ホルン

ホルン
各言語での名称
Horn (French horn)
Waldhorn
Cor d'harmonie, Cor français
Corno
法國號, 圓號
ホルン
ダブル・ホルン
分類

金管楽器

音域
F管:完全五度高く記譜
関連楽器
演奏者

クラシック音楽#ホルン奏者

ホルンは、金管楽器の一種である。トランペットトロンボーンチューバなどともに近代西洋の金管楽器の主要な楽器のひとつであり、漏斗型のマウスピース、円錐を主体とした長い丸められた管、直径約30cmに達するベル(朝顔)を持つ。他の金管楽器よりも多くの倍音を出すことができる。

金管楽器であるが、音色のやわらかさから金管楽器のみならず木管楽器ともよく調和する。通常の木管五重奏では標準的にホルンが加えられている。

名称[編集]

ホルン(英語 horn、ドイツ語 Horn)はイタリア語でcorno(コルノ)、フランス語ではcor(コール)と言い、いずれも動物の角を意味するが、古くから「角笛」を意味してもいた。広義のホルン(角笛)はかつて動物の角、ほら貝、金属などで作られた。トランペットとの違いは通常トランペットの管が円筒を主体にするのに対し、ホルンが円錐を主にすることにあると言われるが、現代のトランペットは円錐部分が増え、もはやこの区別は成り立たなくなっている。ザックス=ホルンボステル分類ではホルンはトランペット類の一種と見なされる[1]

近代西洋の金管楽器をとくに指すために、英語圏でfrench hornと呼ばれることがあり、日本語でもそれにならってフレンチ・ホルンとも呼ばれる。この語は1742年にはじめて見られ[2]、おそらくフランス起源の楽器と認識されていたためであろう[1]。フランス語では「cor d'harmonie」(管楽器のホルン)、ドイツ語では「Waldhorn」(森のホルン)という語も用いられる。

ホルンと名のつく金管楽器には、サクソルン族のフリューゲルホルンアルトホルンテナーホルンなども有るが、これらはマウスピースバルブの構造、管体の形状からホルンとは区別される。マーチングなどでホルンの代わりなどに使われるメロフォンは外観はホルンに似ているが別の楽器である。またホルンを名前に含む木管楽器にはオーボエ族のイングリッシュホルン(コーラングレ)やクラリネット族のバセットホルンなどがある。これらも金管楽器のホルンとは直接の関係はない。

ポストホルンもホルンとは異なる楽器である。郵便ラッパを参照。

構造[編集]

フレンチ・ホルン

ホルンはカタツムリのような形状に巻かれた円錐状の管と、3つから5つの、通常はロータリー式のバルブ(弁)を持つ。ヘ調と変ロ調の調性を持った楽器があり、それぞれF管、B♭管と呼ばれるが、一般的には、それらを一つに組み合わせ「切換バルブ」と呼ばれる特殊なバルブで切り換えられるものが多用される。単一の調性の楽器をシングル・ホルン、2つの調性を持つものをダブル・ホルンと言って区別するが、ダブル・ホルンに一般的なヘ調より1オクターヴ高い「ハイF」などを追加したトリプル・ホルンと呼ばれるものも存在する。

ホルンは中音域の楽器だが、管長は約4メートルと長く、Bトロンボーン(3メートル弱)よりも長い。これはホルンが他の金管楽器より高次の倍音を利用することによる。これによってバルブを使わなくても多くの音を出すことができ、またグリッサンドのような奏法も可能になるが、その一方で音を外しやすい欠点がある。マウスピースに近い部分では管の直径はトランペットなどより細い。マウスピース自体も円錐形で、トランペットが浅い椀型であるのと大きく異なる。

ホルンの管体は0.3-0.5mm程度の薄い真鍮素材で作られている。ホルンの管体部はその真円形状を保つため、高温で溶かしたタールなどの充填材を流し込み、曲げ加工の後その充填材を取り除く形で制作される。大量生産の場合には管体に水を通してそのまま凍結し、曲げ加工の後氷を融かして外に出し、管体を型にはめて内部から圧力をかけることで完全な形に仕上げる工法が取られている場合もある。

シングル・ホルン[編集]

Fシングル・ホルン

シングル・ホルン(Single Horn)は、単一調の管のみによって構成される形態をとる。一般にヘ調または変ロ調の管を用い、それぞれFシングル・ホルン、B♭シングル・ホルンと呼ばれる。楽器が軽くて扱いやすいほか、構造が比較的簡単なため価格が安く、特にFシングルのものはナチュラル・ホルンに最も近い音を出すことができる。また、B♭シングルのものは軽い吹奏感が好まれる。

Fシングル・ホルンは、音色は良いものの、管が長く高音の倍音間隔が狭いためミスを起こしやすく、操作性が悪い。一方、B♭シングル・ホルンは、F管に比べて操作性は良いが、音色が劣る。両方の利点を組み合わせたダブル・ホルンの誕生と普及により、シングル・ホルンはあまり使用されなくなっている。

また、通常のF管より1オクターヴ高い音域を演奏できるHigh-F管(F-Alto管)のものをデスカント・ホルン(Descant Horn)と呼ぶ。管長が通常のFシングル管の半分しかなく、倍音の間隔が広いため、高音域の操作性がB♭管や通常のF管よりも高くなる。しかし操作性と引き換えに音色はB♭管や通常のF管よりも劣る。バッハブランデンブルク協奏曲のような高音域が使用される曲の演奏にはこのデスカント・ホルンが用いられることがある。

ダブル・ホルン[編集]

F/B♭管

ダブル・ホルン(Double Horn)は、1本の楽器で2種類の調性を切り替えられるようにしたものである。1897年ドイツエアフルトのフリッツ・クルスペ(Fritz Kruspe)によって発明され[3]、現在主流の楽器として使用されている。切り替えの方式により次の2種類がある。

セミダブル
セミダブル(Compensating double)式は、高い方の調性の楽器に、低い方の調性を演奏できるようにするための迂回管(これを補正管と呼ぶ)を追加することによって、2つの調性の音を演奏できるように改良したものである(補正ピッチ方式)。
フルダブル
フルダブル(Full-double)式は、それぞれ独立した2つの調性をバルブで切り替えて使用する楽器である。セミダブル式の場合と違い、一方の調性を使用している時にはもう一方の管は迂回しない。セミダブル式よりも楽器の重量は増すが、低い方の調性の音色がよりシングルホルンに近いものになるという長所を持つ。

ダブルホルンでは親指のレバーで2種類の調性を切り替える。2種類の調性の取り合わせには様々なものがあり、F管とB♭管を組み合わせたF/B♭ダブルホルンが一般的であるが、B♭管とデスカント・ホルン(High-F管)を組み合わせたデスカント・ダブル・ホルンなども存在する。

トリプル・ホルン[編集]

トリプル・ホルン(Triple Horn)とは、1本の楽器で3種類の調性を切り替えられるようにしたものであり、1965年イギリスロンドンのパックスマン社(Paxman)によって開発された[4]。高音域を演奏し易いが中低音域の音色が劣るHigh-F管、中低音域の音色は優れているが高音域の演奏が難しいF管、そして両者の中間の性質を持つB♭管の3つを組み込むことで、多様なジャンルの楽曲で要求される幅広い音域に1本の楽器で対応することが可能となる。

しかし、トリプル・ホルンは高価であり、楽器が重く長時間の演奏には体力を要する。その重量と複雑な管体レイアウトのため、独特のボリューム感のある音色となり、バロック音楽などで求められる軽く明るい音を出すのが難しい。これらの問題のため、トリプル・ホルンはあまり広く普及しておらず、さらなる改良が望まれている。

ウィンナ・ホルン[編集]

ウィンナ・ホルン

ウィンナ・ホルン(ヴィーナー・ホルン)はウィンナ・バルブ(あるいはダブルピストン・バルブ、プンペン式バルブ)と呼ばれる特殊な旧式のバルブを備えている。またナチュラル・ホルンのコール・ドルケストルと同様に、円形のボーゲンと呼ばれる独特のマウスパイプが装着されている。19世紀中頃から構造や形状が進化しておらず、一種の古楽器とみることができる。音色は暗く重く、より自然ホルンに近い。フォルテで音が楽に割れやすく、物理的な音量をあまり上げずにフォルテッシモのような響きを作ることができる。このため、声を覆い隠さないオペラの伴奏に適している。F-シングルホルンであるため高音の倍音間隔が狭く、ミスを起こしやすい。

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は、このウィンナ・ホルン(F管シングル・ホルン)を原則として使用している。

ナチュラル・ホルン[編集]

ナチュラル・ホルン Victoria & Albert Museum, London.
ナチュラルホルン

19世紀前半まではバルブを持たず、自然倍音のみを発音できるナチュラル・ホルンが用いられた。この楽器では普通の状態では自由に半音階を演奏することはできない。バロックから古典派前期のホルンのパートが比較的単純な音形に限られるのはこのためでもある。18世紀中期に、ハンドテクニックの開発すなわちベルの中の右手の位置を変える事により、自然倍音から音程を最大で長2度上昇もしくは下降させる奏法(ストップ奏法)が考案され、この技法と管体自体の調性を変えることで、開放音とストップ音、ハーフ・ミュートなどによる音色の犠牲はあるものの、半音階をある程度演奏できるようになった。この時代からソリストとして活躍する奏者が現れ出す。楽器も独奏者用のコール・ソロとオーケストラ奏者用のコール・ドルケストルの2種類に分かれ、前者の演奏家はサロンでもてなされ、後者は台所でビールを傾けるなど、身分的な差もあった。

ハイドンモーツァルトの協奏曲はこのような時代に書かれた。しかし、1814年のバルブの出現により、ナチュラル・ホルンは次第にバルブ付きホルンに取って代わられることとなる。それでもフランスのホルン奏者は、バルブ付きのホルンを好まずナチュラルホルンを愛用したため、ロマン派時代でもナチュラルホルンのために作曲されていることも多い。自身もホルンを演奏したブラームスは、当時のドイツでは殆どバルブホルンに代わっていたにもかかわらず、ナチュラルホルンを好んだ。ブラームスの管弦楽作品におけるホルンパートは、ナチュラルホルンを意識した擬古的な書き方になっている。また彼のホルン・トリオは完全にナチュラルホルンのために作曲されている。デュカスパリ国立高等音楽院のホルン科の試験のために作曲した「ホルンとピアノのための『ヴィラネル』」には、前半部にSans pistons(ピストンなしで)という指定があり、この部分はピストンホルンを使いつつもストップ奏法のみで演奏されるようになっている。作曲当時、同音楽院のナチュラルホルン専攻コースはすでに閉鎖されていたが、ホルン科の学生は専攻コースが無くなった後もナチュラルホルンを並行して学んでいたことが分かる。

ナチュラルホルンは現代の古楽復興の流れの中、ヘルマン・バウマンがモーツァルトの協奏曲集が録音してから、様々な演奏家によって演奏されるようになっている。創立当時より優れたホルン奏者を育ててきた前述のパリ国立高等音楽院のナチュラルホルン専攻のコースは、ピストンホルンの普及とともに19世紀末に廃止されたが、近年のピリオド・アプローチの復活とともに、パリ管弦楽団首席奏者のミッシェル・ガルサン=マルーによって数年前に再開された。彼の定年退職後、現在はクロード・モリーが教授として指導にあたっている。また日本人ホルン奏者根本雄伯もパリ郊外カシャン市の国立音楽院でナチュラルホルンを教えている。

再現楽器の中には、本来のナチュラルホルンには存在しなかったが、正しい音程を出すのを助けるための穴がいくつかあけられているものがある[5]

ホルンが活躍する楽曲[編集]

クラシック音楽[編集]

ホルン協奏曲等
管弦楽曲・オペラ・バレエ等
独奏曲・室内楽
声楽曲
  • シューベルト:森の夜の歌 D.913(男声合唱、ホルン4)
  • シューマン:狩の歌 作品137(男声合唱、ホルン4)
  • ブラームス:4つの歌 作品17(女声合唱、ホルン2、ハープ)
  • リヒャルト・シュトラウス:アルプホルン(ソプラノ、ホルン、ピアノ)

ポピュラー音楽、主題歌等[編集]

主なメーカー[編集]

日本
ドイツ
アメリカ
  • ホルトン 《ホルトン社は1964年にルブラン社へ経営権を委託》
  • コーン
イギリス
  • パックスマン
台湾
  • ジュピター

脚注[編集]

  1. ^ a b Stanley Sadie, ed (2001). “Horn”. New Grove Dictionary of Music and Musicians. 11 (2nd ed.). Macmillan Publishers. pp. 709-725. ISBN 1561592390 
  2. ^ Robert K. Barnhart, ed (1988). “French”. Chambers Dictionary of Etymology. Chambers. p. 407. ISBN 0550142304 
  3. ^ Anthony C. Baines, The Oxford Companion to Musical Instruments, Oxford University Press, 1992, ISBN 0193113341, 163頁。
  4. ^ Stanley Sadie, Alison Latham, The Cambridge Music Guide, Cambridge University Press, 1990, ISBN 0521399424, 50 - 51頁。
  5. ^ Richard Seraphinoff (1996). “Nodal Venting on the Baroque Horn: A Study in Non-Historical Performance Practice”. The Horn Call 27 (1). https://www.seraphinoff.com/content.php?p=bf9e6fd4-be82-47b8-a5b2-fddc3354f6a0. 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]