ミドリムシ

ミドリムシ
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: エクスカバータ Excavata
階級なし : Discoba
階級なし : 盤状クリステ類 Discicristata
階級なし : ユーグレノゾア Euglenozoa
: ユーグレナ類 Euglenida
: ユーグレナ藻綱 Euglenophyceae
: ユーグレナ目(ミドリムシ目)Euglenales
: ユーグレナ科(ミドリムシ科)Euglenaceae
: ミドリムシ属 Euglena
学名
Euglena Edwards[1]1830
和名
ミドリムシ、ユーグレナ

ミドリムシ(緑虫)は、ユーグレナ植物門ユーグレナ藻綱ユーグレナ目に属する鞭毛虫の仲間であるミドリムシ属 Euglena の総称。商用では名称としてミドリムシの代わりに「ユーグレナ」を用いる場合も多い。古くはユーグレムシの名称が使われたこともある[2]。本項目では E. gracilisE. proxima などを含む、典型的なミドリムシに関して記述する。

特徴[編集]

Euglena 細胞中央のピンク色の球は細胞核、多数見られる緑色の顆粒は葉緑体、上部の赤い点は euglena という名前の由来でもある眼点(eu- 真の、美しい+glena 眼)。

淡水ではごく普通に見られる生物である。止水、特に浅いたまり水に多く、春から夏にかけて水田ではごく頻繁に発生する。ミドリムシは時々大量発生することがあり、場所や時期にもよるが、春先に水が張られた水田で大量発生するときが多い。 水が張られたばかりの水田などが色づくのは藻類の大量発生によるものでブルーム(bloom)などと呼ばれ、多くは珪藻により茶色っぽくなるが、深緑色の際はミドリムシによる場合がある。

水面に膜が張る、泡立ったりしている水温が上がるなどして生育に適さない環境条件になると、細胞が丸くなってシスト様の状態となり、水面が緑色の粉を吹いたように見える。

ミドリムシは0.1mm以下の単細胞生物で、おおよそ紡錘形である。2本の鞭毛を持つが、1本は非常に短く細胞前端の陥入部の中に収まっているため、しばしば単鞭毛であると誤記述される。もう一方の長鞭毛を進行方向へ伸ばし、その先端をくねらせるように動かしてゆっくりと進む。細胞自体は全体に伸び縮みしたり、くねったりという独特のユーグレナ運動(すじりもじり運動)を行う。この運動は、細胞外皮であるペリクルの構造により実現されている。ペリクルは螺旋状に走る多数の帯状部で構成されており、一般的な光学顕微鏡観察においても各々の接着部分が線条として観察される。細胞の遊泳速度もさほど速くないので、初歩的な顕微鏡観察の題材に向く。

ミドリムシは正の走光性を示す。鞭毛の付け根には、ユーグレナという名の由来でもある真っ赤な眼点があるが、これは感光点ではない。感光点は眼点に近接した鞭毛基部の膨らみに局在する光活性化アデニル酸シクラーゼ (PAC) の準結晶様構造体である。真っ赤な眼点の役目は、特定方向からの光線の進入を遮り、感光点の光認識に指向性を持たせる事である。

細胞内には楕円形の葉緑体がある。葉緑体は三重膜構造となっており、二次共生した緑藻に由来する。従って緑藻同様、光合成色素としてクロロフィルa、bを持つ。ミドリムシでありながらオレンジ色や赤色を呈する種もあるが、これは細胞内に蓄積されたカロテノイドキサントフィルによるものである。細胞内には貯蔵物質としてパラミロンというβ1,3-グルカンの顆粒も見られる。

系統[編集]

ミドリムシは、ユーグレノゾア門(Euglenzoa)にユーグレナは属しているとされる。植物学ではユーグレナ藻綱、動物学では原生動物鞭毛虫綱 の植物鞭毛虫などとして扱われた。しかし、ミドリムシと他の植物との間には葉緑体の存在以外に類似点がほとんどない。一方でキネトプラスト類に近く、共通点として特徴的なうちわ型のミトコンドリアクリステや、鞭毛軸糸に沿ったパラキシアルロッド、細胞前端の陥入部から生じる鞭毛、3種類の微小管性鞭毛根とその性質・配行,核分裂様式などがある。また、キネトプラスト類に似た構造の捕食装置が退化した形で見つかっている。独立栄養性ユーグレナとキネトプラスト類の間をつなぐ存在として、葉緑体をもたない、従属栄養性のユーグレナ種(Peranema、Petalomonas、 Entosiphonなど)がある。このことから、ユーグレナ類とキネトプラスト類を併せた新たな分類群としてユーグレノゾア門(Euglenzoa)が提唱され、ユーグレナはユーグレノゾア門に属しているとされる[3]

ミドリムシを含むユーグレナ類 Euglenida は、系統的にはアフリカ睡眠病の病原体であるトリパノソーマを含むキネトプラスト類ディプロネマ類 DiplonemeaSymbiontida と姉妹群であり、近年ではこれらをまとめたユーグレノゾアとしてエクスカバータの内部に含める。

利用[編集]

実用化
豊富な栄養素を持つことから、栄養補助食品(サプリメント)や野菜・果物ジュース、クッキーなどに加える食材として使われている[4]
一部実用化
養魚用配合飼料(シラスウナギ[5]ヤイトハタ[6]ニジマス[7][8]など)。ただし、稚魚に直接与えるのではなく、アルテミア幼生の栄養強化のためにユーグレナ配合飼料を与える[9]。一方、未加工で与えた場合はソウギョなどの魚種によっては消化されないことが報告されている[10]
研究段階
食用としての用途拡大や、ミドリムシを用いたバイオ燃料の製造[11]、医療・環境改善などへ応用する研究が進んでいる[12]
2013年1月9日、産業技術総合研究所が、ミドリムシ由来成分が約70%を占めるバイオマスプラスチックの生成に成功した[13]

名称[編集]

Euglena の由来は、ラテン語の「eu」(美しい)と「glena」 (眼点)とされる。ミドリムシの名は、広義にはミドリムシ植物 Euglenophyta(≒ 現在のユーグレナ類 Euglenida)全体の総称として用いられる[要出典]鞭毛運動をする動物的性質を持ちながら、同時に植物として葉緑体を持ち光合成を行うため、「単細胞生物は動物/植物の区別が難しい」という話の好例として挙げられることが多い。これはミドリムシ植物がボド類のような原生動物と緑色藻類との真核共生により成立したと考えられる生物群であるためである。それゆえミドリムシ植物には Peranema 属のように葉緑体を持たず捕食生活を行う生物群も現存する。

関連フィクション[編集]

脚注[編集]

  1. ^ William Henry Edwards or シデナム・エドワーズ
  2. ^ 内田清之助 (1952) 、p.1742
  3. ^ 中山剛『21 世紀初頭の藻学の現況』日本藻類学会、2002年12月1日、4-5頁http://sourui.org/publications/phycology21/materials/file_list_21_pdf/02Euglenozoa.pdf 
  4. ^ 微生物「ミドリムシ」が入ったクッキーが人気”. 日経トレンディネット (2010年4月20日). 2017年9月11日閲覧。
  5. ^ ウナギ仔魚用飼料・飼育システムの開発− 世界で初めてシラスプラスチックの人工生産に成功− 水産総合研究センター研究報告 別冊第5号(平成18年3月)
  6. ^ 1999年度ヤイトハタ種苗生産の概要 沖縄県水産海洋技術センター
  7. ^ 養魚初期飼料としてのユーグレナの栄養評価-I Euglena gracilis の栄養成分に及ぼす培養条件の影響 水産増殖 Vol.32 (1984) No.2 P83-87 doi:10.11233/aquaculturesci1953.32.83
  8. ^ 養魚初期飼料としてのユーグレナの栄養評価-II ニジマス稚魚に対するユーグレナ飼料の栄養価 水産増殖 Vol.32 (1984) No.2 P88-91 doi:10.11233/aquaculturesci1953.32.88
  9. ^ アカハタ人工ふ化養成魚の酸素消費量と水温および体重との関係 水産増殖 Vol.51 (2003) No.4 P429-434 doi:10.11233/aquaculturesci1953.51.429
  10. ^ 鈴木敏雄、高橋耿之介:循環水槽によるソウギョ, ハクレン卵のふ化飼育 水産増殖 Vol.9 (1961-1962) No.1 P1-7 doi:10.11233/aquaculturesci1953.9.1
  11. ^ ミドリムシのバイオ燃料で飛行 大阪・八尾空港で”. 産経ニュース (2022年4月6日). 2022年4月6日閲覧。
  12. ^ ミドリムシのバイオ燃料は本当に有望か? 日経ビジネスオンライン、2013年4月24日、2013年6月17日閲覧。
  13. ^ ミドリムシプラスチックの開発 産業技術総合研究所

参考文献[編集]

  • Adl, S. M. et al. (2005). “The New Higher Level Classification of Eukaryotes with Emphasis on the Taxonomy of Protists”. Journal of Eukaryotic Microbiology 52 (5): 399-451. 
  • 千原光雄編集、岩槻邦男・馬渡峻輔監修『藻類の多様性と系統』裳華房、1999年
  • 内田清之助(著者代表)『改訂増補 日本動物圖鑑』北隆館、1952年

関連項目[編集]

関連文献[編集]

外部リンク[編集]