さそり座

さそり座
Scorpius
Scorpius
属格 Scorpii
略符 Sco
発音 英語発音: [ˈskɔrpiəs]、属格:/ˈskɔrpiaɪ/
象徴 the Scorpion
概略位置:赤経 16 hrs. 53 min. 15 sec.
概略位置:赤緯 -30° 44' 12"
正中 7月20日21時
広さ 497平方度[1]33位
バイエル符号/
フラムスティード番号
を持つ恒星数
47
3.0等より明るい恒星数 12
最輝星 アンタレス(α Sco)(0.91
メシエ天体 4
確定流星群 Alpha Scorpiids
Omega Scorpiids
隣接する星座 いて座
へびつかい座
てんびん座
おおかみ座
じょうぎ座
さいだん座
みなみのかんむり座
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さそり座(さそりざ、蠍座、Scorpius, Scorpio)は、黄道十二星座の1つ。トレミーの48星座の1つでもある。天の川沿いにある大きくて有名な星座である。日本では夏の大三角と共に夏の星座として親しまれ、南の空に確認することができる。天の川に大きなS字型で横たわっており、特徴的な形をしている。明るい星が多く、全天でも明るい星座の一つである。 α星のアンタレスは全天21の1等星の1つ。

主な天体[編集]

恒星[編集]

1等星のα星(アンタレス)のほか、δ星、ε星、θ星、κ星、λ星の5つの2等星がある。ヨハン・バイエルがさそり座γ星とした星は、現在はてんびん座γ星となっている。

以下の星には、国際天文学連合の恒星の命名に関するワーキンググループ (Working Group on Star Names, WGSN) によって固有名が定められている。

  • α星:二重星。A星のアンタレス(Antares)は、全天21の1等星の1つで赤色超巨星[2]。さそり座では最も明るく名の知られた恒星である。星座絵ではさそりの心臓部として描かれる[3]
  • β星:多重星。小型望遠鏡では、二重星に見える。Aa星はアクラブ (Acrab) という固有名を持つ[4]
  • δ星:2等星[5]。頭部に位置する。A星はジュバ (Dschubba) という固有名を持つ[4]
  • ε星:2等星[6]。ララワグ (Larawag) という固有名を持つ[4]
  • θ星:2等星で二重星。尾部に位置する。A星はサルガス (Sargas) という固有名を持つ[7]
  • λ星:2等星で多重星[8]。サソリの毒針の位置にある。Aa星はシャウラ (Shaula) という固有名を持つ。
  • μ星:肉眼で分離できる二重星で、μ1星はハミディムラ (Xamidimura)、μ2星はピピリマ (Pipirima) という固有名を持つ[4]
  • ν星:多重星。Aa星はジャッバ (Jabbah) という固有名を持つ[4]
  • π星:多重星。Aa星はファン(房、Fang)という固有名を持つ[4]
  • ρ星:多重星。Aa星はイクリール (Iklil) という固有名を持つ[4]
  • σ星:連星系で、Aa星はアルニヤト (Alniyat)という固有名を持つ[4]
  • τ星:A星はパイカウハレ (Paikauhale) という固有名を持つ[4]
  • υ星:レサト (Lesath) という固有名を持つ[4]
  • G星:中国・の時代の伝説的名臣の名前に由来するフーユェー(傅説、Fuyue)という固有名を持つ[4]

この他、以下の星がある。

  • ζ星ζ1(グラフィアス、Graffias)とζ2の見かけの二重星。
  • κ星:2等星[9]。ギルタブとも呼ばれる。
  • ξ星:グラフィアス (Graffias) とも呼ばれる。
  • ω星:ジャバト・アル・アクラブ (Jabhat al Acrab) とも呼ばれる。肉眼で分離できる二重星。
  • AH星:アンタレスと同じく赤色超巨星。アンタレスより光度は大きいが、アンタレスより遠距離にあるため双眼鏡を用いないと観ることが出来ない。
  • AI星おうし座RV型変光星
  • OGLE-2005-BLG-390L惑星が1つ発見されている天体。赤色矮星コンパクト星のいずれかと思われるが正体は不明。

星団・星雲・銀河[編集]

さそり座は天の川上にあるため、多くの星団を含む。

その他[編集]

由来と歴史[編集]

古代メソポタミアでは古くからS字を描く星の並びをサソリに見立てていたと考えられており、紀元前500年頃に制作されたとされる粘土板文書『ムル・アピン英語版』には、現在のさそり座の原型となるサソリやサソリの尾のアステリズムが見られる[10]

古くは現在のてんびん座の星々もさそり座に含まれており[11][12]てんびん座α星β星γ星の固有名に見られる「爪」を意味する言葉にその名残を見ることができる[12]

神話[編集]

ウラニアの鏡』に描かれたさそり座

古代ギリシア偽エラトステネースアラートスの伝えるところでは、英雄オーリーオーンをその毒針で死に至らしめたサソリが星座となったものとされている。女神アルテミスは、彼女を強姦しようとしたオーリーオーンに対してサソリを遣わして毒針で殺させたという[13][14]。ただし偽エラトステネースは、オーリーオーンの項目では「どんな野獣でも倒すことができる」と言い放ったオーリーオーンに怒った女神ガイアが放ったサソリ」としている[13]。このサソリの住処をアラートスやエラトステネースはキオス島としているが、ヒュギーヌスは(またエラトステネースも一貫せずオーリーオーンの項目では)クレタ島と言っている[13][14]。今でもオリオンはサソリを恐れて、東の空からさそり座が現れるとオリオン座は西の地平線に逃げ隠れ、さそり座が西の地平線に沈むとオリオン座は安心して東の空へ昇ってくるという[13]

帝政ローマ期の詩人オウィディウスは、アポロンの息子パエトーンが天をかける太陽の馬車を強引に運転した際、黄道近くにたむろして馬を驚かせたサソリであるとしている[3]

中国人は青龍にたとえた。この想像上の生物は、強力だが慈悲深く、天に現れることによって春を予告する。星との対応はさそり座のサソリとほぼ同じであり、頭部に房宿、心臓部に心宿、尾部に尾宿の3星宿を置いたが、青龍の二本のツノの一つはうしかい座アークトゥルス(大角星)、もう一つはおとめ座のスピカ(角宿)まで延びるとされた[15]。ベトナム星座では、房宿(さそり座π星などからなる)を冠に見立て、心宿アンタレスなどからなる)を丸い背中に見立てて、この二宿をあわせて神農Thần Nông)と呼び、社稷の神(穀物神)として尊崇した。

ニュージーランドに伝わるマオリ神話では、マウイがニュージーランドの北島を釣り上げた際に使った釣り針が天に引っ掛かったものとされている[16][17]

呼称と方言[編集]

理科年表では、1925年(大正14年)刊行の第1冊から1943年(昭和18年)刊行の第19冊までは「蝎」[18][19]、戦後の1947年(昭和22年)刊行の第20冊以降は「蠍」[20]の漢字表記を充てている。

日本では、さそり座のS字カーブを漁師の釣り針に見立てた地方名が複数の地域で伝わっている。また、アンタレスを挟むσ星とτ星、さそりの尾であるλ星とν星の組み合わせに対応する地方名も存在する。

出典[編集]

  1. ^ 星座名・星座略符一覧(面積順)”. 国立天文台(NAOJ). 2023年1月1日閲覧。
  2. ^ SIMBAD Astronomical Database”. Results for NAME ANTARES. 2013年1月14日閲覧。
  3. ^ a b 原恵『星座の神話 - 星座史と星名の意味』(新装改訂版第4刷)恒星社厚生閣、2007年2月28日、136頁。ISBN 978-4-7699-0825-8 
  4. ^ a b c d e f g h i j k IAU Catalog of Star Names (IAU-CSN)”. 国際天文学連合 (2017年11月19日). 2018年2月4日閲覧。
  5. ^ SIMBAD Astronomical Database”. Results for * del Sco. 2013年1月28日閲覧。
  6. ^ SIMBAD Astronomical Database”. Results for * eps Sco. 2013年1月27日閲覧。
  7. ^ SIMBAD Astronomical Database”. Results for * tet Sco. 2013年1月30日閲覧。
  8. ^ SIMBAD Astronomical Database”. Results for V* lam Sco. 2013年1月29日閲覧。
  9. ^ SIMBAD Astronomical Database”. Results for V* kap Sco. 2013年1月28日閲覧。
  10. ^ 近藤二郎 2010, pp. 74–75.
  11. ^ 近藤二郎 2010, pp. 72–73.
  12. ^ a b Ridpath, Ian. “Libra”. Star Tales. 2022年2月1日閲覧。
  13. ^ a b c d Ridpath, Ian. “Scorpius”. Star Tales. 2022年1月23日閲覧。
  14. ^ a b 伝エラトステネス『星座論』(3) へびつかい座・さそり座・うしかい座”. 2022年8月31日閲覧。
  15. ^ 野尻抱影 1977, pp. 114–115.
  16. ^ 野尻抱影 1977, pp. 120–121.
  17. ^ 南緯45度の星空案内人 第6回 「ニュージーランドの歴史と星空に欠かせない人物たち」”. AstroArts (2007年8月10日). 2022年2月1日閲覧。
  18. ^ 東京天文台 編『理科年表 第1冊』丸善、1925年、62頁。doi:10.11501/977669https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/977669 
  19. ^ 東京天文台 編『理科年表 第19冊』丸善、1925年、B21頁。doi:10.11501/1244806https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1244806 
  20. ^ 東京天文台 編『理科年表 第20冊』丸善、1925年、天24頁頁。doi:10.11501/1124208https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1124208 

参考文献[編集]

外部リンク[編集]

座標: 星図 16h 53m 15s, −30° 44′ 12″