ウィキペディアの信頼性

ウィキペディアの信頼性(ウィキペディアのしんらいせい)は、オンライン百科事典であるウィキペディアにおける信頼性であり、長年議論されてきた。ウィキペディアは、不特定多数の誰もが編集可能であるという性質上、その信頼性・信憑性が疑われやすい。国際的な百科事典であるブリタニカのような従来の百科事典は、基本的にその分野の専門家のみが執筆可能であり、また査読を得て公表・公開されるのが通例であったが、ウィキペディアは「検証可能性」「独自研究は載せない」「中立的な観点」という三原則を大前提とするならば[1]、専門家でなくとも編集ができ、また基本的に査読も行われない。

ブリタニカと同じくらい正確か[編集]

外部によるウィキペディア記事の信頼性調査の良く知られている例としては、2005年12月に科学誌『ネイチャー』オンライン版が発表した、英語版ウィキペディアブリタニカ百科事典の比較調査がある[2][3]。ネイチャー誌は調査結果として、英語版ウィキペディアに掲載されている情報はブリタニカと同じくらい正確であると発表している[4]。ネイチャー誌は複数の専門家に依頼し、2つの百科事典から42項目の科学用語を比較したところ、間違・欠落が英語版ウィキペディアには162点、ブリタニカには123点が指摘された[5][6]。ブリタニカ側は間違いを指摘された内の64点で反論を行った[7]ジャーナリストピエール・アスリーヌらは、科学用語の記事は間違いの挿入や荒らし行為を受けづらく、ネイチャー誌の調査結果はウィキペディア全体の評価には繋がらない点などを指摘している[8]

ウィキペディアの記事の精度は高いとした研究結果がある[9]一方で、記事に対する査読制度がないため、問題ある記述はコミュニティーの自己管理により解決されることに委ねられている[10]。このようにウィキペディアは信用に足る百科事典とは言い難く、ウィキペディアからの引用を学術関連のレポートに載せることは、そのレポートの信憑性そのものに疑問を持たせることでもある。また問題のある投稿が他の利用者によって修正・除去がなされるまでは一時的であっても適切でない記述が公開され、問題が長期間見逃されたり、編集合戦により編集できない場合に問題のある記事が長らく修正・除去できないという問題もある。米国では、学術研究の出典としてウィキペディアの記事を引用した学生が、その内容が史実と異なっていたため落第点をとったとして、ウィキペディアの創設者ジミー・ウェールズに苦情を寄せたという事例がある[11]。これを機に、ジミー・ウェールズはウィキペディアを学術研究の出典として利用するのを止めるよう訴えた。大学機関のいくつかは学生たちにレポート課題においてウィキペディアを引用することを禁止している。また、ディベートなどの正確性の求められる競技などでは、ウィキペディアの情報は用いられていない。

日本で大学生を対象とした調査において、情報源がWikipedia日本語版である情報は信頼性が低いと判断されているとする報告がある[12]。"Wikimedia Conference Japan 2013"において情報工学者鈴木優は編集者の編集内容に対する他者の応対により、各編集者の信頼性の評価を数値化して計測する試みについて発表している[13]

ウィキペディア上のデマ[編集]

たいていは訂正、もしくは削除の方針で削除されるが、一部のデマはWikipedia:削除された悪ふざけとナンセンスにて隔離されている[16]。そのようなデマと判明している記事には、Template:ユーモアTemplate:Usoなどが添付されてデマとわかるようにされて保存される。[独自研究?]

関連項目[編集]

出典[編集]

  1. ^ 日下九八 2012, p. 2-12.
  2. ^ アスリーヌほか 2008, p. 26.
  3. ^ タプスコット・ウィリアムズ 2006, pp. 120–121.
  4. ^ 「Wikipediaの情報はブリタニカと同じくらい正確」--Nature誌が調査結果を公表”. CNET Japan (2005年12月16日). 2020年11月15日閲覧。
  5. ^ アスリーヌほか 2008, p. 27.
  6. ^ 『ネイチャー』誌、ウィキペディアの正確さを評価”. WIRED JAPAN. Nast Japan (2005年12月19日). 2015年3月7日閲覧。
  7. ^ アスリーヌほか 2008, p. 33.
  8. ^ アスリーヌほか 2008, pp. 26–35.
  9. ^ CA1676 - ウィキペディアにおける情報の質(IQ)向上の仕組み”. 石澤文. 2020年11月15日閲覧。
  10. ^ 拡大するフリー百科事典『ウィキペディア』の課題WIRED VISIONDaniel Terdiman 2005年1月13日)(2008年1月12日時点のアーカイブ
  11. ^ ウィキペディアの創設者、学術研究のための引用を止めるよう訴えかけるシーネットネットワークスジャパンサービス 2006年6月19日 16:55閲覧)
  12. ^ 佐藤翔, 楠本千紘, 服部亮, 大菅真季, 浅井理沙, 河野真央, 久山寮納「日本の大学生は情報源がWikipedia日本語版である情報の信憑性を他のオンライン百科事典である情報よりも低く判断する」『情報知識学会誌』第28巻第3号、情報知識学会、2018年、223-252頁、doi:10.2964/jsik_2018_023ISSN 0917-1436NAID 130007498856 
  13. ^ 日下九八 2013, p. 55-57.
  14. ^ Wikipediaに「架空のロシアの歴史」を10年にわたり1人の女性が書き込み続けていたことが判明、「小説家になるべき」との声も”. GIGAZINE (2022年6月30日). 2023年6月12日閲覧。
  15. ^ Dewey, Caitlin (2021年10月26日). “The story behind Jar’Edo Wens, the longest-running hoax in Wikipedia history” (英語). Washington Post. 2023年6月12日閲覧。
  16. ^ https://www.facebook.com/otakumakeizai+(2013年5月10日).+“誰だこんなこと書いたやつは!Wikipediaにある嘘記事”. おたくま経済新聞. 2023年6月12日閲覧。

参考文献[編集]

  • アンドリュー・リー、千葉敏生(訳)、2009、『ウィキペディア・レボリューション―世界最大の百科事典はいかにして生まれたか』初版、早川書房 ISBN 978-4-15-320005-0
  • スーザン・メイヤー、熊坂仁美(監修)、スタジオアラフ(訳)、2013、『Wikipediaをつくったジミー・ウェールズ』第1刷、岩崎書店〈時代をきりひらくIT企業と創業者たち 5〉 ISBN 978-4-265-07910-0
  • ピエール・アスリーヌほか、佐々木勉・木村忠正(訳)、2008、『ウィキペディア革命―そこで何がおきているのか?』第1刷、岩波書店 ISBN 978-4-00-022205-1
  • ドン・タプスコット、アンソニー・D・ウィリアムズ、井口耕二(訳)、2007、『ウィキノミクス―マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ』第1版、日経BP社 ISBN 978-4-8222-4587-0
  • 日下九八「ウィキメディア・カンファレンス・ジャパン2013開催報告」『情報管理』第56巻第1号、科学技術振興機構、2013年4月、55-57頁、doi:10.1241/johokanri.56.54ISSN 002172982022年6月9日閲覧