ヤエヤマサソリ

ヤエヤマサソリ
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 鋏角亜門 Chelicerata
: クモガタ綱 Arachnida
: サソリ目 Scorpiones
亜目 : ゲンセイサソリ亜目 Neoscorpionina
下目 : オレイタサソリ下目 Orthosternina
小目 : ドクオサソリ小目 Iurida
上科 : サソリ上科 Scorpionoidea
: オボソサソリ科 Hormuridae
: ナメラカハサミサソリ属 Liocheles
: ミナミアジアナメラカハサミサソリ L. australasiae
学名
Liocheles australasiae
(Fabricius, 1775)
シノニム

Scorpio australasiae Fabricius, 1775
Ischnurus complanatus C. L. Koch, 1837
Scorpio gracilicauda Guérin Méneville, 1843
Scorpio cumingii Gervais, 1844
Chactas brunneus Bellevoye, 1870
Ischnurus pistaceus Simon, 1877
Hormurus suspectus Thorell, 1888
Buthus brevicaudatus Rainbow, 1897
Hormurus brevidigitatus Werner, 1936
Hormurus australasiae Chapin 1957

和名
ミナミアジアナメラカハサミサソリ
ヤエヤマサソリ
英名
Dwarf Wood Scorpion

ヤエヤマサソリ(八重山蠍、学名 Liocheles australasiae (Fabricius,1775))は、クモガタ綱サソリ目オボソサソリ科に属するサソリである。別名ミナミアジアナメラカハサミサソリ。日本に産するサソリ2種のうちの1つで、人に対する危険は少ない。

概説[編集]

日本に分布するサソリとしてマダラサソリ(Isometrus maculatus)と共に、「ヤエヤマサソリ」として広く知られている。その名の通り日本では主に八重山諸島に分布している。

雌性産生単為生殖が出来、雌1匹だけで殖えることが可能。これが要因で分布域を広げていると考えられる。オスはオセアニア(オーストラリア及びパプアニューギニア) (Koch,1977)とタイ(L.Monod&L.Prendini, 2014)でのみ発見されており、日本を含む他の地域ではオスは発見されていない。

特徴[編集]

体長は約20mm。大型個体は30mmを超える。全身はほぼ暗褐色で、鋏状の触肢は褐色。毒嚢の部分は黄色。

体は扁平。頭胸部を覆う背甲の前方両側面にはそれぞれ3対の側眼、中央には1対2個の中眼がある。その腹側を覆う胸板は前が尖ったはっきりした五角形。腹部の腹面前方にある櫛状板は、その歯が太短い円柱状で4-8と数が少ない。

後腹部は細く、先端の毒針は下に曲がる。副針はない[1]

ヤエヤマサソリ

なお、雄の特徴として腹部が小さく、触肢の鋏の形状が異なる。

分布[編集]

東アジアや南アジア、東南アジア、ポリネシア、オセアニアにかけて広く分布する種類。詳しくは以下の通り。

リユニオン、 ミャンマーインド (アンダマン諸島ニコバル諸島含む)、バングラデシュスリランカ台湾韓国(絶滅?)、日本タイベトナムマレーシアフィリピンマリアナ諸島マーシャル諸島インドネシアオーストラリア(クリスマス諸島ココス諸島含む)、パプアニューギニア(ビスマルク諸島含む)、ソロモン諸島(バニコロ島サンタクルス島含む)、バヌアツ(ニューヘブリディーズ諸島)、ツバル(フナフティ島)、ミクロネシア(キャロライン諸島ヤップ)、フィジートンガサモアポリネシア (タヒチ)、ポナペニューブリテンニューカレドニア(ロイヤリティ諸島含む)、ネパール?、ティモールパラオ中国

日本では沖縄諸島の一部、宮古諸島のほぼ全域、八重山諸島のほぼ全域に分布する。具体的には以下の通り。

島名 文献
座間味島 河合, 2021b
宮古島 下謝名, 1972
来間島 河合, 2021a
伊良部島 河合, 2020a
下地島(宮古島市) 河合, 2020a
多良間島 下謝名, 1999
石垣島 下謝名, 1972
西表島 高島, 1942
小浜島 千木良・田中, 2004
竹富島 田中, 2012
黒島 唐沢・川添, 2005
波照間島 河合, 2020
与那国島 河合, 2020a

まれに、荷物などに紛れて本土の港湾などで発見された例がある。

生態[編集]

倒木や立ち枯れの木の樹皮下や落ち葉下などに生息している。

日本蠍研究所 河合上総により宮古諸島での詳しい生息環境について調査されている。[2]

生殖[編集]

雌性産生単為生殖が出来、雌1匹だけで殖えることが可能。

産まれた若虫は、すぐに雌成虫の背中に登り、ここで約1週間をなにも食べずに過ごす。それから母親の背中から降り、それ以降は自立して生活を始める。

単為生殖について[編集]

ヤエヤマサソリは雌性産生単為生殖によって雌だけで繁殖が可能であることが分かっている。

これは、先ず牧岡俊樹らが1984年頃より、西表島マレーシアキャメロンハイランドに於いて、この種で年間を通じて雄が出現しないことを発見したことに始まる。これを元に、西表島の個体群から雌の単独飼育による複数回の出産や単独飼育で3代までを得たことでこの可能性が強まった。山崎はさらにこれを徹底し、単独飼育で5代目までを得ることに成功し、さらにその単為発生の仕組みについても研究をした[3]

世界のサソリのうち、同様の単為生殖を行うとされているのは本種を含めて数種のみである。同属の他種で性比を調べられた例では、雌雄がほぼ1:1で存在するとみられる。また、本種についても地域によっては少数の雄が出現するとの報告もあり、部分的には通常の生殖も行われている可能性がある[4]

毒性[編集]

サソリは毒性が恐ろしいと必要以上に警戒されるが、この種の場合、刺された例を聞くことすらほとんどない。刺された場合にも軽く痛みを感じる程度[5]とされている。そもそも、針があまりにも小さく貧弱であるため人間の皮膚を貫くことすらできない場合が多い。

なお、これは毒を持たないという意味ではなく、人間に対する毒性がごく弱いことを意味するだけである。サソリの毒は大型の天敵に対する防護にも使われるが、餌となる昆虫等を捕殺するためのものであり、実際にこの種の毒からは昆虫に特異的に効果を持つ成分が複数発見されている[6]

類似の種など[編集]

マダラサソリ

日本のサソリとしてはもう1種、マダラサソリがあり、先島諸島(宮古列島及び八重山列島)と小笠原諸島に分布する。しかし全体に細長く、鋏も長い上、体色が淡褐色にまだら模様なので、区別はたやすい。毒性はヤエヤマサソリよりは強いが、やはり大したことはないとされる[5]

脚注[編集]

  1. ^ 岡田(1967)p.341
  2. ^ Kawai, Kazusa (2021-02-10). “Habitat characteristics of two scorpion species, Liocheles australasiae (Fabricius, 1775) and Isometrus maculatus (De Geer, 1778) in Miyako Islands, Japan”. Euscorpius 2021 (331): 1–17. ISSN 1536-9307. https://mds.marshall.edu/euscorpius/vol2021/iss331/1. 
  3. ^ 山崎(2006),p.109
  4. ^ Francke(2008)p.97-98
  5. ^ a b 梅谷(1994)、P.246
  6. ^ 松下(2009)

参考文献[編集]

  • 河合上総, 2020a ヤエヤマサソリ Liocheles australasiae (Fabricius, 1775)の分布域 ―伊良部 島, 下地島 (宮古島市), 与那国島からの初記録-. Fauna Ryukyuana. 54: 7–9.
  • 河合上総, 2020b ヤエヤマサソリとマダラサソリ(クモ綱サソリ目) の波照間島からの記録. Fauna Ryukyuana, 56:9-11.
  • Kawai, K. 2021a Habitat characteristics of two scorpion species, Liocheles australasiae (Fabricius, 1775) and Isometrus maculatus (De Geer, 1778) in Miyako Islands, Japan. Euscorpius, No. 331: 1-17.
  • 河合上総, 2021b ヤエヤマサソリ Liocheles australasiae (Fabricius, 1775) の座間味島 ( 中琉球 ) からの記録. Fauna Ryukyuana, 60: 21–25
  • Fabricius,1775 Systema entomologiae, sistens insectorum classes, ordines, genera, species, adiectis, synonymis, locis descriptionibus observationibus. Flensburg and Lipsiae.
  • Koch,1977 The toxonomy, geographic distribution and evolutionary rediation of Australo-Papuan scorpions. Records of the Western Australian Museum. 5(2).
  • L.Monod&L.Prendini, 2014 Evidence for Eurogondwana: the roles of dispersal, extinction and vicariance in the evolution and biogeography of Indo-Pacific Hormuridae (Scorpiones: Scorpionoidea). Cladistics 31 (2015) 71–111.
  • Makioka,1993 Reproductive biology of the viviparous scorpion, Liocheles australasiae (Fabricius) (Arachnida, Scorpiones, Ischnuridae) IV. Pregnancy in females isolated from infancy, with notes on juvenile stage duration, Invertebrate Reproduction and Development. 24(3).
  • 唐沢重考&川添和英, 2005 琉球列島におけるヤエヤマサソリLiocheles australasiae (Fabricius) の分布—黒島からの初記録—. Edaphologia. 78: 15–17.
  • 下謝名松栄, 1972. 琉球列島の蛛形類の分布. 遺伝, 26: 100–106.
  • 下謝名松栄, 1999.クモ綱Arachnida・サソリ目Scorpionida,日本産土壌動物一分類のための図解検索(青木淳一   編 ),pp135−138. 東海大学 出版会.
  • 高島春雄, 1942. 東亞産全蠍類脚鬚類の調査 (其の五). Acta Arachnologica, 7: 24–30.
  • 田中聡, 2012. 竹富島産ヤエヤマサソリの繁殖について. 沖縄県立博物館・美術館博物館班 (編) 竹富島総合調査報告書. Pp. 7–12, 沖縄 県立博物館・美術館, 沖縄.
  • 千木良芳範・田中聡, 2004. 小浜島で確認された 蛛形類, 唇脚類および倍脚類について. 沖縄 県立博物館 (編) 小浜島総合調査報告書. Pp. 13–19, 沖縄県立博物館, 沖縄.

外部リンク[編集]