参謀

参謀(さんぼう、: Stab: staff: État-Major)とは、作戦・用兵などに関して計画・指導にあたる将校[1]幕僚(ばくりょう)とも呼ばれるが、大日本帝国軍の「参謀」は「幕僚」の下位概念であり、自衛隊では「参謀」の語は用いず「幕僚」に統一されている。

概要[編集]

軍隊において部隊の指揮系統は単一であるために、あらゆる決心は指揮官が単独で行う。しかしながら高級指揮官は軍事作戦を指揮統制するために処理すべき情報や作業が膨大なものとなる。これを組織的に解決するために参謀組織が情報収集、情報処理などの面で高級指揮官を補佐することとなる。そのために指揮官に対する発言権は認められていたとしても、部隊の指揮権は持たない。ただし、最上位においては参謀総長、幕僚長のように参謀が実質的最高司令官を兼ねているケース(この場合文民統制の観点から名目的には最高司令官は元首等である)も多い。

幕僚組織は全般的に高級指揮官(陸軍を例にすると主に総軍総司令官方面軍司令官司令官・軍団司令官・師団長・旅団長といった戦略単位の上級部隊を率いる指揮官)を司令部にて補佐する。

慣用句比喩として、組織において参謀的な立場の人物や、上司・主君・リーダーに対する補佐的な仕事をつとめ、忠実でいざというときに頼りになる信頼のおける部下・家来のことを参謀(参謀格、参謀役)などといい、「懐刀」などとほぼ同義で使われる。

歴史[編集]

参謀制度は、近代以降の軍事組織の合理化によって形成された。

近代的な参謀制度は、プロイセンドイツ)の参謀本部から始まった。これまで個々の指揮官の裁量に任されてきた指揮統制の機能を一般化・組織化することが理由であった。プロイセンの参謀としては、シュリーフェンモルトケなどが有名である。この組織は有効性が認められて以降は各国軍で採用されるようになった。なおドイツ陸軍ではプロイセン以降、ナチス・ドイツ時代の国防軍に至るまで独立した兵科として参謀科を置いていた。

日本の参謀制度[編集]

自衛隊[編集]

自衛隊においては、参謀という言葉は用いられない

日本軍[編集]

旧日本軍においては、幕僚の中でも特に作戦・用兵を担当する将校を「参謀」と呼称し、その他の幕僚と別扱いにした。

陸軍[編集]

1930年代前半の陸大恩寵組

旧日本陸軍では、参謀総長陸軍三長官)が長を務める参謀本部を筆頭に、部隊では参謀部旅団以上に設置された。総司令部を擁する総軍参謀部の長は「総参謀長」と、方面軍以下の参謀部の長は「参謀長」と称した。

参謀は参謀本部管轄の陸軍大学校(陸大)で養成された。

著名な陸軍参謀として、

などが知られている。

海軍[編集]

旧日本海軍では、軍令部総長が長を務める軍令部を筆頭に、部隊では参謀部は艦隊戦隊などに設置された。

海軍大学校(海大)は参謀養成学校ではなく、陸軍とは異なり海大卒業生以外も参謀職についている[2]

著名な海軍参謀としては、

などが知られている。

世界の参謀制度[編集]

アメリカ合衆国[編集]

統合参謀本部議長マーク・A・ミリー陸軍大将

米軍統合参謀本部幕僚の教科書である『統合軍参謀マニュアル』(白桃書房、1989年)によれば、アメリカ軍の"Staff"制度は以下[3]

  • 幕僚長参謀長、Chief of staff) - 一般幕僚と特別幕僚を指揮し、幕僚部を統括する。
  • 幕僚副長参謀副長、Deputy chief) - 作戦担当(Plans and Operations)と管理担当(Administration)がおり、幕僚長(参謀長)を補佐する。
  • 一般幕僚(General staff) - それぞれの部門の長で構成され、幕僚会議で全ての分野に発言権を持ち、各分野を調整する。
    • 人事・行政幕僚(参謀)
    • 情報幕僚(参謀)
    • 作戦幕僚(参謀)
    • 後方幕僚(参謀)
    • 計画幕僚(参謀)
    • 通信幕僚(参謀)
  • 特別幕僚(Special staff) - 司令部の専門将校などから構成され、指揮官の指揮下で、一般幕僚の調整を受ける。参謀長の指揮統制で増員や減員を受けるため必ずしも一様ではない。
    • 工兵幕僚
    • 輸送幕僚
    • 監察幕僚
    • 広報幕僚
    • 会計幕僚
    • 法務幕僚
    • 憲兵幕僚
    • その他専門幕僚

その他[編集]

  • 軍隊組織を採用している救世軍では、教団事務局長にあたる役職名を「参謀総長」としている。

脚注[編集]

  1. ^ 字通,世界大百科事典内言及, ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典,精選版 日本国語大辞典,百科事典マイペディア,デジタル大辞泉,普及版. “参謀とは”. コトバンク. 2022年7月11日閲覧。
  2. ^ 吉田俊雄『海軍参謀』ISBN 4-16-736005-5 pp.61-62、p.117
  3. ^ J.D.ニコラス空軍大佐、G.B.ピケット陸軍大佐、W.O.スピアーズ海軍大佐著、野中郁次郎、谷光太郎訳『統合軍参謀マニュアル』(白桃書房、昭和62年)54 - 76頁

参考文献[編集]

  • J.D.ニコラス空軍大佐、G.B.ピケット陸軍大佐、W.O.スピアーズ海軍大佐著、野中郁次郎、谷光太郎訳『統合軍参謀マニュアル』(白桃書房、昭和62年)ISBN 978-4561241409
  • 松村劭『バトル・シミュレーション 戦術と指揮 命令の与え方・集団の動かし方』(文藝春秋、2005年)

関連項目[編集]