ビフィズス菌

ビフィドバクテリウム属
Bifidobacterium adolescentis
分類
ドメイン : 細菌 Bacteria
: 放線菌門
Actinobacteria
: 放線菌綱
Actinobacteria
亜綱 : 放線菌亜綱
Actinobacteridae
: ビフィドバクテリウム目
Bifidobacteriales
: ビフィドバクテリウム科
Bifidobacteriaceae
: ビフィドバクテリウム属
Bifidobacterium
学名
Bifidobacterium
Orla-Jensen 1924
下位分類(種)
  • B. bifidum(基準種)
他に約42種9亜種(2013年12月現在)

ビフィズス菌とはグラム陽性偏性嫌気性桿菌の一種で、放線菌Bifidobacteriales目Bifidobacterium属に属する細菌の総称。

本来は、本菌属の基準種でもあるビフィドバクテリウム・ビフィドゥム Bifidobacterium bifidum の旧称バチルス・ビフィドゥス Bacillus bifidus を、種形容語ビフィドゥス(ビフィズス)に略した呼称である。この種は、ビフィドバクテリウム属への変更により種形容語がビフィドゥム(ビフィダム)に変わったため、現在ではビフィダム菌と呼ばれるが、この種のみをビフィズス菌と呼ぶこともある。

概要[編集]

全ての動物の内に生息し、人間の腸管にはB. bifidumB. breveB. infantis (B. longum subsp. infantis に再分類)、B. longumB. adolescentisの5種が棲息する。

特に母乳栄養児の便に多く存在する。正常な母乳栄養児の腸内細菌叢はビフィズス菌が極めて優勢である。腸内のビフィズス菌を旺盛にするために、母乳に含まれる乳糖オリゴ糖などが有効である[1]

1899年、フランスパスツール研究所のティシエによって乳児の糞便中より発見された。V字やY字に分岐した特徴的な形より、ラテン語で「二又の」を表すビフィドゥスbifidusという語が採用され、当初はバキルス・ビフィドゥスBacillus bifidusと呼ばれた。「ビフィズス」という名称はこのときの種形容語に由来する。1924年にはビフィドバクテリウム属Bifidobacterium(bifidusと「細菌」を意味するバクテーリウムbacteriumの合成語)が新設されBifidobacterium bifidum Orla-Jensen 1924 として再分類された。その後、本菌以外のビフィドバクテリウム属の細菌も同様にヒトの腸内細菌として、同様の役割を担っていることが明らかになり、ビフィドバクテリウム属に属する細菌の総称(= Bifidobacterium spp. あるいは bifidobacteia)としても、ビフィズス菌が用いられている。

ビフィズス菌は、を分解して乳酸酢酸を作るヘテロ乳酸菌の仲間でもある。

菌種[編集]

米国ダノン社やデュポン社で行われているように、日本でも企業のマーケティング手法の一環として、特定の菌株にアルファベットと数字を組み合わせた名称を名付けて商標登録を行い、他社との差別化を図ろうとする試みがなされている。結果として、「ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス」ではなく、BB-12といった「アルファベットと数字」が流通に使用される傾向にある。

  • B. actinocoloniiforme
  • B. adolescentis - ヒトにも分布。
  • B. aerophilum
  • B. aesculapii
  • B. angulatum - ヒトにも分布。
  • B. animalis- ヒトだけでなく、ほとんどの哺乳動物の大腸に見られる菌種。
    • subsp. animalis
    • subsp. lactis- 牛の酸乳から単離。菌株GCL2505(BifiX)はグリコで機能性表示食品に利用されている。[2]。菌株HN019はデュポン社、菌株BB-12はクリスチャン・ハンセン社の商標[3]で、FK120とLKM512はBB-12と同一であると判明している。[4]
  • B. aquikefiri
  • B. asteroides - ミツバチの腸管から単離。高いO2耐性を持つ。
  • B. avesanii
  • B. biavatii
  • B. bifidum - 1899年フランスのH.ティシエが発見した基準種。ヒトにも分布。
  • B. bohemicum
  • B. bombi
  • B. boum - ウシのルーメンから単離。微好気性。
  • B. breve - 1963年ドイツのG.ロイターが発見。細く短い形状である為、短いという意味に由来するブレーベと命名された。ヨーグルト等の発酵乳製品の製造に使用されている。[5]ヒトにも分布。
  • B. callitrichos
  • B. catenulatum - ヒトにも分布。
  • B. choerinum
  • B. commune
  • B. coryneforme
  • B. crudilactis - 生乳チーズから分離[6]
  • B. cuniculi
  • B. denticolens
  • B. dentium - ヒトにも分布。
  • B. eulemuris
  • B. faecale
  • B. gallicum - ヒトにも分布。
  • B. gallinarum
  • B. hapali
  • B. indicum
  • B. inopinatum
  • B. kashiwanohense
  • B. lemurum
  • B. longum
    • subsp. longum - ロンガム種、菌株BB536(ビフィドバクテリウム・ロンガムBB536)は森永乳業で特定保健用食品や機能性表示食品に利用されている[7]ヒトにも分布。
    • subsp. infantis - ヒトにも分布。
    • subsp. suis
  • B. magnum
  • B. merycicum
  • B. minimum
  • B. mongoliense - 2009年ヤクルト中央研究所がモンゴルの馬乳酒アイラグから発見したと発表。
  • B. moukalabense
  • B. myosotis
  • B. parvulorum
  • B. pseudocatenulatum - ヒトにも分布。
  • B. pseudolongum
    • subsp. pseudolongum
    • subsp. globosum
  • B. psychraerophilum
  • B. pullorum
  • B. ramosum
  • B. reuteri
  • B. ruminale
  • B. ruminantium
  • B. saeculare
  • B. saguini
  • B. scardovii - ヒトの血液から単離。
  • B. simiae
  • B. stellenboschense
  • B. subtile
  • B. thermacidophilum
    • subsp. thermacidophilum
    • subsp. porcinum
  • B. thermophilum - ウシのルーメンから単離。
  • B. tissieri
  • B. tsurumiense

効果[編集]

ビフィズス菌は、乳糖やオリゴ糖などを分解して乳酸や酢酸を産生して腸内のpHを顕著に低下させ[8]善玉菌として腸内の環境を整えるほか、花粉症などアレルギー症状の緩和にも貢献していることが分かってきた[9]。乳幼児に多いロタウイルスによる感染性腸炎の抑制をする可能性が報告されている[10]

ビフィズス菌は、パントテン酸(B5)をそのまま利用できずパンテチンを必要とし、また、リボフラビン(B2)を必要とするとされる[11]。ビフィズス菌(B. infantis、B. breve、B. bifidum、B. longum及びB. adolescentisのすべて)で菌体内にビタミンB1、B2、B6、B12、C、ニコチン酸(B3)、葉酸(B9)及びビオチン(B7)を蓄積し、菌体外にはビタミンB6、B12及び葉酸を産生した。ヒト(成人)の腸内の平均量のビフィズス菌の推定ビタミン産生量はビタミンB2、B6、B12、Cおよび葉酸で所要量の14-38%を占め無視できない割合と考えられる[12]。ただしビタミンB12だけについては、内因子と結びついたビタミンB12が吸収される回腸の部位からさらに遠位の大腸でビタミンB12が産生されているので、ヒトは大腸で作られたビタミンB12を十分に吸収することができない[13]

ビフィズス菌の食品利用[編集]

伝統的な発酵食品の中にはビフィズス菌も混入している物もあるが、明示的な利用は1948年ドイツのマイヤーが製造した発酵乳が世界初である。

発酵乳食品には主にビフィダム種、ブレーベ種、ロンガム種、インファンティス種など、ヒトに分布していないものでは酸に強いラクティス種が多く用いられる。

出典[編集]

  1. ^ 相川清「ビフィズス菌の応用研究 その研究を開始した頃:その研究を開始した頃」『腸内細菌学雑誌』第12巻第2号、日本ビフィズス菌センター、1999年、73-79頁、doi:10.11209/jim1997.12.73ISSN 1343-0882NAID 130003717384 
  2. ^ Glico BifiX
  3. ^ ビフィズス菌「BB-12」 帝人株式会社
  4. ^ 八ヶ岳乳業株式会社 ビフィズス菌 BB-12 別紙様式(Ⅴ)-4 (PDF)
  5. ^ ビフィドバクテリウム ブレーべ ヤクルト中央研究所
  6. ^ 渡辺幸一「ビフィズス菌の分類法の現状と動向」『腸内細菌学雑誌』第30巻第3号、日本ビフィズス菌センター、2016年、129-139頁、doi:10.11209/jim.30.129ISSN 1343-0882NAID 130005256560 
  7. ^ [1] Morinaga
  8. ^ 森下芳行「腸内細菌を健康に活かすプロバイオティクスとプレバイオティクス」『日本食物繊維研究会誌』第4巻第2号、日本食物繊維学会、2000年、47-58頁、doi:10.11217/jjdf1997.4.47ISSN 1343-1994NAID 130004325839 
  9. ^ 辨野義己『ビフィズス菌パワーで改善する花粉症』講談社、2007年1月。
  10. ^ 荒木和子、篠崎立彦、入江嘉子、宮澤幸久「ビフィズス菌のロタウイルス感染に対する予防効果の検討」『感染症学雑誌』Vol.73 (1999) No.4 P305-310, doi:10.11150/kansenshogakuzasshi1970.73.305
  11. ^ 田村善藏「ビフィズス菌」『ビフィズス』第2巻第1号、財団法人 日本ビフィズス菌センター、1988年、19-21頁、doi:10.11209/jim1987.2.19ISSN 0914-2509NAID 130004257728 
  12. ^ 寺口進, 小野浄治, 清沢功, 福渡康夫, 荒木一晴, 小此木成夫「ヒト由来Bifidobacteriumによるビタミン産生」『日本栄養・食糧学会誌』第37巻第2号、日本栄養・食糧学会、1984年、157-164頁、doi:10.4327/jsnfs.37.157ISSN 0287-3516NAID 130000861388 
  13. ^ Gille, D; Schmid, A (February 2015). “Vitamin B12 in meat and dairy products.”. Nutrition reviews 73 (2): 106–15. doi:10.1093/nutrit/nuu011. PMID 26024497. 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]