タムタム

タムタム
各言語での名称
Chau gong
Tamtam
Tam-tam
タムタム
タムタム
分類

打楽器

タムタム (Tam-tam) は、金属で作られた大型の打楽器

概要[編集]

タムタムは、体鳴楽器である銅鑼ゴング)の仲間に分類される。一定のピッチの判別しがたい、低い音が出る。また余韻も非常に長い。

形は丸く、皿形で、縁が直角に短く裏へ折られている。直径は30cmから110cmほどである。通常は直径15cmほどのヘッドのついたマレットで叩く。大太鼓(バスドラム)のマレットと似ているが、より硬く大きく、重量感がある。楽器は通常、金属製の枠(スタンド)から紐で吊るして支持する。

中国を起源としており、しばしば楽器の表などに模様として漢字が書かれている。

タムタムは80%、スズ20%の青銅によって作られており、中国の特殊な錬成技術を用いて作成される。この錬成技術はフランスの化学者Jean-Pierre-Joseph d'Arcet (1777 - 1844)によって解明された。

タムタムと似た楽器にゴングがあるが、これはインドを起源とする。中央に半球状の凸部があり、この凸部を叩くと一定のピッチが判別できるので、一般に別の楽器として扱う。プッチーニの歌劇『トゥーランドット』にはタムタムと共に「チャイニーズゴング」が使われるが、これも音程を有する楽器である。

なお、似た名前の楽器に太鼓の一種のトムトム(Tom-tom)がある。しばしば混用されるが、現在では銅鑼にタムタム、太鼓にトムトムという使い分けが定着してきている。

奏法[編集]

一般的には、大きめの太く、硬めのマレットで叩く。バスドラム用の布やフェルトを巻いたもの、古タイヤを巻いたものなどがある。ロールが要求される場合は、やや小型のマレットを2本使用する場合がある。ただし、余韻が非常に長い楽器であるため、1本のマレットで叩き続けてもロールのように聞こえさせることが可能である。

"l.v. "(: laissez vibrer の略)、: "Klingen lassen "などの指示がある場合は余韻を止める必要はないが、そうでない場合には、マレットや手、場合によっては身体全体を使って音を止めなくてはならない。

専用のマレットではなく、ティンパニなどのマレットで叩く事もあるが、この場合は従来の重厚な音ではなく甲高い音になる。この奏法は、マルチパーカッションと呼ばれる、打楽器奏者が様々な打楽器を並べて色々な楽器を交互に叩く場合、太いマレットを持ち替える時間がない場合などに用いる。

リヒャルト・シュトラウスの『エレクトラ』や、ストラヴィンスキーの『春の祭典』などでは、トライアングルのビーターで表面をこするという奏法が指定されている。現代音楽では、そのほかにスーパーボールやブラシでこする、グロッケンシュピール用の真鍮製のマレットで叩く、弦楽器の弓で擦る、水につけて打つ、などの様々な特殊奏法が常套的に使用されるようになっている。

演奏効果[編集]

ヨーロッパで最初にタムタムが用いられたのは、グルックによる、フランス革命の指導者ミラボー葬送行進曲1791年)とされるが、それ以降、ヨーロッパにおいてタムタムは嘆きや恐怖をドラマチックに表現するため、金管楽器の重い和音と一緒に使われた[1]

弱音での使用(単音)
単独で叩かれるタムタムの弱音は、独特のぞっとするような痛ましげな音がする[1]ベルリオーズの『管弦楽法』では、 での効果的な使用例としてマイヤベーアの『悪魔ロベール』第3幕の音楽が挙げられている[1]。ロマン派以降においても、チャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」第4楽章での、トロンボーンチューバの絶望的なコラールを導き出すタムタムのソロ(なお、「悲愴」交響曲においてタムタムが使用されるのはこの1打のみである)や、マーラーの『大地の歌』第6楽章「告別」冒頭部分での、低音楽器と組み合わせられたタムタムなどの使用例がある。
ロールによるクレッシェンド
最弱音から最強音まで演奏が可能であり、タムタムが最も本領を発揮する使用方法である。この方法で得られる はオーケストラの響きによく溶け込み、全体の響きを倍加させる効果がある[2]。このような使用例としては、メシアンの『トゥーランガリラ交響曲』の第5、第10楽章の終結や、マーラー交響曲第2番の第5楽章、ウェーベルンの『管弦楽のための6つの小品』第4曲などがある。タムタムは巨大な金属の塊であることに加え、桴が硬質でないことから反応速度が遅い。このため、ロールでのクレッシェンドも時間をかけて行われることが普通であるが、ストラヴィンスキーの『春の祭典』、レスピーギの交響詩『ローマの祭り』第1曲「チルチェンセス」のように、短時間で音量を上げることを要求する楽曲もある。
強音での使用(単音)
ロールによる最強音と違い、単音での強音はオーケストラの響きからは分離した、圧倒的なアクセントとなる。クライマックス部分で見られる他、オルフの『カルミナ・ブラーナ』や、コープランドの『市民のためのファンファーレ』のように、曲の開始に使われる場合がある。刺激的な金属音であることから、レッド・ツェッペリンのようにハードロックでの使用例もある。
エスニックな表現として
中国由来の楽器であるため、アジア、特に中国をイメージさせる楽器としての使用方法もある。ラヴェルの『マ・メール・ロワ』第3曲「パゴダの女王レドロネット」の中間部に使用例がある。また、中国を舞台としたプッチーニの歌劇『トゥーランドット』ではタムタムやゴングが効果的に使用されているが、特に第1幕では、求婚の合図として「3発の銅鑼」が設定されており、ストーリーのうえでも重要な位置を占めている。

効果的に使用する楽曲[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b c 管弦楽法』(ベルリオーズほか)、507頁
  2. ^ 管弦楽法(上)』(伊福部)、619頁

参考文献[編集]

  • 伊福部昭『管絃楽法(上)』音楽之友社、1968年。 
  • エクトル, ベルリオーズシュトラウス, リヒャルト『管弦楽法』小鍛冶邦隆監修、広瀬大介訳、音楽之友社、2006年2月。ISBN 978-4-276-10682-6 

関連項目[編集]