ハナショウブ

ハナショウブ
肥後系ハナショウブ 雲井の雁 (六英咲き・覆輪系の大輪) 押田成夫(1965年)
ハナショウブ
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 単子葉類 monocots
: キジカクシ目 Asparagales
: アヤメ科 Iridaceae
: アヤメ属 Iris
: ノハナショウブ(広義)
I. ensata
変種 : ハナショウブ
I. ensata var. ensata
学名
Iris ensata Thunb. var. ensata (1794)
シノニム
  • I. ensata Thunb. var. hortensis
    (Maxim.) Makino et Nemoto (1931)
  • I. kaempferi Siebold ex Lemaine (1858)

ハナショウブ花菖蒲Iris ensata var. ensata)はアヤメ科アヤメ属多年草である。別名「ハナアヤメ」。シノニムI. ensata var. hortensis, I. kaempferi.

アヤメの仲間に含まれる厳密なハナショウブも「アヤメ」の名称で広く呼ばれている。(あやめ園、あやめ祭り、自治体の花名など)。

解説[編集]

ハナショウブはノハナショウブ(学名I. ensata var. spontanea)の園芸種である。比較的水はけのよい場所を好む(ただし開花期には特に水分が必要である)[1]。6月ごろに花を咲かせる。花の色は、白、桃、紫、青、黄など多数あり、絞りや覆輪などとの組み合わせを含めると5,000種類あるといわれている。花弁の付け根は黄色である(アヤメは網目模様、カキツバタは白い一筋の線)[1]。葉幅はアヤメ(葉幅が狭い)とカキツバタ(葉幅が広い)の中間ぐらいとされる[1]

系統を大別すると、品種数が豊富な江戸系、室内鑑賞向きに発展してきた伊勢系肥後系、原種の特徴を強く残す長井古種の4系統に分類でき、古典園芸植物でもある。第二次世界大戦後は系統間の交配も進んでいる[2]。他にも海外、特にアメリカでも育種が進んでいる外国系キショウブとの交配によるキハナショウブ(アイシャドウアイリス)[3]、原種ノハナショウブの自然変異タイプがある。

近年[いつ?]の考察では、おそらく東北地方でノハナショウブの色変わり種が選抜され、戦国時代江戸時代はじめまでに栽培品種化したものとされている。これが江戸に持ち込まれ、後の3系統につながった。江戸に持ち込まれたハナショウブの出どころとしては陸奥国郡山安積沼などの説がある[4]。また、長井古種は江戸に持ち込まれる以前の原形を留めたものと考えられている。

アヤメの名称[編集]

アヤメ類の総称として、同じアヤメ属だがアヤメ以外の種別にあたるハナショウブやカキツバタを含めて、「アヤメ」と呼称する習慣が一般的に広まっている。特にハナショウブの別名は「ハナアヤメ」であり、縮めてアヤメと呼ぶ文化も根付いている為、間違いにはあたらない。

「いずれがアヤメカキツバタ」という慣用句がある。どれも素晴らしく優劣は付け難いという意味であるが、見分けがつきがたいという意味にも用いられる。見分け方はアヤメの項の見分け方を参照。

ショウブの名称[編集]

ショウブ」と呼称する例も見られるが、「ショウブ」単体の場合は、ショウブ科(古くはサトイモ科)に分類される別種の植物を指す意味合いが強いため、注意が必要である。ショウブ科のショウブの別称は「アヤメグサ」、現在のハナショウブは「ハナアヤメ」とはっきり使い分けをしていた時代もあった。

伝統品種群の系統[編集]

江戸系
江戸ではハナショウブの栽培が盛んで、江戸中期頃に初のハナショウブ園が葛飾堀切に開かれ、浮世絵にも描かれた名所となった。ここで特筆されるのは、旗本松平定朝(菖翁)である。60年間にわたり300近い品種を作出し『花菖培養録』を著した。ハナショウブ栽培の歴史は菖翁以前と以後で区切られる。こうして江戸で完成された品種群が日本の栽培品種の基礎となった。1910年(明治43年)からは宮沢文吾により神奈川県農事試験場(現日比谷花壇大船フラワーセンター)で[5]当系の品種をもとに[6]品種改良がおこなわれ、1915年(大正4年)から1920年(大正9年)頃までに約300品種が発表された[7]玉川大学教授 田淵俊人は、これを独特の花容から大船系と分けて分類するのが適切だと主張している[6]
伊勢系
現在の三重県松阪市を中心に鉢植えの室内鑑賞向きに栽培されてきた品種群である。伊勢松阪の紀州藩士吉井定五郎により独自に品種改良されたという品種群で、菊、撫子と並ぶ「伊勢三品」の一つである。江戸の商人には三井高利に代表される伊勢出身者が多く互いの行き来も盛んであり、紀州藩士も参勤交代が頻繁であった。このことから、実際には江戸系の影響を受けたであろうことが有力視されている。昭和27年(1952年)に「イセショウブ」の名称で三重県指定天然記念物となり、全国に知られるようになった。
肥後系
現在の熊本県を中心に鉢植えの室内鑑賞向きに栽培されてきた品種群である。肥後熊本藩主細川斉護が、藩士を菖翁のところに弟子入りさせ、門外不出を条件に譲り受けたもので、「肥後六花」の一つである。満月会によって現在まで栽培・改良が続けられている。菖翁との約束であった門外不出という会則を現在も厳守している点が、他系統には見られない習慣である。しかし大正に会則を破り外部へ広めてしまった会員がおり、現在では熊本県外の庭園などで目にすることができる。
長井古種
山形県長井市で栽培されてきた品種群である。同市のあやめ公園は1910年明治43年)に開園し、市民の憩いの場であった。1962年昭和37年)、三系統いずれにも属さない品種群が確認され、長井古種と命名されたことから知られるようになった。江戸後期からの品種改良の影響を受けていない、少なくとも江戸中期以前の原種に近いものと評価されている。現在、34種の品種が確認されている[8]。長井古種に属する品種のうち13品種は長井市指定天然記念物である。近年[いつ?]、長井古種と他系の品種を掛け合わせてつくられた新品種を長井系と称している。21世紀現在、ノハナショウブの自生地ではハナショウブとの交雑個体が見られるようになっている[9]。交雑個体の中から選抜された優良個体を品種として発表しようとする個人や団体が表れることを予測して、新系統の乱立を防ぐため、ハナショウブ愛好家の唯一の全国組織・日本花菖蒲協会[10]の2021年(令和3年)現在の会長清水弘は、 ノハナショウブ(各自生地ごとの標準個体、自然変異)と栽培品種(長井古種・長井系以外も)との交雑による(自然交配も人為交配も)品種についても、既存の長井系と合わせて長井タイプとする新たな分類を提唱している。これは長井という品種群について長井市に起源をもつ一系統というより、ノハナショウブと栽培品種の移行型である点を優先したものであり[11]、原種と栽培品種の交配の初期世代でも同様の形質が表れるためである[12]

自治体の花[編集]

本項目は、厳密な品種のハナショウブに限る。

都道府県の花
市町村の花
特別区の花

名所[編集]

本項目は、厳密な品種のハナショウブを含んだ施設に限る。

北海道
青森県
  • 手づくり村鯉艸郷(十和田市) - 約600種20万株
岩手県
宮城県
  • 山王史跡公園あやめ園(栗原市) - 約500種12万株(長井系、ノハナショウブを含む)
  • 多賀城跡あやめ園多賀城市) - 約2.1 haの園内にアヤメ、カキツバタを含む約800種300万本
山形県
福島県
茨城県
群馬県
埼玉県
千葉県
東京都
神奈川県
富山県
福井県
岐阜県
静岡県
愛知県
三重県
滋賀県
京都府
奈良県
大阪府
兵庫県
山口県
  • 吉香公園城山花菖蒲園・吉香花菖蒲園(岩国市) - 2か所の菖蒲園に合計約140種11万株
福岡県
佐賀県
大分県

脚注[編集]

  1. ^ a b c あやめの見分け方 潮来市、2022年5月10日閲覧。
  2. ^ 現代花菖蒲図鑑 古花から最新花まで p.273 淡交社刊 2021年 ISBN 978-4-473-04402-0
  3. ^ 現代花菖蒲図鑑 古花から最新花まで p.251 淡交社刊 2021年 ISBN 978-4-473-04402-0
  4. ^ 堀切菖蒲園園内の案内板より[出典無効]
  5. ^ 現代花菖蒲図鑑 古花から最新花まで p.19 淡交社刊 2021年 ISBN 978-4-473-04402-0
  6. ^ a b 研究テーマ02「花菖蒲」 > 02-1.「花菖蒲」とは? - 分類図鑑・長井系品種群・大船系品種群・外国系品種群・品種名の無いもの >大船系品種群玉川大学教授 田淵俊人のホームページ
  7. ^ 現代花菖蒲図鑑 古花から最新花まで pp.19-20 淡交社刊 2021年 ISBN 978-4-473-04402-0
  8. ^ 花菖蒲 長井古種物語(長井市観光ポータルサイト)
  9. ^ 浸透交雑の脅威~ノハナショウブの危機(7/25) 本州最北端でフィールド園芸学! 2012年7月25日(弘前大学藤崎農場松本和浩研究室のページ)
  10. ^ 現代花菖蒲図鑑 古花から最新花まで p.303 淡交社刊 2021年 ISBN 978-4-473-04402-0
  11. ^ 現代花菖蒲図鑑 古花から最新花まで p.273 淡交社刊 2021年 ISBN 978-4-473-04402-0
  12. ^ 現代花菖蒲図鑑 古花から最新花まで p.72 淡交社刊 2021年 ISBN 978-4-473-04402-0
  13. ^ 永田敏弘『色分け花図鑑 花菖蒲』学習研究社、2007年、ISBN 978-4-0540-2924-8、159頁

関連項目[編集]

外部リンク[編集]