05月05日 05月05日 05月10日 05月08日 ソメイヨシノ
青森 04月27日 04月26日 05月03日 05月01日 ソメイヨシノ
仙台 04月14日 04月13日 04月19日 04月18日 ソメイヨシノ
新潟 04月13日 04月11日 04月18日 04月16日 ソメイヨシノ
金沢 04月07日 04月06日 04月12日 04月11日 ソメイヨシノ
東京 03月29日 03月28日 04月07日 04月05日 ソメイヨシノ
名古屋 03月30日 03月28日 04月06日 04月05日 ソメイヨシノ
大阪 04月01日 03月30日 04月08日 04月06日 ソメイヨシノ
広島 03月31日 03月29日 04月07日 04月05日 ソメイヨシノ
高知 03月24日 03月23日 04月01日 04月01日 ソメイヨシノ
福岡 03月28日 03月26日 04月05日 04月03日 ソメイヨシノ
鹿児島 03月27日 03月26日 04月03日 04月03日 ソメイヨシノ
那覇 01月16日 01月19日 02月02日 02月04日 カンヒザクラ

その他[編集]

  • ウェザーニューズでは、気象庁とは別に独自の調査で「さくら開花予想マップ」を作成している。桜の名所に対応した細かい予想を行っている。
  • 財団法人日本気象協会も独自の調査で都市部を中心の開花予想を作成している。観測地点は気象庁よりも多い(2008年(平成20年)現在)。

台湾でも[編集]

極東アジアでは梅前線と桜前線は、それぞれ11月と1月に台湾で始まり、その後日本列島を北上する[8]。2022年1月、台湾政府交通部は台湾中部の日月潭九族文化村と阿里山国家森林遊楽区の桜開花予想時期を発表している[9]

脚注[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]