ジェームズ・アンソール

ジェームズ・アンソール
James Ensor
アンリ・ド・グルーによる肖像画
誕生日 1860年4月13日
出生地 ベルギー,オーステンデ
死没年 1949年11月19日
死没地 ベルギー,オーステンデ
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2002年まで用いられていた100ベルギー・フラン紙幣の肖像

ジェームズ・アンソールJames Ensor, 1860年4月13日 - 1949年11月19日)は、19世紀後半から20世紀前半のベルギー画家。近代ベルギーを代表する画家の一人。

日本ではフランス語発音に基づく「アンソール」の表記が定着しているが、画家の出身地の言語であるオランダ語フラマン語)での発音は「エンソル」に近い[1]。「ジェームズ」は英語の名前である。

ベルギーでユーロ導入以前に発行されていた100フラン紙幣に肖像が使用されていた。

生涯[編集]

アンソールは1860年、北海沿岸の海岸リゾート地であるベルギーのオーステンデ(オステンド)で生まれた[2]。1877年に首都ブリュッセル王立美術アカデミーに入学し、1880年に帰郷するが、この3年間を除いて長い生涯のほとんどをオーステンデで過ごした。

オーステンデのアンソールの両親の家は観光客相手の土産物店を営んでおり、貝殻、民芸品、カーニバル仮面などを商っていた。カーニバルの仮面が後に画家としてのアンソールの重要なモチーフとなったことはよく知られる。アンソールの父はイギリス系の人物で、数カ国語をあやつる教養人であったといわれるが、仕事らしい仕事はしておらず、土産物店はもっぱらアンソールの母が切り盛りしていた。長い生涯を独身で通したアンソールは、当時の美術の中心地であったパリとも無縁のまま、オーステンデの両親の家の屋根裏部屋をアトリエとして孤独な制作を続けていた。

アンソールの画風は19世紀から20世紀の多くの画家たちのなかでも、他に類を見ない個性的なもので、特定の流派に分類することは難しいが、パウル・クレーエミール・ノルデなど多くの著名な画家に影響を与え、また20世紀の主要な美術運動であった表現主義シュルレアリスムにも影響を与えていることから、20世紀美術の先駆者として高く評価されている。アンソールの作品はまた、油彩だけでなく版画の作品にも優れたものが多い。

初期には原色を多用した独特の色づかいによる室内情景や静物画などを描いていた。アンソールの絵に仮面のモチーフが現れるのは1883年の『人騒がせな仮面』(日本語題は『不面目な仮面』とも)からで、以後のアンソールの作品中の人物は、大部分が仮面をつけている(または仮面がそのまま顔と化している)ように見え、絵を見る者を嘲笑しているようである。印象派の影響を感じさせる赤を多用した華麗な色彩にもかかわらず、その画面にはどこか死の臭いが漂っている。

「Ensor at the Harmonium(「オルガン(ハーモニウム)に向かうアンソール」)」1933年(メナード美術館蔵)

1898年からアンソールは仲間たちとオーステンデのカジノ・カーセール・オーステンデオランダ語版等で「Bal du Rat mort英語版(死んだネズミの舞踏会)」という仮面舞踏会を開いていた。(死後、その舞踏会にインスピレーションを受けて、フランスのパンクバンドコミンテルンフランス語版の1971年の楽曲「Le Bal Du Rat Mort」や、ベルギーの漫画『Le Bal du rat mort(漫画)フランス語版(1980年)』原作、ジャン・ブッコイ英語版(映画監督)、作画、ジャン・フランソワ・シャルルフランス語版が造られた)  

「Bal du Rat mort」のポスター1903年

 

アンソールは1949年に89歳で没しているが、仮面や骸骨をモチーフにした主要な作品は1885年から1895年(25歳~35歳)頃に集中的に描かれている。初期には画壇の異端児とされ、周囲からの無理解と嘲笑に晒されたアンソールであったが、20世紀に入ってから次第に巨匠としての名声が高まり、1929年には男爵に列せられ、1933年にはフランスのレジオン・ドヌール勲章を得ている。

しかし皮肉なことに、アンソールの作品のうち評価が高いものはほとんどが1900年以前のもので、20世紀に入って以降の作品はあまり高く評価されていない。

現代アーティストルイーズ・ブルジョワ作「ママン」とアンソールの墓があるマリアケルケ英語版聖母教会オランダ語版
アンソールの墓を守るように真上に建つママン
オーステンデにある生前のアンソールの家の美術館「Ensor Museum (Het James Ensorhuis)オランダ語版
ベルギーの芸術家ウィリー・ボシェムオランダ語版作「ジェームズ・アンソールの肖像」2013年

代表作[編集]

「Christ's Entry into Brussels in 1889(キリストのブリュッセル入城)」
仮面に囲まれた自画像

文献[編集]

  • 末永照和『ジェームズ・アンソール 仮面の幻視者』小沢書店、1983年
  • 『ジェームズ・アンソール 仮面、死、そして海』ウルリケ・ベックス=マローニー解説、タッシェン・ジャパン、2002年
  • 『ジェームズ・アンソール〈自作を語る画文集〉仮面と骸骨の幻想』藤田尊潮・内野貴洋編訳、八坂書房、2022年

脚注[編集]

関連項目[編集]