平方完成

平方完成の過程を示したアニメーション。(Details, animated GIF version)

平方完成(へいほうかんせい、: completing the square)とは、二次式(二次関数)を式変形して の形を作り、一次の項を見かけ上なくすことである。この式変形は全ての二次式に可能で、一意に決まる。

を除けば、つまり と変換すれば

の形に帰着される。このことより、以下のことが導出できる:

また、平方完成の考え方を応用して解く手法も見られる(#類似の手法)。

概観[編集]

二次式 において、一次の項「」があるのとないのでは、応用上の取り扱いが大きく異なる。

変数 の形になる代わりに一次の項がなくなれば、 の違いだけで済むことができる。

ここでは、二次の係数(最高次係数)1 の場合とそうでない場合に分けてみる。

二次の係数(最高次係数)が 1 の場合

の一次の項「」をなくして の形にする。

より、一次の係数を比較すると

これにより、x2 + bx + c の平方完成は次の式になる:

二次の係数(最高次係数)が 1 でない場合

の一次の項「」をなくして にする。

二次の係数が 1 の場合で得られた等式

を利用する。

[1]

つまり、一次以上の項を二次の係数 a で括ることにより、二次の係数が 1 の場合を利用している。

二次形式の平方完成[編集]

1変数の二次式の平方完成を踏まえて、一般の n 変数二次式に対しても、平方完成ができる。例えば二変数なら

である。これは二次形式

の形で書ける。

一般の n 変数二次式は、A対称行列として

で書ける。

A が対称でないときは hk の式が

とやや一般になるが同じ式で書ける。

幾何学的解釈[編集]

二次方程式

を平方完成により解くことを考える。この過程を、面積図で表すと次のようになる。

x2 は一辺が x の正方形の面積、bx は縦横が b, x の長方形の面積に等しい。面積 bx の長方形を2等分割して、長さ x の辺で正方形と貼り合わせる。すると、正方形の角が欠けた形になる。

欠けている角に一辺が b/2 の正方形を補うと、全体が正方形になる。したがって、両辺に (b/2)2 を加えると、平方 (x + b/2)2 が完成する。

類似の手法[編集]

平方完成とは、u2 + 2uv の形の式に第三項 v2 を加えて完全平方式を作る操作である。u2 + v2 が先に与えられていても、中間項 2uv または −2uv を加えることにより完全平方式を得ることができる。

相反式の平方完成[編集]

正の実数 x に対して、自身とその逆数の和は

このように平方完成すると、正の数とその逆数の和は常に 2 以上であることが示される。

複二次式の因数分解[編集]

複二次式

因数分解することを考える。この式は と見ることができるから、中間項 2(x2)(18) = 36x2 を考え、

と因数分解できる。

二次方程式の解[編集]

二次関数のグラフ[編集]

Graphs of quadratic functions shifted to the right by h = 0, 5, 10, and 15.
二次関数のグラフが x軸方向に h = 0, 5, 10, 15 平行移動する様子。
Graphs of quadratic functions shifted upward by k = 0, 5, 10, and 15.
二次関数のグラフが y軸方向に k = 0, 5, 10, 15 平行移動する様子。
Graphs of quadratic functions shifted upward and to the right by 0, 5, 10, and 15.
二次関数のグラフが x軸方向、y軸方向共に 0, 5, 10, 15 ずつ平行移動する様子。

二次関数 xy-座標平面におけるグラフは、平方完成することによりその様子がよく分かる。

関数式 を平方完成して

これのグラフは、放物線 x軸方向に y軸方向に 平行移動したものであると分かる。特に、頂点停留点)があり、その座標

であることが分かる。軸の方程式は

である。

a > 0 の場合、x = h最小値 k をとる。
a < 0 の場合、x = h最大値 k をとる。

応用[編集]

積分[編集]

不定積分

の被積分関数に平方完成を適用すれば、より基本的な積分

または

に帰着できる(積分定数)。

複素数[編集]

z複素数とするとき、

b は複素数、c実数
z*, b* はそれぞれ z, b複素共役

は常に実数である。このことは、複素数に対する恒等式 |u|2 = uu* を用いて、式を以下のように変形すると分かる:

別の例として、a, b, x, y を実数とするとき、

は、a > 0, b > 0 のとき、複素数の絶対値の平方を用いて書くことができる。実際に、 と置けば

となる。

冪等行列[編集]

正方行列 M冪等とは M2 = M が成り立つことである。

は、 ならば冪等行列である。平方完成により

M が実行列なら、これは ab-平面において中心 (1/2, 0)、半径 1/2 の円の方程式である。角度 θ を用いて書けば、

と媒介変数表示できる。

参考文献[編集]

  1. ^ Narasimhan, Revathi (2008). Precalculus: Building Concepts and Connections. Cengage Learning. pp. 133–134. ISBN 0-618-41301-4. https://books.google.com/books?id=hLZz3xcP0SAC , Section Formula for the Vertex of a Quadratic Function, page 133–134, figure 2.4.8

外部リンク[編集]