メタアナリシス

証拠(科学的根拠またはエビデンス)の強さは、上に行くほど強くなる。上に向けて蓄積されていくので二次研究が一次研究を拾いきれないラグも起こりうる。また効果のみを評価し副作用を考慮していない場合もある。
  in vitro(試験管)など

(ニューヨーク州立大学作成[1]

メタアナリシス(meta-analysis)とは、複数の研究の結果を統合し、より高い見地から分析すること、またはそのための手法や統計解析のことである。メタ分析メタ解析とも言う。ランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシスは、根拠に基づく医療 (EBM) において、最も質の高い根拠とされる[2]。メタ分析は科学的総合の重要な部分だが[3]、メタ分析を理解せずに結論を受け入れるのは危険である[4]

メタアナリシスという言葉は、情報の収集から吟味解析までのシステマティック・レビューと同様に用いられることがある[5]。厳密に区別する場合、メタアナリシスはデータ解析の部分を指す[6][5]。また、メタアナリシスとシステマティックレビューをまとめてリサーチ・シンセシスとも言う。

Graphical summary of a meta-analysis of over 1,000 cases of diffuse intrinsic pontine glioma and other pediatric gliomas, in which information about the mutations involved as well as generic outcomes were distilled from the underlying primary literature.

歴史[編集]

20世紀初頭の1904年の報告書にて、イギリスの統計学者のカール・ピアソンが、臨床試験の結果をメタアナリシスによって最初に分析したとされている[7]。その後1920年代には、イギリスの統計学者のロナルド・フィッシャーが農業の分野で複数の研究の分析の方法を挙げて、1935年には著書で発表した[7]

1971年には、ノーベル化学賞とノーベル平和賞の受賞者である化学者ライナス・ポーリングが、ビタミンCの摂取は風邪の予防や治療に効果があることは、4件のランダム化比較試験を統合した結果によって裏付けられているとしている[8]。これは医学における初期のメタアナリシスのひとつに数えられるものである[9]。なおこの予防効果については賛否両論のある形で研究が続いてきた[10]

1976年には統計学者のジーン・V・グラス英語版がメタアナリシスという用語を「複数の研究を統合して分析する」という意味で説明し、その数年後には医学分野で盛んに採用されるようになった[7]。また、1990年代初頭までには「文献を偏りなく探索する」システマティックレビューという言葉との混用が見られるようになった[7]

2020年、人工知能を使ったメタアナリシスの迅速な作成方法が発明された[11]

手順[編集]

メタアナリシスは、研究の抽出とプール解析の手順を踏む。この際に、主観的あるいは恣意的なバイアスを避けるのは、ランダム化比較試験(RCT)からの連続である[12]

  • 研究の抽出:見つかった研究全てを対象とする。恣意的に研究を抽出することを避ける[13]
  • プール(pool):データを結合し、治療群と対照群それぞれのエンドポイントの平均値を算出する。
  • 効果量英語: effect sizeの算出:治療群と対照群の平均値の差異を標準偏差で割る。効果量の値が、治療がプラスになるのかマイナスになるのかの客観的な尺度として算出される。

ランダム化比較試験において、治療群と対照群の改善度の差異が小さい場合、統計による検出力が低く、統計的有意性のある差異が発見されないことがある。しかし、メタアナリシスによって、母集団の数を大きくすることで、この統計的有意性のある差異が発見される可能性が上がる。

バイアスの問題[編集]

製薬会社が自社の医薬品の有効性を良く見せるために、良い結果の研究のみを選択してプール解析を行う場合があるが、厳密にはメタアナリシスではない[13]

選択的包含バイアス[編集]

メタアナリシスにおける選択的包含バイアスを理解するために、メタアナリシスがどのように試験の効果推定値を測定しているかを公表することが推奨されることがある[14][15]

出版バイアス[編集]

否定的な結果が論文となって公表されにくいという出版バイアスにより[12]、結合する元のデータに肯定的な結果が多くなってしまう。抗うつ薬パキシルの否定的な結果のデータの隠蔽から、薬剤の有効性と危険性が再評価された結果、評価が下がったことから出版バイアスの影響が懸念された[16]。パキシルの不祥事からの議論は、世界医師会や医学雑誌編集者国際委員会による研究の事前登録に関する声明や、2005年の世界保健機関(WHO)や2007年のアメリカ医薬品局(FDA)による研究登録制度の構築につながった[17]。出版バイアスを軽減する方法の一つに、情報公開法に基づいて、各国の規制機関から薬の認可のために提出された全データを入手し分析する手法がある[18]

メタアナリシスに灰色文献を含めると、メタアナリシスの信頼性が向上すると言われることがある。その理由は、灰色文献の厳密さは公表文献と変わらないからであり[19]、お蔵入り問題の解決策として灰色文献をメタアナリシスに含めるべきである。しかし、未発表や灰色文献の研究結果を含まないメタアナリシスの質に大きな影響を与えるメタアナリシスはごく少数であるとされることもある[20]

出典[編集]

  1. ^ SUNY Downstate EBM Tutorial”. library.downstate.edu. 2004年3月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年9月3日閲覧。
  2. ^ 津谷喜一郎、正木朋也 2006, p. 12.
  3. ^ Morrissey, M. B. (2016-10). “Rejoinder: Further considerations for meta‐analysis of transformed quantities such as absolute values” (英語). Journal of Evolutionary Biology 29 (10): 1922–1931. doi:10.1111/jeb.12951. ISSN 1010-061X. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jeb.12951. 
  4. ^ Ahn, EunJin; Kang, Hyun (2018-04-02). “Introduction to systematic review and meta-analysis” (英語). Korean Journal of Anesthesiology 71 (2): 103–112. doi:10.4097/kjae.2018.71.2.103. ISSN 2005-6419. PMC PMC5903119. PMID 29619782. http://ekja.org/journal/view.php?doi=10.4097/kjae.2018.71.2.103. 
  5. ^ a b 津谷喜一郎 2003.
  6. ^ Box”. app.box.com. 2022年7月9日閲覧。
  7. ^ a b c d O'Rourke K (December 2007). “An historical perspective on meta-analysis: dealing quantitatively with varying study results”. J R Soc Med 100 (12): 579–82. doi:10.1177/0141076807100012020. PMC 2121629. PMID 18065712. https://doi.org/10.1177%2F0141076807100012020. 
  8. ^ Pauling L (November 1971). “The significance of the evidence about ascorbic acid and the common cold”. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 68 (11): 2678–81. doi:10.1073/pnas.68.11.2678. PMC 389499. PMID 4941984. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC389499/. 
  9. ^ Hemilä H (March 2017). “Vitamin C and Infections”. Nutrients 9 (4). doi:10.3390/nu9040339. PMC 5409678. PMID 28353648. https://doi.org/10.3390/nu9040339. 
  10. ^ Office of Dietary Supplements - Vitamin C (Report). アメリカ国立衛生研究所. 18 September 2018.
  11. ^ Michelson, Matthew; Chow, Tiffany; Martin, Neil A; Ross, Mike; Tee Qiao Ying, Amelia; Minton, Steven (2020-08-17). “Artificial Intelligence for Rapid Meta-Analysis: Case Study on Ocular Toxicity of Hydroxychloroquine” (英語). Journal of Medical Internet Research 22 (8): e20007. doi:10.2196/20007. ISSN 1438-8871. PMC PMC7459430. PMID 32804086. http://www.jmir.org/2020/8/e20007/. 
  12. ^ a b 津谷喜一郎、正木朋也 2006, pp. 9–12.
  13. ^ a b アービング・カーシュ 2010, pp. 60–61.
  14. ^ Page, Matthew J; Forbes, Andrew; Chau, Marisa; Green, Sally E; McKenzie, Joanne E (2016-04). “Investigation of bias in meta-analyses due to selective inclusion of trial effect estimates: empirical study” (英語). BMJ Open 6 (4): e011863. doi:10.1136/bmjopen-2016-011863. ISSN 2044-6055. PMC PMC4853995. PMID 27121706. https://bmjopen.bmj.com/lookup/doi/10.1136/bmjopen-2016-011863. 
  15. ^ Page, Matthew J.; McKenzie, Joanne E.; Forbes, Andrew (2013-05). “Many scenarios exist for selective inclusion and reporting of results in randomized trials and systematic reviews” (英語). Journal of Clinical Epidemiology 66 (5): 524–537. doi:10.1016/j.jclinepi.2012.10.010. https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0895435612003460. 
  16. ^ Joober, Ridha; Schmitz, Norbert; Annable, Lawrence; Boksa, Patricia (May 2012). “Publication bias: What are the challenges and can they be overcome?”. Journal of Psychiatry & Neuroscience 37 (3): 149–152. doi:10.1503/jpn.120065. PMC 3341407. PMID 22515987. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3341407/. 
  17. ^ Bian, Zhao-Xiang; Wu, Tai-Xiang (2010). “Legislation for trial registration and data transparency”. Trials 11 (1): 64. doi:10.1186/1745-6215-11-64. PMC 2882906. PMID 20504337. http://www.trialsjournal.com/content/11/1/64. 
  18. ^ Huedo-Medina, T. B.; Kirsch, I.; Middlemass, J.; Klonizakis, M.; Siriwardena, A. N. (2012). “Effectiveness of non-benzodiazepine hypnotics in treatment of adult insomnia: meta-analysis of data submitted to the Food and Drug Administration”. BMJ 345 (dec17 6): e8343. doi:10.1136/bmj.e8343. PMC 3544552. PMID 23248080. http://www.bmj.com/content/345/bmj.e8343. 
  19. ^ Conn, Vicki S.; Valentine, Jeffrey C.; Cooper, Harris M.; Rantz, Marilyn J. (2003-07). “Grey Literature in Meta-Analyses” (英語). Nursing Research 52 (4): 256. ISSN 0029-6562. https://journals.lww.com/nursingresearchonline/abstract/2003/07000/grey_literature_in_meta_analyses.8.aspx. 
  20. ^ Schmucker, Christine M.; Blümle, Anette; Schell, Lisa K.; Schwarzer, Guido; Oeller, Patrick; Cabrera, Laura; von Elm, Erik; Briel, Matthias et al. (2017-04-25). Pietschnig, Jakob. ed. “Systematic review finds that study data not published in full text articles have unclear impact on meta-analyses results in medical research” (英語). PLOS ONE 12 (4): e0176210. doi:10.1371/journal.pone.0176210. ISSN 1932-6203. PMC PMC5404772. PMID 28441452. https://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0176210. 

参考文献[編集]

外部リンク[編集]