ディズニーランダゼイション

常陸風土記の丘の展望台
亀甲駅
岡崎公園の電話ボックス
遠野駅前交番

ディズニーランダゼイション (Disneylandazation) は、中川理が著書で定義した、地域性と称してさまざまなモチーフの直喩的引用による屋外造形物をあらわす用語。これらは、周辺環境から遊離してしまったものが多く、デザイナーとしてのプロフェッショナルな仕事からみると素人がやってしまう安易なデザインであるとみられる。事例として、カエルの形をした橋や上にフグなどが乗っているまたはタヌキなど動物型の公衆電話、といった動物やくだもの、乗り物など特に子供むけの素材をモチーフそのままで作られた公共事業でのものをさしている。

片桐 (2008) は、類似の意味で呼ばれる言葉として「マクドナルド化」、「エクゾポリスおよびテクノバーブ」、「ファスト風土」、「ショートケーキハウス」などを挙げている。

なお、平野(2007) はディズニーランドの世界を模倣し設計されるという現象をディズニーランダゼイションとしているが、むしろ実際の「ディズニー化」を表す言葉には、「ディズニーゼーション」(Disneyization)「ディズニファイ」(Disneyfy) が使用されている[1][2]

概要[編集]

これらのものの多くは、対象地域の特産品や歴史的資産など地域シンボル[3]を直接的に引用して形態化したデザインが多く、できあがったものはマンガチックに表現されているようにみえる。特に建設領域において創作される構造物で、普遍的な機能美や構造美といったものに対して地域性を生かしたデザインを要求すると、突然安易な意味性の添付を発生させた。これらは景観に配慮すべき河川のコンクリート護岸や水門のゲート、トンネル抗口に描かれる絵とともに、バブル期以降各方面で問題視され、識者等からさまざまな批判がなされた。例えば進士 (2013) は「農業土木において、いろいろ配慮して景観対策と称して、農業用水のポンプ場を天守や櫓やぐらの形にしているのを私は何ヵ所かで見ました。近くに城があったのかも知れませんが、ポンプ小屋の細いピアの上の城閣風建物は不安定だし、川の堰上に城が突然出てきても、墨俣の一夜城ではあるまいしやりすぎだと、思います。」と述べている。また、公共の役所や学校などの大きな建物、公衆電話ボックスやトイレなどではファンタジックな建築を多く生み出す。

中川の著書では、研究対象の中で警察交番に採用されるデザインなどを取り上げている。こうした建築作品の場合は80年代に台頭し、これまでの機能的でシンプルかつ理知的な建築より、もっと親しみやすい建築として生まれ、そうして制作され設置されるものに付与された親しみや地域性が、その場の景観条件に対して必然性はなく採用されていることが違和感につながっていること、そして自治体等の公共団体が景観の整備において、地域性の具象モチーフの直接的引用は、税金を用いる公共事業に対し平易な説明理由であるほか、事業担当者の実績顕在化手段として普及し、ファンシーファンタジックな物語から引用する象徴的形態をもちいるスタイルを結果として教条化させたこと、景観に対する無責任な現象として説明のつかない美観に対する配慮を納税者にわかりやすい理由付けを行おうとしたことに端を発しているとしている。

片桐 (2006) は、この場合の「わかりやすさ」は各人に内在している風土文化に由来する形態ではなく、その外に存在している基準であるとし、他方公共事業におけるインフラストラクチャー整備は科学技術に基礎を置いており、必然的に暗黙の認識領域である「風土」「文化」など、言葉で説明される以前のイメージを扱いにくいため、この両者は言葉で説明される以前のイメージの段階で「分断」しているという。

ただし、中川はこうした現象事態に対し倫理的に非難や問題視をしているのではなく、むしろその心情や取り組みを評価していて、方向性志向性がどこか間違っているという指摘をしている。

おもな例[編集]

かえる橋(印南町

一連の変り種交番、マスクメロンバス停新幹線トイレ和歌山県印南町 のかえる橋[4]、富山県小矢部市のメルヘン建築、長崎県諫早市くだものバス停、美咲町のJR亀甲駅駅舎(屋根部を六角形の甲羅に、亀の頭を屋根につけ、目の部分が時計になっている)、鳥取県溝口町の伝説を表現した鬼の顔をもした電話ボックスや公衆トイレなど。

なお、平野(2007) がディズニーランダゼイションとして「リアリティーが演出されたものによって書き換えられ」、「大げさな演出による他文化の進出により既存する文化の存在が危険にさらされる「安易な演出」で本来の物語を喪失させる」問題が顕著に現れている例としてとりあげた、滋賀県高島町が採用した[近江高島駅前ガリバーメルヘン広場]は、平成5年度の手づくり郷土賞を受賞している[1] (PDF)

脚注[編集]

  1. ^ 土井文博「社会のディズニー化と大学教育とホスピタリティ」『産業経営研究』第31号、熊本学園大学付属産業経営研究所、2012年3月、27-45頁、ISSN 0288-7371NAID 40019252603 
  2. ^ 高山啓子「テーマ化される観光とまちづくり」『川村学園女子大学研究紀要』第25巻第1号、川村学園女子大学図書委員会、2014年、55-65頁、ISSN 0918-6050NAID 120006320930 
  3. ^ このような発想はすでに戦前期にも川崎河港水門などのような例はあるが、ディズニーランダゼイションとは趣を異にする
  4. ^ かえる橋

参考文献[編集]

  • 中川理(1996)偽装するニッポン―公共施設のディズニーランダゼイション: 彰国社
  • 片桐保昭「ランドスケープデザインにおけるディズニーランダゼーションの構築」『科学技術社会論学会 第5回 年次研究大会・総会予稿集』、科学技術社会論学会、2006年、111-112頁、NAID 120006660282 
  • 平野順也(熊本大学、2007) 消費社会と崇拝される「二次的審級」 (PDF) - 日本コミュニケーション学会九州支部
  • 建築文化 1992年11月 特集1・公共建築のディズニーランダゼイション
  • ラスベガス (SD選書 143) R.ヴェンチューリ, 石井和紘, 伊藤公文 訳 鹿島出版会 1978
  • 五十嵐太郎 終わりの建築/始まりの建築-ポスト・ラディカリズムの建築と言説 INAX出版
  • 片桐保昭「創られゆく風景--北海道のランドスケープデザインにおける政治性と実践」『北方人文研究』第1号、北海道大学大学院文学研究科北方研究教育センター、2008年3月、69-85頁、ISSN 1882-773XNAID 120000947178 
  • 暮沢剛巳(1997)tiptoe BT--最新情報コラム 都市のディズニーランダゼイションを越えて--architecture / 美術手帖. 1997年10月号、49(10)(747) 美術出版社
  • Bryman, A. (2004). The disneyization of society. London: SAGE Publishers.
  • 進士五十八「特別講演 ランドスケープの方法 : 土木家への提案」『JICE report』第24号、国土技術研究センター、2013年、20-39頁、ISSN 1347-4502NAID 40019914367 

関連項目[編集]