スプラウト

ガーデンクレス

スプラウト: Sprout)とは、主に穀類豆類野菜種子を人為的に発芽させた新芽で、発芽したを食用とする。発芽野菜(はつがやさい)[1]または新芽野菜(しんめやさい)[1]ともいう。生育の仕方によってモヤシなどの「もやし系」と、かいわれ大根などの「かいわれ系」がある[1]。成熟した野菜よりも栄養価が高いものがあり、生食できるものは効率的に栄養素がとれるメリットがある[2]。英単語のsproutは、芽キャベツモヤシを意味する[3]

歴史[編集]

スプラウトは古くから食用に栽培されていて、古くは5000年前の古代中国マメ科のスプラウトであるモヤシが栽培されていたといわれている。そのほか、18世紀後半に南太平洋などをエンデバー航海したキャプテン・クックは、船上で大麦のスプラウトをつくり、船乗りたちの栄養補助源としたといわれている。また、19世紀英国ビクトリア朝時代にメアリー・ジューリーという料理研究家によってマスタードクレスのスプラウトを使った料理本が残され、スプラウトブームが発生していたり、日本平安貴族たちの食膳にかいわれ大根がのぼっていたとも伝えられ、古くから世界各地で食べられていた。

日本では、1999年に村上農園がブロッコリー、マスタード、クレス、レッドキャベツの新芽を「スプラウト」として日本で初めて発売を開始し[4]、様々な種類の発芽野菜が一般の家庭で食べられるようになった。

栄養[編集]

発芽した植物が成長するために使うエネルギー、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、タンパク質、ファイトケミカルが豊富に含まれる[5][6]。発芽に伴う栄養の変化は、主に複雑な化合物がより単純な形に分解されることや、栄養上望ましくない成分が分解されることによる[7]

ブロッコリースプラウトは、スルフォラファンを豊富に含む[8]。スルフォラファンは、非臨床試験[9]試験管内での実験や動物実験)では、アルコールなどの肝臓での解毒代謝の亢進、抗炎症作用やピロリ菌に対する抗菌作用などの効果が明らかになっている[10][11]。しかし、どの効果に関してもヒトを対象にした研究は少なく、ヒト疾患に対する有効性を示す質の高い[12][13]根拠は得られていない[14][8][15]

1997年非臨床試験で、発芽3日目のブロッコリーの新芽に含まれるスルフォラファンが、ラットがんの発生と増殖を減少させたことが報告された[16][17]。ヒトにおける有効性の根拠はないものの[8]、その発表を受けてブロッコリースプラウトがアメリカでブームになり[18]、これに続く形で他のスプラウトも注目されるようになった[16]

安全性[編集]

市販のスプラウトは、サルモネラ菌や有毒な形態の大腸菌を含む有害な細菌の複数の感染拡大と関連している[19]。このような感染は、汚染された種子または高い微生物数を有する不衛生な生産の結果である可能性がある[20][21]。事件の影響を最小限に抑え、公衆衛生を維持するために、米国食品医薬品局(FDA)とカナダ保健省は、食用スプラウトの安全な製造とその安全な消費に関する公衆教育に関する業界ガイダンスを発行した[22][23]。勧告には、種子とスプラウトの生産と取り扱いにおける適正農業規範と適正製造規範の策定と実施、種子消毒処理、食品供給に入る前の微生物検査が含まれている[22][23]

栽培[編集]

水耕栽培で行われるため、品質は生産者が使用する種子や栽培方法によるところが大きい[24]。種子の親である植物が、どのような環境で育てられたか、あるいはその植物の品種によって、スプラウトに含まれる栄養素や有効成分に差異が生じるため、種子の選別が行われる[24]

栽培は、はじめに種子の洗浄と浸水が行われる[24]。十分に水を含んだ種子は培地となる容器に移し替えられて播種され、衛生管理と温度管理がなされた暗室で発芽させる[24]。さらにカイワレ系では、発芽後に緑化させるために、ハウスに移されて陽光を受けて緑化され収穫となる[24]。ハウスの中では種子が乾燥しないように、散水が適時行われる[24]

分類[編集]

生育方法によってモヤシ系とカイワレ系に大別される[1]

モヤシ系(豆型)
マメ科の種子を発芽させたもので、茎が太く種子を頭につけたまま伸びてゆくグループ[1]。栽培日数は3日程度で、暗室のみで育て、発芽後は緑化させない[16]緑豆もやし、大豆もやし、黒豆もやし、アルファルファフェヌグリークなど
カイワレ系(アブラナ科型)
主としてアブラナ科の種子から芽が伸びてゆくグループ[1]。栽培日数は5 - 10日程度で[16]、茎が伸びるまで暗室で育て、その後たっぷりをあてて緑化させる。大根ブロッコリームラサキキャベツマスタードクレス豆苗ソバカラシナシロガラシなど

なお、暗室で発芽後、緑化させたカイワレとモヤシの中間系もある(スーパースプラウト)[16]。また、発芽後すぐにごと食べるものもある(発芽玄米緑豆アズキケツルアズキレンズマメヒヨコマメなど)。

主な種類[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f 伊嶋まどか『はじめよう!キッチン野菜』学習研究社、2011年、48頁。 
  2. ^ a b c d 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 58.
  3. ^ sproutとは”. アルク - 英辞郎. 2022年6月6日閲覧。
  4. ^ “スプラウトが近年、急に増えてる理由”. excite.ニュース. (2007年12月25日). https://www.excite.co.jp/news/article/00091198510629/ 2018年1月19日閲覧。 
  5. ^ Plant-based nutrition” (Spring 2002). 2004年7月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年6月6日閲覧。
  6. ^ Dikshit, Madhurima; Ghadle, Mangala (2003). “Effect of sprouting on nutrients, antinutrients and in vitro digestibility of the MACS-13 soybean variety”. Plant Foods for Human Nutrition 58 (3): 1–11. doi:10.1023/B:QUAL.0000040357.70606.4c. 
  7. ^ Gupta, Aparajita (2016年2月16日). “Why you should include Sprouted Grain in your diet: Amazing health benefits of sprouts” (英語). PickupBrains. 2022年6月6日閲覧。
  8. ^ a b c スルフォラファン - 素材情報データベース<有効性情報>(国立健康・栄養研究所
  9. ^ 非臨床試験 - 薬学用語解説 - 日本薬学会”. www.pharm.or.jp. 2022年3月19日閲覧。
  10. ^ 中村宜督、食品に見る 機能性成分のひみつ(第28回)青汁の材料として有名な葉野菜 スルフォラファンとルテイン ケール”. 女子栄養大学出版部. 2022年6月6日閲覧。
  11. ^ Fahey, J. W.; Haristoy, X.; Dolan, P. M.; Kensler, T. W.; Scholtus, I.; Stephenson, K. K.; Talalay, P.; Lozniewski, A. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2002, 99, 7610–7615.
  12. ^ どんな論文が本当に治療効果を証明しているのか?”. 大須賀覚 (2019年6月20日). 2022年3月19日閲覧。
  13. ^ その情報は「確かな情報」ですか?”. 国立健康・栄養研究所. 2021年7月30日閲覧。
  14. ^ “Isothiocyanates”. Linus Pauling Institute (Micronutrient Information Center, Linus Pauling Institute, Oregon State University). (2017年3月). https://lpi.oregonstate.edu/mic/dietary-factors/phytochemicals/isothiocyanates 2018年11月19日閲覧。 
  15. ^ van Die, MD; Bone, KM; Emery, J; Williams, SG; Pirotta, MV; Paller, CJ (April 2016). “Phytotherapeutic interventions in the management of biochemically recurrent prostate cancer: a systematic review of randomised trials”. BJU Int. 117 (S4): 17–34. doi:10.1111/bju.13361. PMC 8631186. PMID 26898239. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8631186/. 
  16. ^ a b c d e 講談社編 2013, p. 106.
  17. ^ Broccoli sprouts: an exceptionally rich source of inducers of enzymes that protect against chemical carcinogens”. Proc Natl Acad Sci U S A . 1997 Sep 16;94(19):10367-72. doi: 10.1073/pnas.94.19.10367.. 2022年6月6日閲覧。
  18. ^ アメリカでいま最もホットな新食材・食べ方術:野菜の新芽「スプラウト」”. 日本食糧新聞 (2010年10月10日). 2022年6月6日閲覧。
  19. ^ Neuman, William (2011年6月10日). “The Poster Plant of Health Food Can Pack Disease Risks”. New York Times. https://www.nytimes.com/2011/06/11/business/11sprouts.html?ref=global-home&gwh=2954AC55431292D8F5723F90E3DFD672 2022年6月6日閲覧。 
  20. ^ Breuer, Thomas. “A Multistate Outbreak of Escherichia coli O157:H7 Infections Linked to Alfalfa Sprouts Grown from Contaminated Seeds”. 2022年6月6日閲覧。
  21. ^ Gabriel, Alonzo A.; Berja, M; Estrada, A; Lopez, M; Nery, J; Villaflor, E (2007). “Microbiology of retail mung bean sprouts vended in public markets of National Capital Region, Philippines”. Food Control 18 (10): 1307–1313. doi:10.1016/j.foodcont.2006.09.004. 
  22. ^ a b Sprout Safety Public Meeting”. Food and Drug Administration (2005年4月22日). 2022年6月6日閲覧。
  23. ^ a b Sprouted Beans and Seeds”. Health Canada (2007年1月15日). 2022年6月6日閲覧。
  24. ^ a b c d e f 講談社編 2013, p. 107.
  25. ^ a b c d e f g h i j k l 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 59.
  26. ^ a b c d e f g h i 講談社編 2013, p. 108.
  27. ^ a b c d 講談社編 2013, p. 109.

参考文献[編集]

  • 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日、58 - 59頁。ISBN 978-4-415-30997-2 
  • 講談社編『からだにやさしい旬の食材 野菜の本』講談社、2013年5月13日、106 - 109頁。ISBN 978-4-06-218342-0 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]