ヨーロッパ通常戦力条約

ヨーロッパ通常戦力条約
通称・略称 CFE条約
署名 1990年11月19日
署名場所 パリ
発効 暫定: 1992年7月17日[1]
正式: 同年11月9日[2]
主な内容 核兵器以外の通常戦力の削減
条文リンク 欧州安全保障協力機構(OSCE)
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ヨーロッパ通常戦力条約(ヨーロッパつうじょうせんりょくじょうやく、英名:Treaty on Conventional Armed Forces in Europe)は、欧州各国が核兵器以外の通常戦力の削減について締結した条約。通称CFE条約

概要[編集]

第二次世界大戦後初の通常戦力削減に関する軍縮条約である。

署名は1990年11月、暫定発効を経て1992年11月に正式発効した。条約が提起され、締結について議論されたのが冷戦中であり、条約は冷戦の継続を前提として通常戦力の削減について定めている。その後、冷戦終結による国際情勢の変化などを受け、1997年1月から、いわゆる条約の適合化交渉が始まり、1999年11月に条約適合のための合意文書、通称「CFE適合条約」が作成された。ただ、同適合条約はロシアなど一部の国のみが批准しており発効していない。

2007年4月26日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はNATO諸国がCFEを批准していないとしてCFE履行の一時的な履行停止を宣言し[3]、同年7月15日に履行を停止する大統領令に署名[4]。同年11月30日には条約の履行停止法案に署名した[5]2023年5月29日には条約を破棄する法律に署名し[6]11月7日に正式にCFEを脱退した[7]。同日、NATOは脱退を非難した上で、CFEの履行を停止すると発表した[8]

締約国[編集]

NATO 16ヶ国

ワルシャワ条約機構 13ヶ国

過去の締約国[編集]

ワルシャワ条約機構 1ヶ国

内容[編集]

この条約は、戦車装甲戦闘車両火砲戦闘機攻撃ヘリの5つのカテゴリーの兵器について、東西両陣営において保有数の上限を定め、上限を超える兵器の速やかな廃棄、および条約遵守のための査察について取り決めている。

以下は5つのカテゴリーそれぞれの兵器について、条約締結時点(1992年7月)の各陣営の保有数、および条約で定められた目標数を示している。

上段:現有数
下段:削減目標数
NATO 旧ワルシャワ
条約機構
アメリカ ロシア連邦
戦車 24,093
20,000
31,773
20,000
5,163
4,006
9,338
6,400
装甲戦闘車両 33,827
30,000
44,218
30,000
4,963
5,372
19,399
11,480
火砲 19,831
20,000
26,575
20,000
1,973
2,492
8,326
6,415
戦闘用航空機 5,118
6,800
8,542
6,800
398
784
4,624
3,450
攻撃ヘリ 1,685
2,000
1,512
2,000
349
518
1,005
890

脱法行為[編集]

条約の規制の網目をすり抜けるような「条約逃れ」を目的としたとも解釈できる装備を開発・配備する例もある。

代表的一例としては、保有総数を規制されている「口径100mm以上の火砲」に該当する120mm迫撃砲の不足を補うためにポーランドが開発したM-98迫撃砲が挙げられる。M-98迫撃砲の口径は98mmであり、条約の規制をかろうじてクリアしているため、条文の定義上は保有数を規制できない。

もう一つの例としては、ロシアが開発した「戦車支援戦闘車」(戦車を対戦車車両や歩兵の対戦車攻撃から援護するための車両で、大砲を装備しない替わりに「非装甲目標を攻撃する」ことに特化した装備を持つ)である「BMP-T」と呼ばれる戦闘車両を調達・配備する際に、ロシア国防省は「BMP-Tは戦車でも兵員輸送車でもなく、条約締結の時点で存在しなかった新カテゴリの兵器なので、同条約には規定されず、報告の義務も保有数の制限も無い」として条約の存在を無視した装備とすることを公言した、という例がある[9]

いわゆる“無人機”や“ロボット兵器”についても、2012年現在では明確な規定はない。

脚注[編集]

  1. ^ 米国国務省, "CFE treaty and CFE-1A agreement - Conventional Armed Forces in Europe", July 13, 1992.
  2. ^ Joseph Harahan and John Kuhn, On-Site Inspections Under the CFE Treaty, Chapter 3, Federation of American Scientists, 1996, 2008年9月15日閲覧。
  3. ^ “プーチン大統領、欧州通常戦力条約の凍結を宣言 - ロシア”. AFPBB News. フランス通信社. (2007年4月26日). https://www.afpbb.com/articles/-/2216820 2023年5月31日閲覧。 
  4. ^ “ロシア、欧州通常戦力条約の履行停止”. AFPBB News. フランス通信社. (2007年7月15日). https://www.afpbb.com/articles/-/2253560 2023年5月31日閲覧。 
  5. ^ “ロシア大統領、欧州通常戦力条約の履行停止法案に署名”. ロイター. (2007年11月30日). https://jp.reuters.com/article/idJPJAPAN-29136120071130 2023年5月31日閲覧。 
  6. ^ “ロシアが「欧州通常戦力条約」を脱退 フィンランドのNATO加盟に対抗措置”. 産経新聞. (2023年5月29日). https://www.sankei.com/article/20230529-WXLY7QBXVJK5JG2NOL6WWF6NVI/ 2023年5月30日閲覧。 
  7. ^ “ロシア、欧州通常戦力条約から正式脱退”. ロイター. (2023年11月7日). https://jp.reuters.com/world/ukraine/BVSIXL43QNNDTO53FQXG5KVEAY-2023-11-07/ 2023年11月8日閲覧。 
  8. ^ “露のCFE条約脱退非難 NATO、条約履行停止”. 産経新聞. (2023年11月8日). https://www.sankei.com/article/20231108-6GNEOCLQURPQ3D3DNEI7YOWYHQ/ 2023年11月8日閲覧。 
  9. ^ ただし、BMP-T自体はロシア軍の装備に対する方針の変化と予算面の問題から、2010年をもって当初の予定数を満たずに調達は終了している。

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

  • 条文(欧州安全保障協力機構(OSCE))