バスにおける子どもの置き去り事故

バスにおける子どもの置き去り事故(バスにおけるこどものおきざりじこ)では、バスにおいて発生した、子どもの置き去り事故ないし事件について述べる。

概要[編集]

2022年9月、牧之原幼稚園バス3歳女児死亡事件が発生すると、通園バス車内への園児の置き去りを防ぐ対策が急がれるようになった[1]。家庭でも保護者と子どもが、万一の時に備えてクラクションを鳴らす等の訓練を行うなどした[2]。また、事件を受けて静岡県が行った調査では、同県内の保育施設ではこれまでに3件の置き去りが発生していたことが明らかになった[3]。この3件は重大な事故には至っていないが、同県は県内の全ての保育施設に対して現地調査を行うこととした[3]

スクールバスに乗っていた子どもが車内に置き去りにされる事故は、日本以外にアメリカ合衆国大韓民国ドイツなどの国でも発生している[4]欧米では車内に人がいることを感知するアプリなどの活用が進んでいるほか[2]、韓国では警報音が鳴る装置を設置する対策が取られている場合がある[5]

事例[編集]

中間市保育園バス5歳児死亡事件
2021年7月29日、福岡県中間市の私立保育園「双葉保育園」で発生[6]。園児1人が熱中症で死亡した[7]はこの事件を受け、園児の安全管理の徹底を呼び掛ける通知を出した[8]
牧之原幼稚園バス3歳女児死亡事件
2022年9月5日、静岡県牧之原市認定こども園「川崎幼稚園」で発生[9]。園児1人が熱中症で死亡した。死亡した女児は心肺停止の状態で発見された際に上半身は裸で、所持していた水筒は空になっていた[9]。同園は2021年の中間市の事件を受け、QRコードを用いた「登降園管理システム」を導入していた[10]
北海道での観光バス車内への小学生置き去り
2022年9月5日、旭川市立向陵小学校の5年生約50人が宿泊を伴う研修で深川市を訪問したが、観光バスより下車した際に引率教師2人が人数等の確認を怠り、寝ていた児童が30分ほど車内に置き去りの状態となった。目が覚めた児童は自分でバスから降りた[11]
青森県七戸町スクールバスでの中学生置き去り
2022年9月9日、青森県七戸町内の中学校に通う中学生が、下校時にスクールバスに置き去りにされた。当時バスには3人の生徒が乗っていたが、運転手は乗車人数を2人と勘違いしていた上、車内の確認を怠って施錠したため、寝ていた中学生が置き去りの状態になった。置き去りにされた中学生は約1時間後に目を覚まし、ドアの鍵を開けて自力で脱出した[12][13]。なお、中学生の家族は警察に捜索願を提出していた[12]
糸満市デマンドバスでの小学生置き去り
2022年9月16日、沖縄県糸満市が運営するデマンドバス「いとちゃんmini」で、運転手が車内確認を怠り、10分にわたって小学生が取り残された[14]。運転手はパネル操作を誤り、小学生が下車予定だった場所に停車せず、そのまま営業所に戻り車内確認をせずにバスを施錠した。施錠時に小学生は寝ていたが起きて置き去りに気づくと、母親と携帯電話で連絡を取り、クラクションを鳴らしたが気づく人はなかったため、最終的に手動式の窓から自力で脱出した[15][16]。これを受けて沖縄総合事務局は、同県内のバス運行会社に置き去りを防止するよう対策を求める文書を発した[14]

対策[編集]

政府[編集]

政府は、牧之原市での事件を受けて2022年10月に再発防止策を作成した[5][17]。その内容は大きく4つある[17]

  1. 所在確認や安全装置の設置を義務付ける
  2. 安全装置の仕様に関するガイドラインを国が作成する
  3. 安全管理マニュアルを国が作成する
  4. 総合経済対策に盛り込み、財政措置を講じる

安全装置の設置にかかる費用については、20万円程度を上限に全額補助する方針とした[18]

自治体[編集]

  • 神奈川県相模原市は、通園バス車内に防犯ブザーを常備するよう呼びかけることを決定したが、市が行った実験では、バスのドアや窓が閉め切られた状態ではブザーの音が遠くまで聞こえないことがわかっており、まずは大人が置き去りを防ぐさまざまな行動が求められるとしている[5]

その他[編集]

  • 東京都のNPO法人「フローレンス」(代表者:駒崎弘樹)は「置き去り防止装置」の義務化を求める署名活動を行い、通園バスへの置き去り防止装置の設置義務付けとそれに対する金銭的な支援を訴えた[5]
  • 政府では、バス送迎時等のこどもの所在確認やバスへの安全装置の装備の義務付け[19]等を内容とする緊急対策をとりまとめ、その着実な推進を図っており、このうち安全装置については、国土交通省において技術要件等をまとめたガイドラインを策定しており、このガイドラインに適合する装置のリストを内閣府が作成し、公開している[20]

脚注[編集]

  1. ^ 度重なる「バス置き去り事件」防ぐ手段はあるか”. 東洋経済オンライン. 東洋経済新報社 (2022年9月16日). 2022年9月24日閲覧。
  2. ^ a b 静岡・牧之原 通園バスで園児死亡 二度と繰り返さないためには”. NHKニュース首都圏. 日本放送協会 (2022年9月13日). 2022年9月24日閲覧。
  3. ^ a b 園児を車内に置き去り3件明らかに 静岡県が一斉調査結果を公表 牧之原・バス置き去り事件受けて”. newspaper=静岡放送 (2022年9月22日). 2022年9月24日閲覧。
  4. ^ 世界でも起きているバスの置き去り 韓国は窓ガラスの透明度に基準も”. 朝日新聞デジタル. 朝日新聞社 (2022年9月13日). 2022年11月15日閲覧。
  5. ^ a b c d 通園バス園児死亡 “置き去り”防ぐ ブザー使った安全装置を”. NHKニュース首都圏. 日本放送協会 (2022年9月16日). 2022年9月24日閲覧。
  6. ^ 5歳園児死亡、母親「あの暑い車内でどれだけ苦しかったのか」”. 読売新聞. 読売新聞社 (2021年7月30日). 2022年11月15日閲覧。
  7. ^ 中山直樹 (2022年4月4日). “福岡の園児バス置き去り熱中死事故 前園長と保育士2人を在宅起訴”. 朝日新聞デジタル. 朝日新聞社. 2022年11月15日閲覧。
  8. ^ 園児のバス置き去り死 幼い命なぜ守れぬのか”. 中国新聞. 中国新聞社 (2022年9月11日). 2022年9月24日閲覧。
  9. ^ a b 暑さで服を脱いだか 発見時の体温は40℃程度まで上昇=静岡・女児通園バス置き去り死亡”. TBS NEWS DIG. TBSテレビ (2022年9月8日). 2022年11月15日閲覧。
  10. ^ 《静岡3歳女児バス置き去り》「この人たちは嘘つきです!」増田立義園長(73)の説明に遺族が放った怒りの一言 背景に“ええからげん”な「廃園」念書”. 文春オンライン. 文芸春秋 (2022年9月9日). 2022年9月24日閲覧。
  11. ^ 北海道でも…送迎バスの中で寝ていた小学生の児童を置き去り 引率していた教師は気づかず 児童にけがなし”. 北海道テレビ放送 (2022年9月8日). 2022年9月24日閲覧。
  12. ^ a b 七戸町でスクールバスに中学生置き去り 運行業者が確認怠る”. NHK 青森 NEWS WEB. 日本放送協会 (2022年9月14日). 2022年9月24日閲覧。
  13. ^ 中学生を車内に置き去り、青森 スクールバス運転手、目視怠る”. 河北新報 (2022年9月14日). 2022年9月24日閲覧。
  14. ^ a b 小学生が市営バスに置き去り 沖縄総合事務局 防止徹底求める”. NHK 青森 NEWS WEB. 日本放送協会 (2022年9月22日). 2022年9月24日閲覧。
  15. ^ “市営バスに小学生を置き去り 運転手が確認せず施錠 クラクション鳴らすも気付かれず、自力で窓を開け脱出 沖縄・糸満市”. (2022年9月22日). https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1588555.html 2022年9月24日閲覧。 
  16. ^ 国吉美香 (2022年9月22日). “市営バスで小学生置き去り、クラクション鳴らしても気づかれず 沖縄”. 朝日新聞社. https://www.asahi.com/articles/ASQ9Q6GCJQ9QTIPE01S.html 2022年9月24日閲覧。 
  17. ^ a b 【詳しく】通園バス 置き去り防止へ 安全装置の設置義務づけ”. NHKニュース. 日本放送協会 (2022年10月12日). 2022年10月17日閲覧。
  18. ^ 政府、安全装置上限まで全額補助 通園バス、20万円程度”. 東京新聞 (2022年10月17日). 2022年10月17日閲覧。
  19. ^ 【2023年4月~】幼稚園・保育園の送迎バス車内置き去り防止装置の設置の義務化を受けて”. 株式会社TCI (2023年3月22日). 2023年3月22日閲覧。
  20. ^ 送迎用バスの置き去り防止を支援する安全装置のリストについて”. 内閣府 (2023年3月22日). 2023年3月22日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]