徳倫理学

徳倫理学(とくりんりがく、: virtue ethics)は、規範倫理学の学派の一つである。義務や規則(義務論)や行為の帰結(帰結主義功利主義)を強調する他の規範倫理学の理論と対比され、や性格を強調するものとみなされている。この理論の起源は、少なくともプラトンアリストテレスに遡る(それがより古くは中国哲学に起源があるかは議論がある)。近代の徳倫理学は、必ずしもアリストテレス的な伝統を引き継いでいるわけではない。だが、多くのタイプが古代ギリシャ哲学に由来する三つの概念を利用している。これらの概念は、アレテー(卓越性や徳)、フロネーシス(実践的もしくは道徳的知慮)、エウダイモニア(普通は「幸福」と訳される)である。

他の倫理学体系との対比[編集]

徳倫理学の方法は、行為に焦点を当てた倫理学の主要な方法と対比される。たとえば義務論帰結主義者の体系も、与えられた状況で人がいかに善い行為をするべきかを決めるための、行為原理を与えようとする。

対照的に、徳倫理学は、いかによい行為をするべきかではなく、いかに善い人間になるべきかに焦点を当てる。

現代の徳倫理学[編集]

近世・近代の啓蒙的な哲学者の中には徳を強調し続ける者(たとえばデイヴィッド・ヒューム)もいたが、しだいに徳倫理学は西洋哲学の端へと追いやられてしまった。現代の復活は、哲学者G・E・M・アンスコムの1958年の論文「近代の道徳哲学」とフィリッパ・フットの1978年の論文集『美徳と悪徳』が契機とされる。1980年代から、『美徳なき時代』などで、哲学者アラスデア・マッキンタイアが近代・ポストモダン思想と向き合いながらに基づいた倫理学の再構築に取り組んできた。最近では、ロザリンド・ハーストハウスが『徳倫理学について』を出版し、ロジャー・クリスプとマイケル・スロートが『徳倫理学』という題で重要な論文を集めて編集している。加藤尚武は『徳倫理学基本論文集』の中で以下のように述べている。「徳はどこでどのようにして生産されるか。またその生産システムはどのようにして世代間に維持されるか。その答えは、言葉によってどこまで表現できるか。この問いに答えることが、徳倫理学のゆく手に見える課題である」[1]

徳倫理学の主要な論者[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 加藤尚武、児玉聡 編・監訳『徳倫理学基本論文集』勁草書房、2015年

外部リンク[編集]