カブトエビ

カブトエビ
生息年代: 石炭紀現世
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 甲殻亜門 Crustacea
: 鰓脚綱 Branchiopoda
亜綱 : カブトエビ亜綱 Calmanostraca[1]
: 背甲目 Notostraca
: カブトエビ科 Triopsidae
英名
tadpole shrimp

カブトエビ(兜蝦、兜海老、英語: tadpole shrimp)は、鰓脚綱背甲目Notostraca)・カブトエビ科Triopsidae)に属する甲殻類の総称。淡水性で発達した背甲をもつ甲殻類。名前に反してエビではない。

特徴[編集]

カブトエビの背面と腹面。1: 眼、2と5: 第一胸肢、3と9: 腹部、4: 背甲、6と7: 胸肢、8: 腹肢、10: 尾節と尾肢

大きさは2-10cm、鰓脚類にしてはかなりの大型である[2]

ミジンコ類やカイエビ類と共に鰓脚類に含まれる。しかし、体の左右に包まる背甲と発達した第二触角をもつミジンコ類とカイエビ類に対してカブトエビの背甲は平らに開き、第二触角は著しく退化し完全に欠如した場合もある。短い第一触角は背甲前方の腹側にあり、大顎は発達する。背甲の前方には2つの大きな複眼・1つの目立たないノープリウス眼・および1つの丸い背器官(dorsal organ)が集約する[3]。胸部と腹部は多数の節に分かれ、腹側にある11対の胸肢と数十対の腹肢は鰭状で、呼吸と遊泳に使われる。第1対の胸肢からそれぞれ3本の糸状部が伸ばし、感覚器官として役を果たす。本当の触角は不明瞭であるため、この触角のような第1胸肢はしばしば触角と誤解される場合もある。腹部後端には1対の尾肢が備える[4]

日本では6-7月、水田などに大量発生する。水田への注水後10時間程度で孵化が始まり、6日程度継続して孵化する[5]、孵化から10日程度で産卵し、1 - 2か月の短い一生を終えるが、成長速度と生存期間は水温で大きく変化する。水温が21 °Cの場合、アジアカブトエビは8日目、アメリカカブトエビは10日目、ヨーロッパカブトエビは16日目から産卵する[6]。水田の水抜きで水が枯れる頃には、泥内に卵が残っている。他の地域では頻繁に干上がるような浅い水たまりや池に生息することが多く、乾燥に強い耐久卵を持ち、水田のような環境に適応したものと考えられる。雑食性で、泥中の動植物の死骸の破片や小型藻類、プランクトンを泥と共に捕食する。

分布[編集]

日本国内では以下の4種が生息する。

  • アメリカカブトエビTriops longicaudatus):関東以西
  • ヨーロッパカブトエビTriops cancriformis):山形県、長野県[7]
  • タイリクカブトエビTriops sinensis):鳥取、近畿地方(※従来アジアカブトエビ(T. granarius)とされていたもの)
  • シラハマオーストラリアカブトエビTriops strennus):和歌山県

タイリクカブトエビは在来種と考えられる[8]が、残りの2種はいずれも移入種で、1916年、香川県でアメリカカブトエビが発見された[9]後、各地で発見されている。関東中部地方以西に広く分布している。なお、タイリクカブトエビも中国からの帰化動物という研究もある[10]

また、日本周辺ではヘラオカブトエビ Lepidurus arcticus千島列島から記録されている[11]

分類[編集]

鰓脚類の中でカブトエビはカイエビミジンコ類と単系統群をなしている。これらは葉脚亜綱 Phyllopoda としてまとめられ、もしくはカブトエビが自らカブトエビ亜綱 Calmanostraca を構成し[1]、他の鰓脚類から区別される。カブトエビ(背甲目 Notostraca)はカブトエビ科 Triopsidae のみからなり、この科はカブトエビ属 TriopsLepidurus 属が含める。両属の見分け方として、カブトエビ属の第一胸肢の糸状部は長く、Lepidurus 属の尾節にはヘラ状の突起がある。

  • Triops カブトエビ属
    タイリクカブトエビ
Lepidurus apus

生きている化石[編集]

頭部の拡大写真、複眼と背器官が写る。

この類は石炭紀から出現し、中でもカブトエビ属はジュラ紀からの化石も存在し、甲殻類の中でも古い形質を残したものと考えられている。分化した当時から現在までほぼ同じ姿を保ち続けた生きている化石である。その原始的な特徴として、ノープリウス眼がある。大きな目が2つついているように思われるが、中心についている小さな目と合わせ、全部で3つ目である。通常、甲殻類のノープリウス眼は幼生のみに存在するため、このノープリウス眼が成体にも残っていることから原始的特徴と見なされている。

水田の除草[編集]

水田では雑草を食べるほか、餌の捕食あるいは産卵のために水底の泥をかき混ぜることにより、水が濁って光が遮られ、雑草の発芽と生長が抑制される。そのため、「田の草取り虫」とも言われている。水田雑草の除草を目的とした場合、生存期間が最長のアジアカブトエビが最適とする研究がある[6]。また、有機農法を行っている水田では水の pH が低いため、孵化しても死滅する[9]とする研究もある。

飼育・観察[編集]

アメリカカブトエビの卵
  • 「トリオップス」 (Triops) などの名称で飼育セットが販売されていることもあり、そのほとんどがアメリカカブトエビであるが、別種のカブトエビやホウネンエビ、ミジンコなどが混入していることもある。飼育法は至って簡単で、乾燥した卵を水中に入れるだけで1日から数日のうちに孵化するうえ、熱帯魚用の餌などを流用して飼育できる。既述のように寿命が短く数か月で死んでしまうが、卵を残していることが多いため、すべて死んでしまった水槽の砂を乾燥させ、再び水中に入れると次世代の個体が生まれることも多い。その手軽さから、中学生が自由研究の課題にすることも多い。
  • 学研の「科学と学習」の「2年の科学」の教材付録には、毎年夏にカブトエビ飼育セットが付録となっていた。

関連項目[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b WoRMS - World Register of Marine Species - Calmanostraca”. Flanders Marine Institute. 2019年1月15日閲覧。
  2. ^ Denton Belk (2007). “Branchiopoda”. In Sol Felty Light; James T. Carlton. The Light and Smith Manual: Intertidal Invertebrates from Central California to Oregon (4th ed.). カリフォルニア大学出版. pp. 414-417. ISBN 978-0-520-23939-5. https://books.google.com/books?id=64jgZ1CfmB8C&pg=PA417 
  3. ^ Longhurst, A R (1955). “A review of the Notostraca”. Bulletin of the British Museum (Natural History) 3: 1-57. doi:10.5962/bhl.part.4119. ISSN 0007-1498. http://www.biodiversitylibrary.org/part/4119. 
  4. ^ Crustacea, the Higher Taxa - Notostraca (Branchiopoda)”. Australian Museum. 2019年1月15日閲覧。
  5. ^ 奥埜良信「アジアカブトエビ(Triops granarius)休眠卵が孵化する時間と幼生の変態段階」『大阪教育大学紀要. 第III部門自然科学・応用科学』第51巻第1号、大阪教育大学、2002年9月、17-26頁、ISSN 13457209NAID 80015866969 
  6. ^ a b 高橋史樹、郷田雅男、赤山敦夫「カブトエビ3種の生命表の比較」『日本応用動物昆虫学会誌』第24巻第4号、日本応用動物昆虫学会、1980年、229-233頁、doi:10.1303/jjaez.24.229ISSN 0021-4914NAID 110001113220 
  7. ^ 篠川貴司「長野県の水田で採集されたヨーロッパカブトエビ」『CANCER』第9巻、日本甲殻類学会、2000年、15-16頁、doi:10.18988/cancer.9.0_15ISSN 0918-1989NAID 110002952124 
  8. ^ 片山寛之「カブトエビによる水田雑草の生物学的制御」『日本応用動物昆虫学会大会講演要旨』第17号、日本応用動物昆虫学会、1973年4月3日、202頁、NAID 110001081026 
  9. ^ a b 浜崎健児「慣行農法水田と有機農法水田におけるアメリカカブトエビ Triops longicaudatus(LeConte)の発生」『日本応用動物昆虫学会誌』第43巻第1号、日本応用動物昆虫学会、1999年2月、35-40頁、doi:10.1303/jjaez.43.35ISSN 00214914NAID 110001124523 
  10. ^ 出典:片山寛之、高橋史樹(1890)カブトエビ-日本への侵入と生体。川合貞次等編「日本の淡水生物-侵入と攪乱の生態学」東海大学出版協会
  11. ^ 上野益三「Lepidurus arcticus(PALLAS)千島に分布す : 鰓脚類雜記5」『動物学雑誌』第42巻第498号、東京動物學會、1930年、152頁、NAID 110003359345NDLJP:10832987 

参考文献[編集]

外部リンク[編集]