日本国憲法第24条

日本国憲法第24条
日本国政府国章(準)
基本情報
施行区域 日本の旗日本
正式名称 日本国憲法第24条
(家族関係における個人の尊厳と両性の平等)
所属条章 第3章
主な内容 男女同権
個人の尊厳
起草者 ベアテ・シロタ・ゴードンなど
関連法令 戸籍法
民法
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(にほんこく(にっぽんこく)けんぽうだい24じょう)は、日本国憲法第3章にある条文で、「家庭生活における個人の尊厳」と「両性の本質的平等」について規定している。

条文[編集]

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第二十四条
  1. 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
  2. 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。


夫婦同姓制度に対する最高裁の合憲判決[編集]

日本では、民法第750条の規定により夫婦別姓は(国際結婚を除き)認められていない。過去には、2011年平成23年)2月14日に、この規定は憲法や女性差別撤廃条約に違反するとして国家賠償訴訟が提起され、民法の夫婦同姓規定は日本国憲法第24条に違反する、と主張された[1]。そのため、夫婦別姓制度要求者によって裁判となったが、2015年(平成27年)12月16日最高裁判所大法廷判決にて、この国家賠償請求訴訟の訴えは退けられ、民法第750条の規定(夫婦同氏規定)は合憲であり、日本国憲法第24条に違反しないとの憲法判断で確定された[2]

同性結婚との関係[編集]

ヴァイマル憲法の規定[編集]

日本国憲法第24条では婚姻について「両性の合意」や「夫婦」という文言がある。日本国憲法自体が、男女平等の概念を含むなど、草案が書かれた戦後直後時点に存在した憲法では最も民主的な内容であり、制定後に世界の自由民主主義諸国に強い影響を与えたドイツ国ヴァイマル憲法(1919年8月14日公布・施行)を参考にされているが、特に日本国憲法24条は同憲法の第119条が参考にされている[3]。ヴァイマル憲法第2章「共同生活」「第119 条〔婚姻・家族・母性の保護〕において、①婚姻は、家庭生活及び民族の維持・増殖の基礎として、憲法の特別の保護を受ける。婚姻は、両性の同権を基礎とする。②家族の清潔を保持し、これを健全にし、これを社会的に助成することは、国及び市町村の任務である。子どもの多い家庭は、それにふさわしい扶助を請求する権利を有する。③母性は、国の保護と配慮とを求める権利を有する。第120条〔子どもの教育〕子を肉体的、精神的及び社会的に有能な者になるように教育することは、両親の最高の義務であり、かつ自然の権利であって、この権利・義務の実行については、国家共同社会がこれを監督する。」と規定されている[4]

裁判・同性婚改憲[編集]

日本で同性結婚が認められていない現状が違憲であるかどうか判断を行った裁判はまだなく、2019年2月14日に同性婚を求める13組の同性カップルが国を相手取り一斉に提訴したのが初めてである[5]

2021年3月現在も係争中であるが、他の地域に先駆けて2021年3月17日札幌地方裁判所で判決が言い渡された。この判決では、「憲法24条1項は異性婚について定めたものである」とした。また、同条2項は具体的な制度構築を立法府の裁量に委ねたとする。このことから、婚姻に関する民法、戸籍法の規定が同性婚を想定していないことが直接的に憲法24条に違反するものではないとの判断を下し、同性結婚を求める原告の主張を全面的に棄却した。その一方で、この判決では「婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは,立法府の裁量権の範囲を超えたものであって,その限度で憲法14条1項に違反する」とした[注 1]。憲法学者の木村草太は、憲法24条1項は「異性婚が両性の合意のみに基づいて成立することを示しているにすぎず、同性婚を禁止した条文ではない」と主張している[7]。一方で、憲法24条1項に「両性の合意」「夫婦」という文言があることから、憲法学者君塚正臣は、同性結婚は憲法の想定されたものではなく憲法問題と認められずに棄却されると推測している[8]

自身が同性愛者であることを公表している市民活動家明智カイトは、司法関係者の間に「憲法を改正しなければ、同性婚は法的に成立しない」という意見や指摘があると述べている[9]

過去には青森県で憲法24条の規定を理由に同性婚の届出が却下されたこともあった[10][11]法学者植野妙実子は憲法24条を根拠に同性婚違憲論を唱え[12]憲法学者八木秀次も憲法の規定は「同性婚を排除している」と主張し[13]、弁護士の藤本尚道も「明確に『両性の合意のみ』と規定されていますから、『同性婚』は想定されていないというのが素直な憲法解釈でしょう」と述べている[14]法学者辻村みよ子は憲法24条の規定が「『超現代家族』への展開にブレーキをかけうる」として同性婚合法化の障壁になっているとの見解を示している[15]

弁護士濵門俊也は、憲法24条で規定されている「婚姻」には同性婚が含まれず、憲法は同性婚について何も言及していないため、同性婚の法制化は憲法上禁じられていないと考察している[16]。また、憲法第14条を根拠に同性婚を認めるべきだという見解も存在する[17]セクシュアル・マイノリティの問題に取り組む弁護士・行政書士司法書士税理士社会保険労務士などで構成するLGBT支援法律家ネットワークは、2015年12月、「『憲法24条1項は同性婚を否定していない』というのが憲法の趣旨や制定過程を踏まえた正しい解釈です。したがって、日本で同性婚制度をもうけたとしても、憲法24条1項に違反することにはなりません。日本国憲法が同性婚制度を禁止するものではないということは、憲法学者、民法学者からも有力に唱えられているところです」とする意見書を公表した[18]

2024年3月14日に、札幌高等裁判所は、憲法24条1項において保証されている婚姻の自由には「人と人との間の自由な結びつきとしての婚姻をも定める趣旨を含み、両性つまり異性間の婚姻のみならず、同性間の婚姻についても、異性間の場合と同じ程度に保障している」と解釈し、同性婚を禁止する民法及び戸籍法の規定は憲法に違反すると判断した[19]

旧憲法・公的草案比較[編集]

大日本帝国憲法[編集]

なし

(参考)
旧民法第750条
  1. 家族カ婚姻又ハ養子縁組ヲ為スニハ戸主ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
  2. 家族カ前項ノ規定ニ違反シテ婚姻又ハ養子縁組ヲ為シタルトキハ戸主ハ其婚姻又ハ養子縁組ノ日ヨリ一年内ニ離籍ヲ為シ又ハ復籍ヲ拒ムコトヲ得
  3. (略)
旧民法第772条
  1. 子カ婚姻ヲ為スニハ其家ニ在ル父母ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス但男カ満三十年女カ満二十五年ニ達シタル後ハ此限ニ在ラス
  2. 父母ノ一方カ知レサルトキ、死亡シタルトキ、家ヲ去リタルトキ又ハ其意思ヲ表示スルコト能ハサルトキハ他ノ一方ノ同意ノミヲ以テ足ル
  3. 父母共ニ知レサルトキ、死亡シタルトキ、家ヲ去リタルトキ又ハ其意思ヲ表示スルコト能ハサルトキハ未成年者ハ其後見人及ヒ親族会ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
旧民法第773条
継父母又ハ嫡母カ子ノ婚姻ニ同意セサルトキハ子ハ親族会ノ同意ヲ得テ婚姻ヲ為スコトヲ得
旧民法第809条
満二十五年ニ達セサル者カ協議上ノ離婚ヲ為スニハ第七百七十二条及ヒ第七百七十三条ノ規定ニ依リ其婚姻ニ付キ同意ヲ為ス権利ヲ有スル者ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス

GHQ草案[編集]

「GHQ草案」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。

日本語[編集]

第二十三条
家族ハ人類社会ノ基底ニシテ其ノ伝統ハ善カレ悪シカレ国民ニ滲透ス婚姻ハ男女両性ノ法律上及社会上ノ争フ可カラサル平等ノ上ニ存シ両親ノ強要ノ代リニ相互同意ノ上ニ基礎ツケラレ且男性支配ノ代リニ協力ニ依リ維持セラルヘシ此等ノ原則ニ反スル諸法律ハ廃止セラレ配偶ノ選択、財産権、相続、住所ノ選定、離婚並ニ婚姻及家族ニ関スル其ノ他ノ事項ヲ個人ノ威厳及両性ノ本質ニ立脚スル他ノ法律ヲ以テ之ニ代フヘシ

英語[編集]

Article XXIII.
The family is the basis of human society and its traditions for good or evil permeate the nation. Marriage shall rest upon the indisputable legal and social equality of both sexes, founded upon mutual consent instead of parental coercion, and maintained through cooperation instead of male domination. Laws contrary to these principles shall be abolished, and replaced by others viewing choice of spouse, property rights,inheritance, choice of domicile, divorce and other matters pertaining to marriage and the family from the standpoint of individual dignity and the essential equality of the sexes.

憲法改正草案要綱[編集]

「憲法改正草案要綱」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。

第二十二
婚姻ハ両性双方ノ合意ニ基キテノミ成立シ且夫婦ガ同等ノ権利ヲ有スルコトヲ基本トシ相互ノ協力ニ依リ維持セラルベキコト
配偶ノ選択、財産権、相続、住所ノ選定、離婚並ニ婚姻及家族ニ関スル其ノ他ノ事項ニ関シ個人ノ権威及両性ノ本質的平等ニ立脚スル法律ヲ制定スベキコト

憲法改正草案[編集]

「憲法改正草案」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。

第二十二条
婚姻は、両性の合意に基いてのみ成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の権威と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

帝国憲法改正案[編集]

「帝国憲法改正案」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。

第二十二条
婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の権威と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

関連条文[編集]

夫婦に関する判例[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 当裁判所が、本件規定が、憲法24条又は13条に違反するかについて検討したところの要旨は次のとおりである。
    (1) いわゆる婚姻をするについての自由は、憲法24条1項の規定の趣旨に照らし、十分尊重に値するものと解することができる。しかしながら、現行民法への改正や憲法が制定された戦後初期の頃においても、同性愛は精神疾患であるとされており、同性婚は許されないものと解されていた。このような経過に加え、憲法24条が「両性」など男女を想起させる文言を用いていることにも照らせば、同条は異性婚について定めたものであり、同性婚について定めるものではないと解するのが相当である。
    (2) また、婚姻及び家族に関する事項の個別規定である憲法24条2項は、具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねたと解される。その趣旨を踏まえて解釈するのであれば、包括的な人権規定である同法13条によって、同性婚を含む同性間の婚姻及び家族に関する特定の制度を求める権利が保障されていると解するのは困難である。実質的にも、同性婚という具体的制度の内容を、憲法13条の解釈のみによって直接導き出すことは困難である。
    (3) したがって、本件規定が、憲法24条及び13条に違反すると認めることはできない。[6]

出典[編集]

  1. ^ 民法改正を考える会『よくわかる民法改正―選択的夫婦別姓&婚外子差別撤廃を求めて』朝陽会、2010年
  2. ^ 平成27年12月16日 大法廷判決、平成26年(オ)第1023号。
  3. ^ 『戦後日本女性政策史: 戦後民主化政策から男女共同参画社会基本法まで』p87、神崎智子、2009年
  4. ^ [1]ワイマール憲法(日本語訳)
  5. ^ 同性婚求め13組が一斉提訴 一般社団法人共同通信社 - 2019年2月14日
  6. ^ 【判決要旨全文】「同性婚できないのは憲法違反」札幌地裁が日本初の判断”. ハフポスト (2021年3月17日). 2021年3月17日閲覧。
  7. ^ 『同性婚と国民の権利』憲法学者・木村草太さんは指摘する。「本当に困っていることを、きちんと言えばいい」(2017年5月3日、ハフィントン・ポスト
  8. ^ 君塚正臣「Baehr v. Miike」アメリカ法 1998年 (1), 94-98, 1998-07-00 日米法学会
  9. ^ 同性婚と憲法改正
  10. ^ 同性婚の問題が日本の安全保障にとってとても重要なワケ(2015年6月28日、The New Standart)
  11. ^ 青森の女性カップルが婚姻届、市は憲法根拠に不受理web東奥
  12. ^ 植野妙実子「第二十四条家族の権利と保護」『法学セミナー』545号
  13. ^ 日本の家族観に基づく法判断を 麗澤大学教授・八木秀次
  14. ^ 渋谷区「同性パートナー条例」成立にある懸念点
  15. ^ 辻村みよ子『ジェンダーと人権』(日本評論社,2008)250頁
  16. ^ 日本国憲法第24条と同性婚
  17. ^ 『LGBT 同性婚』 憲法24条 法の下の平等は
  18. ^ 同性婚と憲法24条の解釈に関する報道について【要請】 LGBT支援法律家ネットワーク有志
  19. ^ 同性婚を認めない規定は「違憲」 札幌高裁判決 初めての高裁判断:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2024年3月14日). 2024年3月17日閲覧。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • 1992年3月 米沢広一『子ども・家族・憲法 <大阪市立大学法学叢書42>』有斐閣、ISBN 4641031568
  • 1993年5月 安念潤司「憲法問題としての家族」ジュリストNo.1022、46頁
  • 1994年1月 高井裕之「家族をめぐる憲法理論の分析-公序再編論の立場から-」京都産業大学論集24巻4号(社会科学系列11号)、90頁
  • 1996年3月 二宮周平「憲法二四条は女性が策定した」
    • 1996年3月 二宮周平『変わる「家族法」』かもがわ出版、ISBN 4876992304 所収
  • 1997年12月 辻村みよ子「日本国憲法二四条と『現代家族』」
    • 1997年12月 辻村みよ子『女性と人権 歴史と理論から学ぶ』日本評論社、ISBN 4535511144 所収
  • 2005年3月 中里見博『憲法24条+9条 なぜ男女平等がねらわれるのか』(かもがわブックレット)、かもがわ出版、ISBN 4876998655
  • 2005年5月 植野妙実子『憲法二四条今、家族のあり方を考える』明石書店、ISBN 4750321095
  • 2005年5月 福島みずほ編『みんなの憲法二四条』明石書店、ISBN 4750321109
  • 2005年6月 憲法24条を活かす会編『個人・家族が国家にねらわれるとき』(岩波ブックレット)、岩波書店、ISBN 4000093533