オヒョウ (植物)

オヒョウ
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
: イラクサ目 Urticales
: ニレ科 Ulmaceae
: ニレ属 Ulmus
: オヒョウ U. laciniata
学名
Ulmus laciniata (Trautv.) Mayr ex Schwapp. (1895)[1]
シノニム
和名
オヒョウ
英名
Manchurian Elm

オヒョウ(於瓢、学名: Ulmus laciniata)はニレ科ニレ属落葉性高木日本列島から東北アジアの山地に分布する。日本北海道に多い。

名称[編集]

樺太の白浦地方では樹皮をアイヌ語でオピウ(opiw)とも呼び、和名「オヒョウ」の名称はこれに由来する[6][7]。アイヌ語ではオヒョウの樹皮と繊維をアッ(at)、それが採れる木をアッニ(atni)ともよんでいる[8]樺太の方言ではそれぞれアㇵ(ah)、アㇵニ(ahni)という。ただしアイヌ語学者の知里真志保によれば、アイヌ語には植物の部分の呼び名はあっても、元来は植物そのものの名前はないとされる[7]。樹皮が特別にオピウとよばれるのは、アイヌにとってこの樹皮が特別役に立つものであったからである[7]。俗説として、葉の形を魚のオヒョウになぞらえる人もいるが、これについては懐疑的な見方もされている[9]

別名アツシノキ(厚司の木)、ヤジナ(矢科)、ネバリジナ(粘科)。アツシ、アツニ、マルバオヒョウ、マルバオヒョウニレ、テリハオヒョウの別名もある[1]中国名は裂葉榆[1]。ヤハズレという和名の別名もあり、葉の形を矢筈に見立てて命名されたものである[7]

分布[編集]

日本サハリン朝鮮半島中国北部に分布する[10]。日本では北海道本州九州に分布し、本州以南では山地で見られる[10]。涼しい地方で成育し、本州では東北地方信州木曽などに多いとされる[10]。オヒョウは水が十分にあって洪水がなく、肥沃な土地を好む性質で、ハルニレと同じような場所に自生する[10]

特徴[編集]

落葉広葉樹高木で、高さ約25メートル (m) に達する[8]樹皮は淡灰褐色で縦に浅く裂け、長く剥がれ落ちる[10]。樹皮の繊維は強靭。の形は定型に当てはまらず、1枚として同じものがなく不整形(異葉性という)[11]。多くは楕円形から広倒卵型で、葉の先のほうが噛み切られているように3〜9裂し、縁には重鋸歯が見られる。両面に白い短毛がびっしり生え、ざらついた手触り。

花期は春(4 - 5月ごろ)で、新葉の出る前に、花弁がない淡紅色の小が束状に咲く[10]果実は長さ2cmほどの扁平な楕円形をした翼果で、6月頃、褐色に成熟する。

利用[編集]

樹皮(靭皮)の繊維は、長くて非常に強靭で北方の樹種の中でも最も優れており、アイヌはこれを染色して、アットゥㇱ(attus 厚司)という布や衣類を織る(同じ用途のシナノキより高級・希少とされる)[12][8]。別名のアツシノキはこのことに由来。アツシ織は北方民族の作品としては、最も優れたもののひとつである[8]。樹皮がオピウ(opiw)とよばれるのは、オヒョウの樹皮がアイヌにとって、最良の樹皮布が採れる役立つものであったからだといわれている[7]。オヒョウから樹皮を剥いで1週間を限度に、池などの水につけて繊維を採るが、温泉のほうが繊維が白くきれいに仕上がるといわれる[8]

樹木は器具材、薪炭材パルプに利用できる。

脚注[編集]

  1. ^ a b c 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Ulmus laciniata (Trautv.) Mayr ex Schwapp. オヒョウ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年2月20日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Ulmus laciniata (Trautv.) Mayr var. laevigata Inokuma オヒョウ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023-02-30閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Ulmus laciniata (Trautv.) Mayr var. nikkoensis Rehder f. laevigata (Inokuma) オヒョウ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年2月20日閲覧。
  4. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Ulmus laciniata (Trautv.) Mayr var. nikkoensis Rehder f. holophylla Nakai オヒョウ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年2月20日閲覧。
  5. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Ulmus laciniata (Trautv.) Mayr var. nikkoensis Rehder オヒョウ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年2月20日閲覧。
  6. ^ 知里真志保『分類アイヌ語辞典』[要文献特定詳細情報]
  7. ^ a b c d e 辻井達一 1995, p. 137.
  8. ^ a b c d e 辻井達一 1995, p. 138.
  9. ^ 辻井達一 1995, pp. 136–137.
  10. ^ a b c d e f 辻井達一 1995, p. 139.
  11. ^ 辻井達一 1995, p. 136.
  12. ^ 貝澤雪子「アットゥシ 紡ぐ木のぬくみ◇アイヌ民族伝統の樹皮の織物制作し60年◇」日本経済新聞』朝刊2018年12月13日(文化面)2019年2月27日閲覧。

参考文献[編集]

  • 辻井達一『日本の樹木』中央公論社〈中公新書〉、1995年4月25日、136 - 139頁。ISBN 4-12-101238-0 

関連項目[編集]